27話 危険な約束


 崎宮さんとメイド喫茶を出て、マンションへ向かう帰り道。


 崎宮さんと一緒に帰る時間は、少しだけ気まずい感じがして、言葉が出て来なかった。


 何から話すべきだろう。

 清水となぜあんなことになったのかは話したけど、ご奉仕(オムライスあーん)をされたのは事実であって。


「あ、あのさ、崎宮さ——」

「ねえ風切くん。今後も家族共有は切らなくてもいいよね?」


 俺が話しかけようとしたら、崎宮さんに遮られてしまう。


「う、うん……でも、俺からも崎宮さんの位置情報とか分かっちゃうけど大丈夫?」

「もちろん。むしろ……」

「むしろ?」

「ううん、なんでもないよっ」


 崎宮さんは肩に流れるピンク髪を弄りながら、照れくさそうに言った。


 笑顔で言ってるけど、本当は嫌なはずなのに……崎宮さん、優しいな。


 俺も位置情報くらいなら崎宮さんに見られても問題ないし、やましい事はない。

 変な店とかにもいかないし。


「そういえば清水、再来週くらいに俺の部屋の隣に引っ越しで来るんだって」

「は?」


 急に低い声で応える崎宮さん。

 え、え?


「ちょっと風切くん、それ本当?」

「う、うん」

「……ふーん。そうなんだぁ」


 ニヤリと笑いながら、目つきは鋭利になる。


 少し怒り気味にも思えるその反応に俺は嫌な予感がした。


 まさか崎宮さん……清水が引っ越して来るのはあんまり嬉しくないのか?

 さっきの会話といい、清水とはあんまり仲が良さそうには思えなかったし……。

 同族嫌悪、なのかな?


「そういえば風切くんってさ、来月からの夏休み、何か予定あるの?」

「な、夏休み?」

「うんっ。旅行サークルのみんなとどこか旅行に行くのもあるけどさ、もし風切くんが良かったら……どこか、行かない?」

「ど、こか?」

「うんっ」


 さ、崎宮さんと! 二人で……っ!


「行きたいっ! 行こう!」

「か、風切くん?」


 俺はつい勢いで崎宮さんの両肩を掴んでしまう。


「風切くんったら、がっつきすぎだよもー」

「あはは、ごめん」


 崎宮さんと二人で旅行……そんなの行きたいに決まってる。


「せっかくの夏休みなのによくないもんねっ」

「え? う、うん」


 崎宮さんの言うように、夏休みは旅行サークル以外の予定は入れず、涼しい部屋でグータラするつもりだった。


 崎宮さんは俺が引きこもるのを心配してくれたのか……嬉しいな。


 でも、清水のお泊りデートとやらもいつなのか決まってないよな……?


 こうして俺は、地雷系二人と危ない夏の約束を交わしたのだった。



—————

地雷系の美味そうな匂いがプンプンしやがる

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