第9話 日常に戻ったと思いきや?

 ART OUT 第9話


 トールのライブも終わり、俺たちは再び日常へと戻った……と思っていた。


 俺は最近、学校へ行くようになった。

 ルルのおかげってのもあるし、トールにああ言った手前、俺も頑張らないとなと思い始めたのだ。


 ——————————————————


 私は最近、毎日がとても面白くない。

 その原因は…アイツらだ。

 視線を教室にいる2人組に移す。


「ルルちゃん!今日もかわいいね!」


「ルルちゃん!これ貰ってください!」


「あ、あははみんなありがと。でも私、なんかしたっけ…?マスター?」


 ルルがマドカに首を傾ける。


「ルルが人気者なだけだよ。」


「うーん…。私なにもしてないんだけどな…。」


 そう、あの2人。

 1人はずっと不登校だったのに突然女を連れて来た男。諏訪マドカ。


 そして、本命の諏訪ルルだ。

 転校してきたと同時に男子達の注目を全て持っていった。


「笹木さん、おはよー!」


「おはよう。」


 私、笹木五月メイはこの学校1の人気者だ。いや、だったと言った方が良いのかもしれない…。


 男子は全員私の事が好きだったし女子だってみんな私に憧れてた。

 そんな私があんなぽっと出の女に負けてしまうなんて…。


「ルル…。私を超えるなんて許せない…。」


 いつの間にか私はどうやったらルルをトップから下ろし、また私が頂点に立てるかを考えていた。

 周りに集まる女子達に笑顔を振り向ける裏に…。


「こ、これだ!」


 私は作戦を練った。

 そして中々良い案が思いついたのだ。

 その作戦とは…。


「ルルの下駄箱に別の男子のシューズを入れる…。そうすればルルからの嫌がらせだと思う…!」


 実はこれ、とんでもない欠陥だらけの作戦だったとは今の私には知る由がなかった…。


 翌朝、私は作戦を決行するため、学校へと赴き、誰にも見つからないように適当な男子とルルのシューズを入れ替えたのである。


「これでまた私がトップに…!」


 我ながら姑息な手段だとは思うが仕方がないよね?

 と脳内で自己完結し、ふんふーんと鼻歌を歌いながら自分の席に着いた。


 しばらくして…。


「あれ?僕のシューズがないぞ!!」


 と声が聞こえてきた。


(順調順調…!)


 そして私は周りにバレないように自然とルルの近くに寄る。


「あれ?ルルちゃんの履いてるシューズ、もしかしたら丸太くんのじゃない?なんでルルちゃんが履いてるの?」


「およ?」


 私の言った言葉にルルは訳が分からなさそうに自分のシューズを見るため、机の下に潜った。


「あれ、ほんとだこれ丸太くんのだ!でもなんで私、丸太くんの履いてるんだろ?」


「ちゃんと自分のとこからとったのか?」


 マドカがルルに確認を取っているが、ルルはわからないと言っている。


(作戦は成功した…!)


 そして私は仕上げのため、考えてきたセリフを言う。


「まさか、ルルちゃん…。丸太くんにいやが…———」


「ありがとう!!」


「へ?」


 私のセリフは丸太のとんでもない声にかき消された。

 コイツ、今ありがとうって言った…?


「ルルちゃんが俺のシューズを履いてくれるなんて…。ああ、夢にも思わなかったよ……。」


「お、お前…。羨ましいぞ…!!!」


「クソ…おれだったらその権利を得る為に10万は出す!!」


 いや、コイツらはなに言ってるんだ…?

 ま、まさか…。

 ルルがシューズを履いたことに喜んでるのか…?


「丸太くん、ごめんね。シューズ間違えちゃって。」


 ルルが謝っていると、


「いやいやいやいやいや!!!こちらこそありがとうルルちゃん!!おかげで俺のシューズは一生ものの家宝になりました……。」


「え?家宝?」


「いえいえ、こちらの話…。ルルちゃんは気にしなくて良いからね!」


「よくわかんなけど、ありがと!丸太くん!」


 丸太はルルが履いたシューズを袋に入れて、後生大事そうにカバンへとしまいにいった。


(失敗…し、た…?」


 私は失敗してしまった。

 まさかここまでクラスの男子達がルルに心酔しているとは計算外だよ…。


「教えてくれてありがとね!メイちゃん!」


「う、うん。良いんだよ。」


 おのれ、見下しているのか…ルル…!


