28話 お泊まり会?
大学の前期日程が終わると、長い夏休みに入る。
高校までは夏休みなんてあってないようなものだと思っていたが、大学生は2ヶ月も夏休みがあるため、少し困惑してしまう。
気分はまさに、エサを死ぬほど与えられた猫の有名な映像みたいな気分だ。
高校までのオタク気質な俺だったら間違いなくネトゲとアニメを部屋で観ているだけの生活を送っていただろう。
もう陰キャには戻らない。だって今の俺には——。
「お昼ご飯ができたよ?」
「あ、ありがとう」
毎日エプロン姿の崎宮さんが部屋に来てくれるから。
ガスと水道を貸す代わりに炊事と洗濯をやってくれる崎宮さん。
女子にこんなことしてもらえるなんて、なかなかない。
「風切くん、いっぱい食べてね?」
「う、うん」
今日のお昼は冷やし中華。
崎宮さんの繊細な包丁さばきでカットされた具材たちが目の上に散らばっている。
「美味しそう……いただきますっ!」
「もう風切くんったら、がっついちゃって。子供みたい」
崎宮さんは母のように慈愛に満ちた笑顔で俺が食べている様子をまじまじと見ていた。
半同棲生活も始まってもう2週間が……ん?
もう2週間も経つ、よな?
月も跨いだし、そろそろ崎宮さんも自分の部屋でガスと水道を契約しても良い頃合いだと思うが。
「さ、崎宮さん。そういえばガスと水道の件なんだけど」
「あ、わたし今日この後バイトだった。ごめんね風切くん、お皿洗いお願いしてもいいかな?」
「え、う、うん」
崎宮さんは急に慌てた様子でカバンを手に取ると、ピンク髪をゆらゆら揺らしながら部屋を出て行った。
はぐらかされた? 気のせいかな?
でも、バイト……か。
夏休みにバイトを始めようと思っていた俺だったが、最近は崎宮さんが家に出入りしていたり、清水に絡まれたりしてそっちのことを考えてる余裕がなかった。
「崎宮さんみたいにスノトで働くってのもな……俺の場合は顔面接で落ちそうだし」
じゃあ日向や矢見さんに相談してみようかな……それか東雲先輩か。
『ピンポーン』
ダラダラと考えていたら、突然ドアベルが鳴らされた。
ああ、amasanで頼んだ荷物が来たのか。
「はーい……って」
配達員がいると思って玄関から出ると、そこには。
「ご機嫌よう。風切さん♡」
黒の地雷系ファッションをした清水神奈子がいた。
「き、清水……今日引っ越しだったのか?」
「ええ。家具などは業者に頼んでおいたので、お隣の風切さんへご挨拶に伺いました。それより崎宮さんはご一緒じゃありませんの?」
「えっと……まぁ。バイトとかで」
「ふっ……それはちょうどいいですね。それでは今晩、さっそく約束のお泊まり会をしませんか?」
ま、マジかよ……!
約束のお泊まり会、本当にやるんだな。
いずれやるなら……今やっておいた方がいいよな。
ちょうど片付いてるし、崎宮さんが頻繁に入るからやましいものもないわけで。
「わ……分かった。でも、崎宮さんに一言連絡してもいいか?」
「構いませんわ。お二人は半同棲してるんですものね?」
「お、おう」
だが、この連絡をしたことでさらに厄介なことに発展してしまう……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます