俺の漫画のヒロインがかわいすぎて、''ART OUT''かもしれない件について!

キノ

第1話 出会い

 ART OUT!(あーとあうと!)


 夜、俺は必死に机の上でペンを走らせていた。

 部屋に響くgペンの音、俺が描いてるのは…


 ラブコメだ。



 光が差し込み、朝を迎えた。

 しかし何か違和感を感じる。

 眠い目を擦り、自分の布団をめくってみると…。

 誰かが…居た。


 朝日を受け煌めく長く美しい水色の髪、少しあどけなさの残る幼い顔立ちに似合わぬ大きめな胸、見事な曲線を描く綺麗なくびれ…。


 そう、それは…幾度となく想像し描いてきたもの…。

 俺の漫画のヒロインだ…。


「る、ルル…?」


「…ふぇ…?ますたあ…?」


 眠い目を擦る。

 先程俺も行った事だが、やる人間によってこうも変わるとは…。

 自分で描いた通りの美貌に思わず息を呑んでしまう。


「ルル…?な、なんで君がここに…?」


「へへえ…。ますたーに会いたくなっちゃって…。来ちゃった!」


 そう言ってルルは、はにかんで笑った。

 か、かわいい…。


「そ、そうなんだ。まさか来れるなんて思ってなかったよ。」


 自分が描いた漫画のキャラと話してる。

 なんてこれじゃまるでヤバい人だが、しょうがないじゃないか…。


 目の前にいるのはとんでもない美少女、しかも自分が思い描いてきた姿そのままだ。

 抵抗できる人なんて居ないよな…。


「頑張ってきたんだ!すごいでしょ!」


「凄すぎて俺はまだあんまり追いつけてないよ…。」


 俺は窓の方に向かった。

 この状況を誰かに見られたらマズイ…。


 カーテンを閉めようとした矢先、一番見られたら不味い人に見られていた…。


「あ、アスカ…。」


 隣に住む幼馴染である。


 様子から見るにきっと大分前から見ていたのだろう…。

 アスカは俺と目が合うとすぐさま姿を消した。

 マズイ、これはきっと……。


「ちょっと!!マドカ!!どう言うこと!?」


 時すでに遅し…。

 部屋の扉が勢いよく開き、アスカが入ってきた。

 その顔は「誰だそいつ!?」と書いてあるといわんばかりである。


「いや、そのこれには深い事情が……。」



 ''俺の漫画のヒロインが現実にきた''


 なんて言っても信じてくれるはずないし、言ったら俺に向けられる目は疑いから嫌悪に変わるだろう…。


「マスター!」


 ルルが俺の手を取った。


「ルル、なにする——」


 ルルはまるで「私に任せて安心して!」と言わんばかりの眩しい笑顔をしていた。

 俺はその顔を見たらなんだか安心してしまった。

 ルルの手を強く握り返す。


 ルルは俺の手を引いて窓の方に向かっていく。

 途中、着ていたゆったりとしたパジャマが、普段着に変わっていく。


「ちょ、ちょっとマドカ…!?」


 俺たちは空に飛び出した。

 ルルに触れていれば空を飛べる。

 ラブコメだが設定を盛りに盛っていた事にこんなところで感謝する事になるとは…。


「すげえ…。俺、初めて空飛んだよ…。」


「きもちーでしょ!」


 俺は頷き、空から街を見渡す。

 なんか、言葉では言い表せないがすごい。

 神様にでもなった気分だ。


「マスター、なんでそんな暗い顔してるの?」


 空中をゆっくりと飛んでいるとルルが俺の顔を覗き込みながら聞いてきた。

 その理由を口にするのは…少し怖かった。

 だがルルを見ていると、不思議と勇気が湧いてくるような気がする。


「その…あんまり面白くないけど聞いてくれるか…?」


「うん!もちろんだよ!」


 俺の心配にルルは満面の笑みで返してきた。

 やっぱり俺の描いたキャラは可愛いな…とか思いつつ俺はぽつりぽつりと話し始める。


「俺は元々明るい性格じゃなくて友達とかいなかったんだ。だから学校でもいつも1人で…すぐに学校にも行きたくなくなった。だけどアスカだけは俺と話してくれる、すごい感謝してるんだ。」