 そこから私は反撃を開始した。

 しかしその全てがかわされ、1週間が経とうとしていた。


「私じゃ…ルルに勝てないってこと…?」


 私はトボトボと廊下を歩きながら力なさげに呟いた。

 すると教室の方からなにやら話し声が聞こえる。


「なあ…。最近、笹木さんルルに付き纏っててウザくねえか?」


「わかるぜ…。過去の栄光にいつまでしがみついてんだか…。今度はルルちゃんに縋ろうとしてんのかって感じだぜ…。」


 あー、なるほど。

 私は最近、確かにルルに付き纏ってたかもしれない。

 だが、理由はルルに媚びようなんてのじゃない。

 それに私はお前ら変態に好かれなくても別に良い。


「そんなこと、知ったこっちゃない…。」


 構わず扉を開こうとすると、


「ルルちゃん!ちょっと良い〜?」


 とその男子どもがルルを呼び始めたのである。


(な、もしかしてルルに何か言う気…!?)


 私は扉を開く手を止め、中の声に耳を傾けた。


「なあ、ルルちゃん。なんか最近笹木さんにされてないか?」


「笹木って…メイちゃん?」


「そうそう。笹木さん、最近ルルちゃんに付き纏ってる感じがして、俺たちから見てもルルちゃんが迷惑してんじゃねえかなって思って。」


 なるほど、ね。直接ルルに言って言質を取って私になんかしてこようって感じかな。

 まあ、ハッキリ言えば迷惑に決まってる。

 私だって同じ事をされれば迷惑だって言うし。


(はあ〜…。ここで終わりかあ…。)


 私が心でため息をつくと、


「メイちゃんが迷惑?なんで?」


 とルルが簡単そうに言った。


「え?なんでってその…。」


「付き纏われてウザくないかなって…。」


 男子達も予想外な返答に言葉が詰まっている。


「メイちゃんはすっごい優しいんだよ!この前も私が課題に困ってた時に手伝ってくれたり、あとは荷物持ってる人の手伝いしてたんだ!」


 そんな事思っててくれたんだ…。

 確かに私は周りの評価を上げる為に手伝ったり、率先して何かやるようにはしてた。

 だけどそうな風に見ててくれたなんて。


「で、でもさ、それってただ良い人に見られたいが為かもしれないぜ?」


「そ、そうだよ。フリかもしんないじゃん?」


 そう、そっちが本音だ。

 その通りだ。


「うーん…。でもそれってすごくない?人の為に何かしてあげるって理由がなんであれ、すごい難しいと思うんだ。だからメイちゃんは優しい良い人だと思うよ?私は尊敬するなあ…。」


 ルルの言葉。ルルの言葉を聞き、私はなぜだか心が温かくなった。

 今まで私はルルをトップから引きずりおろそうと必死だった。

 だけど…ルルは違った。

 こんな私の良いところを見てくれていたなんて。


「ああ…私ってバカだな…。」


 私は扉を開き、足を踏み入れた。


「あ…笹木さん…!」


 私が入ってきたのを見て男子達は固まっている。


「メイちゃん!おはよう!」


「おはようルルちゃん。そこのみんなもおはよう。」


 黒い髪をなびかせ、私は素晴らしい程の笑顔を彼らに見せた。

 かつては学校1と言われた私の笑顔。

 男子どもはさっきの言葉とは裏腹に顔を少し赤くした。

 都合の良いヤロウどもだ。


「な、なあ。笹木さん。あんまりでしゃばらないほうがいいぜ。もうルルちゃんに付き纏うのもやめろよ!迷惑だぜ!」


 突然、男子の1人が私の体を突き飛ばし、叫んできた。

 私はいきなりの事にバランスを崩して地面に転げそうになる。


(これがバカな事してた私への罰ってことね…)


「…?」


 しかしいつになっても転ばない。

 衝撃の体に私を包んだのは柔らかく温かい感触だった。


「大丈夫?メイちゃん?」


「る、ルルちゃん…。」


 ルルは私に笑顔を向けると男子達の方に視線を移した。

 その顔は…初めて見たものだった。


「ねえ、これ以上するなら私も怒るよ。」


 とてつなく冷たい目。

 それは私でさえも怖いと感じた程のルルの怒りであった。


「ひ、ひいい!!ごめんなさい!」


 男子達は一目散に逃げていった。


「トールみたいにしようと思ったらちょっとびっくりさせすぎちゃったかな…?

 あ、メイちゃん!怪我とかない?」


 もう1度私を見たルルの顔はいつも通りの溢れんばかりの優しい顔だった。


「う、うん。ルルちゃんのおかげで助かったよ…。」


「そっか!良かったあ!」


 ルルは安堵して私を下ろしてくれた。


 もう少しいたかった…なんて思ってしまう自分がいた。

 正直、さっきは怖かった。

 突然男子達に叫ばれ、突き飛ばされた。

 生まれて初めて恐怖さえも感じた。


 だけど…。だけどルルの腕の中はそんな事忘れてしまうぐらいに優しかった…。


「メイちゃんが気にする事じゃないよ!大丈夫!」


 私の不安げな顔を見て察してくれたのだろうか女神のような顔で微笑んだ。


「っ………!!ありがとう…ルルちゃん…。」


 心臓のドキドキが止まらない。


 私、笹木五月メイはこの瞬間、ルルに恋をしてしまった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る