第13話

「ほれほれ〜!! 走れ走れぇい!!」

「はぁ……はぁ……」

パカラッ!

パカラッ!

ガラガラガラガラ……


フェリスさんが頼んでくれた馬車がやってきた。

しかし、俺は馬車に乗っていない。

乗っているのは、ヘンサッチとフェリスさん、それからよくわからない荷物だ。


エイハンを含めた他の兵士たちはみんな馬に乗って移動をしている。

つまり、俺だけが走っているということだ。


「ハハハ!! 見ろ!! 苦しそうだぞ!!」

「はぁ……はぁ……」

俺の手に繋がれた鎖は、馬車に引っ張られている。

馬と同じ速度で走り続けなければならない。


しかし、実は全然苦しくない。

ヘンサッチは変態野郎で、俺が苦しそうに走るのを見たいようだ。

ぶっちゃけ苦しくないのだが、それがバレると速度を上げられるだろう。

だから、苦しそうに走っている。


しかし、肉体強化レベル20はとんでもないな。

これなら馬なんていらないわ。


「魔物です!!」

エイハンが叫ぶ。

「チッ……つまらんな……止まれ」

「はぁ……はぁ……」

兵士たちと馬車が止まり、魔物を殲滅し始める。

この間俺は待機だ。


そして、俺が休んでいるのが気に食わないのだろう。

嫌な感じの目つきでヘンサッチが俺を睨む。


兵士たちの動きが遅く見える。

肉体強化レベル20ならば、兵士たちを倒すことができそうだ。

しかし、エイハンは無理だ。

こいつだけやたらと強い。

肉体的には同じくらいの強さだろうが、武具とその扱い的に無理だろう。

そして、今ならわかるがボーダーはさらに強いな。

今すぐヘンサッチをぶちのめしてやりたいが、ここは我慢だ。


「おい!! 休んでしまうだろうが!! さっさとしろ!!」

「はい!! ただいま!!」

エイハンは懸命に戦いながらも返事をする。


「ったく、これだから下民は……」

下民?

こいつら兵士にも身分があるのか?


エイハンはこの中では圧倒的に強そうだが、身分が低いのだろう。

他の兵士よりも扱いが雑だ。

不満はないのだろうか……


□□□


今日は3つのゲートを破壊できた。

馬車が手に入り、そして俺の肉体レベルが上がったことで、かなり遠いところのゲートも破壊できたのだ。

「お疲れ様です」

フェリスさんが労ってくれる。

「いや、実はそんなに疲れてないんですよ」


「そ、そうなんですか?」

「はい。魂を使って、昨日のうちに肉体強化をしていたんです。

 だから、今日は走り回った割にそんなに疲れてませんね」


「それは素晴らしいです!!」

フェリスさんは両手を握りしめ、こちらに尊敬の眼差しを向けてくる。

む、むむぅ……

ムラムラしてしまうではないか!!


「あの、この世界の身分制度ってどうなってるんですか?」

「申し訳ございません。私も人間の身分制度についてはあまり知識がありません。

 ただ、この国『メージス』はかなり厳しい身分制度があるようですね」


「え? 『メージス』? すみません。

 今更なんですが、この国は『メージス』って言うんですね」

「す、すみません。説明不足で……」


「ということは、メージスの一部をエフラン、その部下のボーダーが治めてるってことです?」

「はい。おそらくそうだと思います」


「なるほど。メージスはそれなりに大きい国ってことですかね?」

「はい。今この大陸は『メージス』『ホッセイ』『ブルガー』『センタル』の4つの大国が争っている状況です」

「最悪ですね……」

うげぇ……

四カ国の戦争とか地獄じゃねぇかよ。


「ただ、現在は比較的安定しているようです。

 いずれも国境付近はゲートが多くありますので」

「なるほど。ゲートがあって統治できない土地が国境になってるってわけか……」


「それって……」

まずくないか?

「俺のせいでバランス崩れません?」

「可能性はあります」

マジかよ。

なんか簡単に動けそうもないな。

とりあえず、兵士たちが魔物を退治してくれるし、このまましばらくは魂を集めて強化して行くしかないな。


「にしても、俺がこっちの世界に召喚されたのって偶然なんですか?」

「いえ。選ばれたのです」

え?


「選ばれたって……誰に?」

「誰かに、ということではないのです」


「どういうことです?」

「言い伝えでは、使命を持った者が召喚されるそうです」


「使命?」

マジかよ……使命とかめんどくせぇな……

「そうです。勇者様は強い意志を持っているのです」


強い意思?

そんなのは持ち合わせてないぞ……

フェリスさん、なんか勘違いしてないか?


「俺は、そんな意思持ち合わせてないと思うのですが……」

「いいえ!! 勇者様は素晴らしいお方です!!」

フェリスさんがまっすぐこちらを見てくる。


む、むむぅ……

ムラムラしてしまうではないか!!

ムラムラしてしまうではないかぁ!!

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