 ルルは相槌を打ちながら聞いてくれる。


「そんな俺もすげえハマった事があるんだ。漫画を描く事だよ。けど、その漫画も頑張って描いて持ち込みしても結果はダメダメ…。俺にできる事なんてあるのかなって思って…。自分には才能なんてないなんて思ったら、最近は毎日が、生きるのが辛いんだ…。」


 手が震えてる。きっとルルにも伝わっているはず…。

 しかしルルは黙ったままだ。


「ごめん、こんな話聞いてもつまんな——」


 俺の話を遮り、ルルが俺に抱きついてきた。

 その身体は細く、柔らかく、そしてなにより暖かかった。


「マスター、マスターはすごいよ…?だって私を見てよ、魔法だって使えちゃうし空も飛べちゃう。すごいでしょ?」


 そう言いながらルルは片方の腕を俺に回し、もう片方の手でポッと炎を出した。


「でも私を生んでくれたのはマスターだよ?マスターってすごいじゃん!それに私だけじゃなくてルルの世界にはもっともっとすごい人達がいっっぱい居るよ!それにマスター、描くのやめずに毎日描いてくれてるじゃん!それってさ、すごいんだよマスター!」


 ルルは輝くような笑顔で俺に言ってくれている。

 今までの悩み、辛さがこの一瞬で嘘のように消え去っていくのが分かる。

 彼女の笑顔にはそういう能力があるのかもしれない。


 いつのまにか俺の顔には溢れんばかりの涙が流れ落ちていた。


「ルル…おれ、おれ、これからも胸張って生きても良いのかな…?」


「当たり前じゃん、それに辛かったらルルがいるよ。」


 ルルは俺を抱きしめ、耳元で優しくそう言ってくれた。

 心が暖かくなるのを感じる…。


「ありがとう…。俺、頑張る、頑張るよ…。」


 涙を堪え、かろうじて出た声で言う。


 すると俺の頬に暖かく柔らかい感触が伝わる。


「それでこそ私たちのマスターだね。」


 ルルが俺の頬に———キスをしたんだ…。


 一気に顔が赤くなっていくのを感じる…。

 そして熱い。


「る、るる、ルル、今…?」


 めちゃくちゃに動揺する俺にルルは優しく微笑むだけだった。


 その顔は…とても可愛かった。



 しばらくの空中遊泳を2人で楽しんだ。

 ふと俺の頭に1つの心配がよぎった。


「あ…、アスカの事…どうしよう…。」


 先ほど言った通り漫画のヒロインとは言えない。

 どうしたものかと頭を抱えていると


「ふっふーん。私に任せてよマスター!」


 とルルが自慢げに言うので任せる事にする。


 部屋に戻ると何が起こったか分からない顔をしたアスカが目に入った。

 そこにルルが手をかざし、


「フォル〜ゲット!」


 と一言呟くとアスカはパチンっと音と共に目が少し虚になった。


「これでオッケー、大丈夫!」


 ルルがグッドサインを送ってきた為部屋にはいる。


 するとアスカが俺に


「もう!幼馴染が越してきたんなら私に言ってよね!びっくりしたじゃん!」


 と言ってきた。

 どうやらルルは久々にこっちに引っ越してきた幼馴染と言う設定らしい。


「ごめんごめん、ちょっとバタバタして忘れちゃってて…。」


 俺は謝りアスカの前に頭を下げる。

 アスカは少し訝しげな表情をするも納得してくれたらしく、


「学校行ってくるからね!」


 とカバンを持って部屋から去っていった。


 俺とルルは顔を合わせてニヤッと笑い、コツンと拳を合わせた。


 ———————————————


 通学中のアスカ…。彼女の内心は穏やかではなかった…。


(ま、マドカに幼馴染がいるなんて…。しかも同居…!?どうしよう…先越されちゃわないかな……どうしようどうしよう…!)


 彼女もまた、マドカに思いを寄せていたのだ。



 一方その頃街では………。



 警察に囲まれる1人の少女がいた。

 彼女の足元には大勢の人が倒れている…。
















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