第3話 君の心

 ART OUT!第3話


「今更何の用ですか?あなたは私を殺戮マシンに出来て満足でしょう?」


 Aは冷ややかな口調で俺に言い放つ。

 だがそのAの言葉に俺は反論する資格などない…。


 ルルが俺を庇うように前に立つが俺はそれを止める。


「マスター…。大丈夫?」


「うん。それよりルル…。俺の為にありがとう…。後ろで休んでてくれ…。」


「ありがとう…。強いねAちゃん…。」


 俺は頷き、Aの方に向き直す。


「A…。聞いてほしいんだ…。」


 Aの凍てつく視線が俺を突き刺す。

 だがここで怯んでしまえば、俺は彼女を救えない気がする…。


「俺は…君を通して皆んなに知って欲しかったんだ…。1人の辛さを、1人の寂しさを…。

 だけど俺は…、途中で君の扱いに困って結局1人ぼっちにさせてしまった…。俺に…力がないからだ…。本当にごめん…。そしてこれだけは言わせてほしい…!」


 俺の言葉にAは徐々に顔を歪ませていく。

 眼には涙さえ少し流れている。


「何を今更…!あなたに…あなたに1人の辛さが分かりますか…!?」


 Aは俺に先程ルルに放っていた攻撃を数発放ってきた。

 俺は襲い掛かる凄まじい痛みを耐えながら彼女の近くにゆっくり、ゆっくりと一歩一歩確実に近づいていく。


「ま、マスター!!」


 ルルが後ろから声を上げた。

 しかし俺は後ろを振り向き大丈夫だと合図をする。


 そして…。Aの前に立つときには俺の体は見るも無惨にボロボロになっていた。

 顔や腕からは血が流れ、激しい激痛が常に体を行き交っていた。

 Aは俺のその姿に、少しだけ恐怖したのかもしれない。


 後ろにたじろき俺の顔をまじまじと見てくる。

 これは俺の、描き手としての勝手な考えだが、きっと今まで自分の攻撃を受けて尚、近づいてくる者など存在しなかった為,現状が理解できていないのだろう。


 たどり着いた俺はAの肩を引き、抱きよせる。


「…!?」


 Aは俺の腕の中で離れようと必死にもがいている。

 Aは戸惑っているのだ。

 生まれて初めて感じたこの感触…。

 人の温もりを…。

 だが俺は絶対に離さない。

 ここで離してはダメだと分かっている…。


「君は1人じゃない…!いや、俺が1人にさせない…!ルルだって他のみんなだって、みんなが君の味方だよ…!!」


 ''1人じゃない''この言葉がAの中で何度も繰り返し再生された。

 それは…Aの中で何かが動くような…。

 それは物語が進むような…。

 それは空白が埋まっていくような…。


「嘘だ!!」


 だがそれと同時にAの中でそれを否定する感情も大きく存在した。


「私の味方ならどうして今まで1人にしたのですか…!!私は、私はこんなに辛かったのに…どうして…!」


 Aの攻撃を一身に浴びながら言葉を聞く。

 そして俺は力を振り絞り声をだす。


「ごめん…。それは全部俺のせいだ…。本当にごめんよ…。だけど、君たちの''マスター''として言わせてくれ…。」


 俺はAの目を見て言った。


「絶対に君を…!幸せにしてみせる…!」


 その瞬間、Aの物語が進んだような気がした。

 それは…空白だったページが埋められているような感じだ…。


「君はもう''人造人間A''じゃない…。これからは1人の人間''エイ''だ…!」


 エイは俺の言葉を聞き涙を流している。

 エイの眼はさっきまでの冷たさは心なしかあまり感じない。


「た…単純すぎます…よ…。」


 エイはがまた腕を振り解こうとする。

 しかし先程のように無理やりじゃない。

 優しくだ。

 それにエイの顔は、どことなく温かみを感じられた。


 そのことに気付き俺はエイを止めなかった。


 腕から出ていったエイはどこかへ消えていった。

 俺は…改めて自分の技量の未熟さを痛感した。


(そうだ…。俺のせいでエイは辛い思いをしたんだ…。俺はもっと責任を持たないといけない…)


 彼女を、エイを守ろう。

 そう俺は決意した。


「やっぱりマスターは…流石だね…!」


 後ろからルルが褒めてくれた。

 近づいてきて俺の体の傷を治癒魔法で治してくれている。

 じんわりと体が暖かくなり傷が治っていく。


「ルル…俺のせいでごめん…。」


「マスター…?全部自分のせいにしちゃダメだよ?それに私はさ…。かっこいいマスターが見れて嬉しいんだっ!」



「か、かっこいい?」


 ふふっとルルが笑う。

 そう言う彼女の胸は少しだけ高鳴っていた。



 ———————————————


 日は暮れ辺りは夜となる。

 ネオンが照らすビルの上にエイが腰掛けている。

 彼女は自分の胸に手を置く。

 その胸からは、トクン…トクン…と規則正しく鳴る安らかな心音が聞こえる。


 今までは聞こえなかった音。

 エイが初めて聞く音だ。


 しかしその心音が一瞬だけ早まった。


「単純…すぎますね…。」


 彼女の顔がすこし綻んだ。




 マドカは漫画を描いていた。

 彼が描いているページにいるのは……。

 幸せそうな笑顔を浮かべているエイだった。





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