第8話 トールとマドカ
ART OUT! 第8話
ライブも終わり、人の数もまばらになってきた頃。
俺たちは特別にトールの楽屋に入れてもらった。
「トール!!すごかったよ!!」
ルルとアスカが感想を言っている。
しかしトールはライブ後なのもあって少し疲れている様子だ。
「トール、お疲れ様。ライブすごかったよ。」
俺とエイはトールの様子を察して言った。
「私も同感です。本日は有難うございました。ゆっくりしてくださいね。」
エイはそう言うと俺に少し頭を下げいなくなった。
「マスター、ありがとう。私のライブどうだった?」
「すげえ良かったよ。歌も踊りもカンペキだったし本当にすごいな。」
「へへ…。」
ガチャ。扉が開いた。
「へへっ…じゃないですよトールさん?」
部屋に入ってきたのはトールのマネージャーのエリさんだ。
エリさんはにこやかな顔でトールの顔を覗いた。
「え、エリちゃん…。その話はさっきも聞い……———。」
「アドリブであんな事するなんて大変だったんですよ!?内容が内容だし1歩間違えれば炎上もありえたんですからね…!」
「う…うう…ごめんなさい…。」
トールが一瞬で泣き顔になった。
エリさんはふっとため息をするとはにかんで笑った。
「でもね。」
トールが顔を上げる。
「それを帳消しにするぐらい素晴らしいライブでしたよ。私はあなたのマネージャーになれて幸せです!」
「エリちゃん……。」
「それに…。」
エリさんはチラッと俺の方を見た。
「想いを伝える事もできたのでしょう?あの時のあなたの顔、輝いてましたからね。」
エリさんはトールの頭をぐしぐしと撫でる。
「エリちゃん…!ありがとう…!」
「いいえ、こちらこそですよトールさ…いえトールちゃん!」
エリさんが俺の方にウィンクした。
俺は2人のやり取りを見てなんだか心があったかくなった。
俺の場合でいうルルのように、トールはエリさんに出会えたんだなあ…と思うとすごくホッとする。
「エリさん…。本当に本当にありがとうございます…!!」
「良いんですよ。これがマネージャーの仕事ですから!」
メガネをクイっとあげるエリさんを見て俺は少し微笑んだ。
「マスター、私の気持ち、伝わった…かな?」
しばらくしてトールが遠慮がちに聞いてきた。
「もちろんだよ。トールのライブを見て俺、少し自分に自信ができた気がするよ。だけど俺ももっと頑張らないとなって思ったんだ…。トールに負けてらんないしな…!」
俺がふっと笑いながら言うと、
「もう…。ボクがマスターに勝てるわけないじゃん…。」
「じゃあさ、お互い負けないように一緒に頑張ろう!」
俺はトールの前に手を出した。
「うん…!マスター!!」
俺の差し出した手は完全に無視され、トールは俺の胸に飛び込んできた。
「わっぷ…。トールびっくりするだろ…?」
「へへ…。マスターにくっついてると安心するんだ…。」
トールはより俺にくっついてきた。
「と、トール…。やめ…。」
「なんでぇ…。マスター…。私じゃイヤ…?」
トールが耳元で話す。
これは完全に弄ばれてるな…。
「い、いやっもちろん嫌じゃないけど…その…。胸が当たって…。」
「へ?胸?」
トールは自分の体を見ると顔がみるみるうちに赤くなっていく。
しかし今は珍しく自分が優位に立てていることを思い出し、この状況が羞恥に勝った。
「な…なあに…マスター…?もしかして意識してる…の?」
「あ、当たり前だろ…?だってトールすげえかわいいし。」
「…!!!」
トールの顔が更に赤くなっていく。
その顔は薄桃色の髪よりも真っ赤だ。
「ま、マスターはそゆとこハッキリ言うよね…。」
「?当たり前だろ?トールはほんとにかわいいじゃん。」
「す、ストップストップ!ありがとうマスター!!」
そう言うとトールが離れていった。
顔はとんでもなく赤い。
「あんた達、なああにやってんの?」
途中、アスカからの怖〜い視線を浴び(主に俺にだが)俺は肝を冷やしたのである…。
ついに時間がやってきた。
俺たちは最後の挨拶をする事になった。
「マスター…。ボクね、アイドル頑張ってみようと思うんだ。ボクにはこれくらいしかできる事ないし…。アイドルならマスターにも元気お裾分けできるかなって…。だからね…ボク頑張るよ!」
「うん、トールなら絶対やれるよ!俺も応援してる!」
「トール!頑張ってね!私家で見てるよ!」
「そ、その…。私もトールちゃん大好きで会えたのが本当に嬉しかったです…!!」
各々がトールに感想と応援を伝える。
アスカすらも、もじもじしている…。
恐るべきトールである。
「それじゃ俺らは行くよ。」
「マスター!時々遊びに行っても良いかな?」
「うん。いつでも来て良いよ………あ、いやえっと、仕事が空いた時になっ!」
いつでも良いと言いそうになったらトールの横にいるメガネの人からの視線が怖すぎたので訂正しておいた。
「いつでも!?ありがとうマスター!頑張る!」
俺はエリさんにとんでもないくらいに睨まれたのを背にクールに去るとしよう…。
そうして俺たちは大イベントであるライブを終え、日常に戻るのだった…。
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