第2話 ''A''

 Art out! 第2話


 今、俺とルルは恐ろしい怪物に追いかけられながら街を駆けている。

 甘かった…。漫画の世界から現れたのはルルだけではなかったのだ…。


「る、ルルー!!」


「はーい!任せてマスター!」


 ルルの元気な声にとても安堵する。

 ルルが後ろを振り向き、怪物に近づいていく。


「てい!」


 パンチ一発で怪物の巨体を吹っ飛ばし倒してしまう。

 またも俺の盛った設定に助けられた…。


「ふー…。ありがとうルル…、また助けられちゃったな…。」


「これぐらい任せてよマスター!それにすごい楽しいよ?」


 実際、俺も彼女と過ごす毎日はとても新鮮で楽しい。

 少し騒がしいが起こる出来事1つ1つに色んな発見も得られるんだ。


「うん…!ありがとうルル。」


 しかし…。俺には不安があった。


(この世界に来ているのはルルだけじゃない…。もし俺の漫画のキャラが現実にいるとしたら…)


 だが、しばらく経った今も何も起きていない。

 心配しすぎかもしれないな…。


 ルルと家に帰ると、良い匂いが部屋から漂ってきた。


「今日のご飯はなにかなっ!」


 ルルがウキウキしながらリビングに入っていく。


「あ、おかえり2人とも!もうご飯できてるよ。」


 キッチンに立つのはエプロンをつけたアスカだ。アスカが料理を作りルルが食卓につく。

 この光景にも慣れたものになっていた。


 だが、''あの時''以来、アスカはルルに少し注意している。その出来事とは…。


 学校に転入してきた際に、クラスのみんなの前で堂々と俺のお嫁さんになると宣言したからである…。

(後に騒ぎになったのは言うまでもない…。)


「おおー!良い匂い!今日は何ー?アスカ!」


「今日はね〜、カレーだよ!」


 しかしアスカはそんなルルにも優しく接してくれている。

 ありがたいかぎりだが俺にももう少し優しくしてくれても良いんじゃないかなと思ったりもする…。


「アスカのカレーはな、めちゃくちゃ美味しいんだぞ。」


 俺が褒めるとアスカの顔が少し赤らむ。


「ば、バカなこと言ってないで早く食べなよ!」


「いただきまーす!」


 ルルと一緒に手を合わせてカレーを食べ始める。

 俺の前評判通り、その味はとても美味しい。

 正直店に出せるのでは?というレベルにまで到達していると思うほどだ。


「んん〜!アスカ!美味しいよ!」


「ふふ、ありがと。」


 しばらくしてカレーを食べ終わりソファでくつろいでいると…。

 俺は何かを感じ取った。

 様子を見るにルルも気づいただろう。


「る、ルルこれは…。」


「うん…。誰かの殺気だよ…。しかも物凄く強い…。」


 俺たちは立ち上がり玄関へと向かう。


「アスカ…。絶対に外に出ちゃダメだ…。家の中に居てくれ。」


 俺が一言言うとアスカが問う。


「きゅ、急にどうしたの、?」


 ルルも手を合わせて頼むとアスカは渋々と頷く。

 それを見た俺とルルは外に出た。



 殺気の正体は…。

 黒い服を見に纏い、美しい銀髪をなびかせた少女、だがその眼は恐ろしく冷たいものだ。

 そう、彼女こそ俺の漫画のキャラ…。

 ''人造人間A''だ…。


 その冷たい眼をゆっくりとルルから俺へと視線を移す。


「…。あなたがマスターですか…?」


「そうだ…。俺がマスターだよ…。」


 Aの問いに答える。俺の額に一粒の汗が流れる。



「そうですか。ではマスター、あなたに問います。何故私は造られたのですか?ずっと1人で殺してばかり。私はもう…嫌になってしまったのです…。」


 彼女に組み込まれるプログラムが発動する。

 それは''自分より強い者を殺し、力を高める''

 というものだ。

 プログラムが俺に大して動き始める…。


「マスター、あなたを殺せば私は自由になれますか?」


 その言葉を境にAが俺に攻撃を仕掛けてくる。


「マスター!私の後ろに下がって!」


 ルルが俺の前に飛び出し、Aの攻撃をガードする。

 しかし…まずい…。ルルは強い…強いがAはそれ以上に強いのだ…。

 今もAの攻撃を捌いているが段々と押され始めている。


 だが、俺は見たのだ。

 戦っている時のAの顔を。


「なんて、なんて寂しそうな顔をしているんだ…。」


 Aは悲しみが溢れそうな顔をしている。

 Aを悲しませているのは紛れもない、俺だ…。

 その事実に俺の胸がぎゅっと締め付けられる。


 しかもこのままじゃルルの身も危ない…。

 俺は意を決してAに呼びかけた。


「A!!さっきの君の問いに答えるよ!」


 Aは静かに戦いの手を止め俺の方を向いた。

 相変わらず眼はとてつもない冷たさで俺の心を貫こうとしている。


 Aはまだ漫画で登場して間もない、言わば描きかけのキャラだ…。

 だからこそ今から、俺がAを救わなければいけない……!!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る