2章 もう一人の地雷系

16話 回想の中にある熱い想い


 徐々に意識が遠のいていく中、わたしは走馬灯に似た、記憶の断片のような"何か"を見ていた。


『崎宮のデカおっぱいマジでエロくね?』

『あの爆乳を好きなだけ揉みしだきテェ……』

『俺なんかあいつとヤる妄想で致してきたわ。超気持ちいいし』


 この記憶は……中学生の頃に教室で男子たちの会話が聞こえた時の記憶。

 わたしが男という生き物を嫌いになった一番の要因だった。


 男はいつもわたしの身体つきばかり見て、本当のわたしに目を向けない。

 わたし自身をどう思うかじゃなくて、胸がデカいとかエロいとか、いつも身体のことばかり……。


 でも——それは男だけじゃなかった。


『崎宮さんってさぁ、少しおっぱいデカくて可愛いからって調子乗ってない?』

『昨日隣のクラスの子から聞いたウワサなんだけど、三年の先輩とセフレらしくていつもパコリまくってるらしいよ』

『そうなん? まあ表では良い子ぶってるだけで裏では性欲強そうだしねえ。そだ、あだ名はにしない?』

『それ最高! あははっ』


 中学時代の放課後、忘れ物を取りに行った教室で聞いた、女子たちのわたしに対する陰口。

 妬み、嫉妬、憎悪……。

 この世は吐き気を催すほど性格の悪い人間ばかり。

 わたしは何もしていないし誰も傷つけていない。それなのにわたしばかり傷つくのはおかしい。


 最悪だった中学生時代の経験から、わたしは他人に希望を持つことを辞めた。

 性格も表と裏がハッキリ分かれるようになり、SNSで裏垢を作ったりもした。

 地雷系の自分はこの時に生まれたんだと思う。


 わたしは何もしていないのに、他人がいるからわたしは傷ついてしまう。

 誰も本当のわたしを見てくれないなら、わたしはわたしの可愛いを一人で追求するだけ。


 大学に入ってからはピンク色の髪に赤のインナーカラーを入れ、着る服も自分が好きなピンクロリータの服ばかり。

 自分が好きなものを自分の世界で表現する、それがわたしの生き方になっていた。


 しかし——そんな時に出会ったのが風切くんだった。

 最初に傘を持って話しかけてきた時は、ナンパか何かだと思って警戒したけど、風切くんはあの時わたしの『可愛い』を守ってくれて、傘を貸してくれた後も見返りを求めなかった。


 不思議だったし意味が分からなかったけど、わたしは人生で初めて男子に興味を持った。


 この世界でたった一人、風切くんだけは見ていてくれたから。


『俺にとっての崎宮さんはピンク色の物が大好きでしっかり自分を持ってていつも自信満々でカッコいい崎宮さんなんだ! 俺はこれからもいつもの崎宮さんで、そのままの崎宮さんでいて欲しいっ!』


 地雷系という他人の価値観に悩んでいた時、風切くんはそんなわたしを大切に思っていたと明かしてくれた。


 心から嬉しかった。

 不器用だけどいつも必死な風切くんのことを本気で想うようになった。


 だから……これからもわたしは……。


「……崎宮さん! 崎宮さん!」


 遠くからわたしを呼ぶ声がする。

 優しい声色でずっと聞いていたいあの声。


「崎宮さん!」

「……っ!!」


 ぼやけた視界がくっきりして、目の前には大好きな彼の顔があった。


「大丈夫? 崎宮さん」

「……風切、くん」


 目を覚ました時、わたしはお風呂場の外にあるバスマットの近くで横たわり、うちわを持った風切くんに介抱されていた。


「湯船の中でのぼせちゃったたみたいだったから焦ったよ。もしかしたら俺の下半身を見たせい、なのかな? あはは」


 風切くんは既に部屋着に着替えており、わたしが見た"アレ"はしっかりと隠れていた。


「そうじゃないよ。わたしって昔からのぼせやすいから」


 わたしは少しふらつきながらも立ち上がった。


 どうやらバスタオルは一度も脱がされていないし、何か変なことをされた形跡もない。

 他の男子だったらいやらしいことをされていたかもしれないけど、風切くんはそんなことしないで"わたし"をずっと心配してくれた。


「さっきはごめんね崎宮さん。変なものを見せちゃって」


 風切くんが申し訳なさそうに言うので返事に困る。


「……気にしてないよ。でも、ちょっとびっくりしちゃったかな」


 苦笑いしながらわたしが言うと、風切くんは小さく安堵の息を漏らした。


「冷えるといけないし、崎宮さんは着替えて! 俺は外に出るよ!」

「うん。ありがとう風切くん」


 風切くんは慌て気味に浴室から出て行った。

 一人になって、洗面台の鏡の前で自分の身体を見る。


「風切くんなら……もっとイタズラしてくれても良かったのに」


 熱った身体は風切くんを求めていた。


 ✳︎✳︎


 お風呂の一件があった後。

 崎宮さんは少し会話を交わすと、すぐに隣の部屋へと帰ってしまった。


 お風呂の前まではあんなに楽しかったのに、お風呂の後は気まずい空気が俺たちの間に流れていた。


「俺が穢らわしいものを見せてしまったばかりに……気まずい感じになって」


 さすがの崎宮さんでも引いたよなぁ……。

 普通に考えたらそうだ。


「ああー! でもこのまま不仲になりたくない!」


 こうなったら相談してみよう……



———————

ついに地雷系女子season2の2章がスタート!


そして8000人フォロワー突破!!


これからも地雷系女子は止まらないので応援よろしくお願いします!


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