18話 清水神奈子の憂鬱


 き、清水神奈子……?


 いつも通り黒を基調としたフリルのオフショルダーのブラウスに、スカートはハート型の金具のベルトが巻かれた黒のハイウェストフレアスカート。

 太ももはガーターベルトが巻かれ、銀色のリングで網タイツと繋がれており、靴もリボン付きのショートブーツという黒が印象的な地雷系ファッション。


 しかし、なんで清水神奈子がここに?


 今日は旅行サークルの集まりがないはず。

 俺は東雲先輩がいつもここを棲家にしているのを知っていたから相談するために来たのであって、旅行サークルの活動のついでというわけではなかったのだ。


「東雲先輩? 風切くんのズボンを掴んでるってことは、またヤリサーにお戻しになるおつもりですか?」

「いや違う違う、これは——」


 東雲先輩が普通に(俺と崎宮さんのことを)お漏らししようとしたので、俺は咄嗟に東雲先輩の口を塞いだ。


「ぬーすぬんだ!(何するんだ!)」

「ダメです東雲先輩、俺は先輩を信用して全部話したんですから」


 清水に昨日の事を知られるのは非常にまずい。

 分かりやすい東雲先輩と違って清水は何を考えているのか全く分からないし、何よりこの事を日向や矢見さんに知られると気まずい。


 清水がそれを言いふらすかどうかは分からないけど……可能性はあるよな。


「ふふっ……」


 清水は何の前触れもなく小さな笑みをこぼす。


? 風切さん」


 某RPGを知ってる人間なら誰でもその意味が分かる言い回し。

 まさか……清水は昨日のことすらお見通しなのか?


「その顔、まさか全てお見通しなのか? とでも言いたげですね?」


 俺の思考が読まれている——だと?

 いつから俺の世界はバトル漫画みたいになったんだ。


「全ては分かってませんが、昨日崎宮さんと一緒に夕飯を作っていた事から察して、あの後にまで行ったと想像いたしまして」

「さ、最後!?」

「崎宮さんほどの方と激しい夜を過ごしたら翌日はご機嫌になると思いますが、今の風切さんが神妙な面持ちをしていることからして、崎宮さんと何か問題があったのかと」


 は、激しい夜って……!

 清水って意外とエロ系のこと平気で言える感じだったのか。

 清純派のお嬢様なイメージだったが……もしかして経験とか。 


「わたくし、エッチの経験はありませんよ?」


 ま、また読まれたっ!?

 俺が顔に出やすいからか、清水は俺の脳内に干渉して来る。


「それと参考までに東雲先輩も男性経験は0です」

「おっ! おい清水! 言うなぁ!」

「ふふっ、先輩のことですから年上のお姉さんぶってましたね?」

「うう……」


 先輩って、そうだったのか。

 だから一緒に風呂に入っただけでS●Xとか訳の分からないことを……。


「さて、男女の夜の問題といいますと……アレの相性が悪かったとかでしょうか? あとゴムが破れたとか?」

「違う。そうじゃない」

「なら他に何か問題でも?」

「い、言っておくけど、俺は崎宮さんとそんなことしてないし、どっ! 童貞だし」


 焦った俺は明らかにやばい事を口にしてしまう。


「へぇ……良かった」

「よ、良かった?」

「ええ。風切さんがヤリチンさんになってしまったら旅行サークルの秩序が崩れてしまいますから。別に他意はありません」


 やはり清水は何を考えているか分からない。

 上手いやり口で俺から情報を聞き出そうとして来るところはさすが東大と言ったところか。


「風切さんがそんなに崎宮さんとの関係でお悩みなら、わたくしが直々に解決してあげてもいいですよ?」

「き、清水が……?」


 清水は崎宮さんと同じく地雷系女子の傾向にある美少女。

 結果的に東雲先輩は役に立たないと分かったし、相談相手としたら適任……かもしれないが。


 あの一件で崎宮さんが俺を嫌いになってしまったのか知りたいが、本人には聞けない。

 だからこそ、清水に相談すれば崎宮さんの気持ちが分かるのかもしれないが……清水は何考えてるか分からないし……。


 俺は……どうしたらいいんだ。

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