8話 地雷系女子と地雷系女子は引かれ合う(物理)


「な、なんで……清水さんがここに?」

「それを言うなら崎宮さんこそ、どうしてここにいらっしゃるのです? わたくしはただ、の下見に来ただけですが」

「はぁ!? 引っ越し先!?」


「おーい崎宮さん、どうしたの? ……って! 清水!? な、なんで!?」


 わたしの後から来た風切くんは驚きを隠せないようだった。


「あら風切さんご機嫌よう。凄い偶然ですよね。わたくしも驚きで口をあんぐりとさせていたところなのです」


 絶対に嘘だ。

 こんな偶然ありえるわけないじゃない(他人に言えた口じゃないけど)。


 でもなんで清水さんが?

 彼女が風切くんのことをどう思っているのかは知らない。

 ただ、わたしに憧れて地雷系が好きになったということだけは本人から伝えられていた。

 もしわたしと同じ感性の持ち主なら、風切くんのことが好きなのも、同じ……?


「えっと、なんで清水がここにいるの?」

「下見ですよ」

「下見?」

「ええ。これまでは叔母の家でお世話になっておりましたが、もう東京にも慣れましたし、近々一人暮らしを始めようと思ってまして」

「清水って一人暮らしじゃなかったんだ?」

「そうなんです。栃木からこっちに来る際、過保護な親がわたしに一人暮らしはまだ早いと頑なに言い張ってまして。叔母の家から東大に通っていたので。もう大学生なのに、いくらなんでも過保護過ぎると思いますわ」

「あはは……そりゃ、清水は栃木でも有名な元財閥の名家の娘なんだし、親御さんも誘拐とか色々と心配になるんだと思うよ」

「そうでしょうか……」


 へぇ、清水さんってそんなに凄いお家柄のお嬢様だったんだ……?

 彼女の素性に関しても、シンプルに興味がなかったから知らなかった。


「それで親を説得して一人暮らしの許しを得たのですが、東大近くのマンションはなかなか良さそうなものがなくて……東大まで一駅先くらいの範囲で探していたら、たまたま東南大にも近いこのマンションを見つけて、それがまさか風切さんの隣のお部屋だったなんて」

「話を聞いたら尚のこと凄い偶然だよなぁ。実は崎宮さんもつい最近たまたま隣に引っ越して来たんだよ」

「あら、そうだったのですね」


 清水さんはニッコリとわたしを見て笑みを浮かべた。

 何よその笑みは……。


「立ったままじゃなんだし、上がっていってよ。お茶も出すし」

「いえいえお構いなく。ちょっとお隣さまがどんな方なのか知りたかっただけですし、軽くご挨拶をしておきたかっただけなので」


 いや、違う。

 清水さんはさっきわたしを見て『やはり、そうでしたか』と言っていた。

 間違いなくそれは、全てを察していたからこそ出た言葉。

 偶発的なものではなく、必然的な事象。

 清水神奈子は……ここが風切くんのマンションだと知っていたに違いない。


「それにお二人ともエプロンをしているということは、仲良くお料理中だったのでしょ? お二人の邪魔をするのは悪いですから」

「え、ああ……まあ」


 風切くんはわたしの方をチラチラッと見て来て恥じらいながらニヤけた。

 笑ってる場合じゃないよ風切くん! この子は間違いなくキミのストーカーなんだよ!


「それでは風切さん、崎宮さん、ご機嫌よう」

「うん、じゃあね清水」


 わたしは黙って清水さんの背中を見つめた。

 あの子がわたしの部屋とは反対側にある風切くんの隣の部屋に引っ越して来たら、計画していた半同棲生活の夢がぶち壊しになってしまう。


 しかし引っ越しを止める術などない。

 つまり……清水さんが要注意人物(敵)になるのは不可避ってことね。


「さあ崎宮さん、ハンバーグをパパッと作っちゃおうか!」

「絶対に負けられない……この命に換えても、(風切くんの童貞を)守り抜いてみせる」

「え、何が??」



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これが令和の地雷系バトルラブコメディってヤツなのか(絶句)

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