9話 風切くんのポタージュスープ(意味深)
俺と崎宮さんは玄関からキッチンまで戻って来て、ハンバーグを焼き始めた。
フライパン返しを片手に俺がハンバーグを焼く傍らで、崎宮さんは黙ってジッと俺を見つめて来る。
「…………(じー)」
崎宮さんの様子がおかしい。
タネを作っていた時までは終始あんなに楽しそうな笑顔だったのに、今は眉間を顰めながらぼーっとした様子で俺の横顔に熱い視線を送って来るのだ。
崎宮さんどうしたんだろう。
明らかに清水との会話の後でおかしくなったし、清水が関係あるのかな?
確かに清水が玄関にいた時はびっくりした。
その上、近々このマンションに引っ越して来るなんて……凄い偶然に思った。
崎宮さんとも何か話していたみたいだったけど、何の話をしていたのだろう?
「ねえ、風切くん」
「ん? あ、もうそろそろハンバーグを皿に移していいかな?」
「そうじゃなくて……風切くんは、清水さんが隣に引っ越して来たら、嬉しいの?」
崎宮さんはジトっとした目に変わると、少し低い声で問いかけて来た。
もしかして、俺に対して怒ってる?
いや、それにしては怒る理由が分からない。
「う、嬉しいかなんて聞かれても……」
崎宮さんと清水の二人が俺の部屋の隣に来るなんて、美少女(地雷系)サンドになるわけだし、普通ならウハウハなのだが……なんか言葉にできないような不自然感があって、素直に喜べないというか。
特に清水は昔から何考えてるか分からないし……ピンポイントで俺の隣の部屋に引っ越して来たのは少し違和感がある。
だからこそ、なんとも言えないのが正直な感想なのだ。
「俺は……どっちでもないかな。いくら清水と隣同士になっても、こうやって崎宮さんみたいに同じ部屋で料理とかしないと思うし」
「清水さんとはこういうことしないの?」
「当たり前だよ! だって清水と俺は高校時代に修学旅行で同じ班だっただけで、清水は高校で一番の人気を誇る高校のアイドル、かたや俺はオタク仲間とクラスの隅で話す陰キャだったからさ。だから今も清水とは距離を感じるっていうか」
清水神奈子は栃木の名家『清水家』のご令嬢。
小学生の頃から運動も学業も栃木県内トップで、違う小学校・中学校に通っていた俺ですら当たり前に知っているレベルだった。
同郷のよしみだからこそ、彼女と俺ではヒエラルキーの差を感じてしまうのだ。
大学で再会した時も、なんで俺の名前なんて覚えているのか不思議だったくらいだし。
「清水さんより、わたし……なんだ」
「崎宮さん?」
「じゃあさ、風切くんの一番仲の良い女子はわたしなのかな?」
「当たり前だよ! 崎宮さんほど信頼できる異性の友達は初めてだからっ!」
「も、もう……鼻息荒くして可愛いね、風切くん」
「え、あ、あはは」
やばっ! つい興奮気味で言っちゃったからキモいと思われたかな?
でも崎宮さんは俺の鼻をツンッと人差し指で突くと、さっきまでの笑顔を取り戻した。
「ハンバーグはもう大丈夫だから、火を止めよっか」
「う、うん!」
「わたしの火は……死ぬまで消えないからね?」
「え? な、なんのこと?」
「なーんでもないよっ」
崎宮さんの100点満点スマイルが俺の鼓動を一気に早くする。
自然な笑顔で、とにかく崎宮さんの笑顔は誰よりも可愛い……。
さっきまではあんなに曇った顔してたのに、相変わらず崎宮さんは感情の起伏が激しいなぁ……。
でも、そんなところが可愛い、な。
俺は崎宮さんのことばかり考えながら、ハンバーグを皿に移した。
「じゃあ、あとはわたしがポタージュスープとかチャチャっと作っちゃうから、風切くんはお風呂を溜めてきて貰えるかな?」
崎宮さんは本気モードと言わんばかりに腕まくりをすると、ジャガイモと鍋を手に取った。
さっきお風呂は俺がやるって言っちゃったし、本気モードに入るなら俺は却って邪魔になっちゃうもんね。
「うん! じゃあお風呂周りのことしてくるね。崎宮さんの疲れが取れるように入浴剤も入れるからっ」
「ありがと風切くんっ……あ、そのままお風呂入っていいからね?」
「え? でも一番風呂は崎宮さんの方が」
「なぁに風切くん? 一番風呂がわたしってことは、わたしの後風呂で変なことしたいとかぁ?」
「ち、違うよ! 俺の後風呂じゃ嫌かなって思って!」
「はっ……! 風切くんのポタージュスープ……」
「な、何言ってんの崎宮さん?」
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崎宮さんのポタージュスープ(意味深)もあるってコト!?
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