26話 謝りたい、あなたに


 まさか俺のスマホと崎宮さんのスマホが家族共有になっていたなんて。


 スマホを開いてみると、確かに家族共有の中に『カレンのスマートフォン♡』という謎のスマホが増えていた。


「さ、崎宮さん? さすがにそれは……」


 あの清水でさえも、崎宮さんが勝手に家族共有していたことに驚いているようだ。


「だ! だって風切くんがに連れ込まれたりしないか心配だったし、何よりお隣さんってもう家族みたいなことだから!」


 崎宮さんは必死の形相で俺に迫ると、スマホを片手に説得するように言った。


「と、とにかく! 本当に心配だったんだから!」

「崎宮さん……」


 そっか。

 崎宮さんは本当に俺のことが心配で……家族共有を。


 確かに家族共有はやりすぎだと思ったけど……崎宮さんって少しやりすぎちゃうところがあるし、今回もお隣さんになって、俺のことを心配してくれるようになったからやりすぎちゃったのかも。


 それに、今は水道とガスを共用してるから、お互いの居場所とか把握したかったのかもしれないし。


「ありがとう崎宮さん。俺、嬉しいよ」

「いや風切さん、さすがにそうはならないでしょ? 位置情報バレてたんですよ」

「まあ、崎宮さんはいつもちょっとオーバーにやりすぎちゃうところがあるけど、今回は俺を心配してくれての事だし、何より俺の部屋の水とガスを共用してたから崎宮さんも位置情報を知りたかったんじゃないかなって」

「風切、くん……」

「それに、俺の位置情報が見れるってことは自分の位置情報も俺に分かる状態だったんだし。自分のプライバシーを踏み入られる可能性もあったんだから、心から俺のこと心配してくれてたんだなって」


 俺がそう言うと、崎宮さんは半泣きで俺の腕にしがみついて来る。


「風切くんが、そこまでわたしのこと分かってくれてるなんて」

「そ、そんな。全然、分かってなんてないよ……」

「風切くん?」

「実は俺、てっきり崎宮さんに嫌われたと思ってたから、清水にそのこと相談してて」

「嫌われる? なんで?」

「いや、その……」


 下半身見られてから気まずくなったから、ってのは言いづらい。


「はぁ……聞いてください崎宮さん」


 俺が言い辛そうにしていたら、清水が口を開く。


「風切さんは自分の下半身をあなたに見られてから、崎宮さんに嫌われたと思い込んでわたくしにそのことを相談をしておりました。

「じゃあ、エッチなことしてたとかじゃない?」


 俺と清水はこくりと頷いて答える。


「風切くん、わたしは嫌いになんてなってないよ。そもそもアレはわたしが悪かったんだし」

「崎宮、さん」

「だから、変に心配させちゃってごめん」


 崎宮さんが謝るのと同時に、俺もすぐ頭を下げた。


「お、俺の方こそ、直接聞く勇気がなくてごめん。これからはしっかり聞くから!」

「うんっ」


 こうして俺と崎宮さんの間で生まれた蟠りが晴れた。

 家族共有は、水道とガスを共用する上で何かと便利そうということで、今後も継続することに。


「じゃあ風切くん、お仕事中の清水さんに悪いからもう行こっか」

「う、うん」


 崎宮さんに促されてVIPルームから出て行こうとした時、清水に後ろから手を引かれる。


「ん? 清水?」

「風切さん。仲直りできたのですから、よ?」


 耳元で囁かれた刹那、鳥肌が立った。


 あ、完全に忘れてた……お泊り……。

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