6話 崎宮さんと結婚したい風切くん、風切くんと結婚したい崎宮さん


 調理中の崎宮さんには「可愛い」って言わないように気をつけながら、野菜洗い作業をこなしていく。

 崎宮さんは、俺が洗い終わった野菜の皮を慣れた手つきで剥くと、そのまま野菜を切り始めた。


「じゃあ、ハンバーグのタネに入れる玉ねぎとにんじんを先に切るね」

「う、うん」


 トントントン、と小刻みな包丁さばきで野菜を切る崎宮さん。

 それは見ていてもとても気持ち良いくらいのカッティングだった。

 崎宮さんは服を作ったりするのも趣味らしいし、器用で家庭的な女の子だとは思っていたけど……さすがだなぁ……。


「凄いよ、崎宮さん」

「ふふっ、これくらい凄くなんてないよっ」

「いや、ホント凄いよ崎宮さん! 俺なんて料理全般苦手だから、野菜切るのだって、いつもノロノロ切っちゃって。たまに指も切っちゃうし、あはは」

「…………」


 俺が自嘲していたら、崎宮さんは急に黙ってしまう。

 ヤバい、俺が情けなさすぎるから崎宮さんは呆れちゃったのかな?

 崎宮さんに良い所を見せるためにお手伝いするって言い出したのに、自分からこんな事言って……何やってんだ俺。


「そ、それだと、さ」

「え?」

「風切くんは……早くお嫁さん貰わないと、将来的に色々と苦労しちゃうね?」


 崎宮さんは目の前の野菜を切りながら、俺の方に横目を向けて呟いた。

 お、お嫁さん……かぁ。


「いやぁ……俺みたいなナヨナヨした男子じゃ、結婚なんてできるかも怪しいよ」

「そんなこと!」


「あ、でもさ……もし将来結婚するなら、崎宮さんみたいに器用で家庭的な人がいいなって思うかな」


 いくら女子の気持ちが理解できない俺でも、この場で「やっぱ結婚するなら崎宮さんかなぁ」なんてどストレートに言ったら、ドン引きされることは分かっているので、それに気をつけて発言する。


 しっかり者で超絶美少女で料理も完璧で、服も作れて頭も良い……ピンク髪と地雷系に抵抗が無ければ、崎宮さんは全男子が理想とする女子だもんなぁ。

 まぁ、現実的には崎宮さんほど可愛くて優しい女の子なんて他にいないし、そもそも俺みたいなダメダメ男子が将来的に結婚なんてできるとは思えない。

 そもそもこれまでの人生で告白すらした事ないもんなぁ。


「…………っ」

「あれ、崎宮さん……?」


 さっきまで軽快だった崎宮さんの野菜を切る手がいつの間にか止まっていた。


「えっと、もしかして玉ねぎが目に染みたとか? 目薬ならそこにあるから持って——」

「あのね風切くん……」

「ん?」


「わ、わたしもね! 風切くんみたいな優しくて、地雷系に理解があって、いつも頑張り屋さんで、見た目もカッコよくて、でもちよっぴり頼り甲斐がない所があるけどそこが堪らなくて、普段から良い意味で言葉がストレートで、裏表もなくて、常に素直で、人の話をよく聞いてくれて、親身になってくれて、いつも笑顔で抱擁感があって、オシャレに気を遣ってて、無駄遣いしなさそうで、香水のいい匂いがして、敵も作らなくて、周りからも人望があって、誰からも人格者だと思われてる男性と結婚したいかなって……思ってるから……ね?」


 崎宮さんは俺から一切目を逸らす事なく言い切る。


「え、あー……ありがとう! 崎宮さん! なんか照れちゃうなぁ」

「…………」


 崎宮さんは野菜の手を完全に止めて俺を見つめていた。

 今日の崎宮さんはよく俺を見つめて来るなぁ……。


 崎宮さんが俺みたいな男子でも理想に思ってくれてるのは心から嬉しいと思った……けど、なんか長くて何言ってるのかよく分からなかった。

 もしかして俺って男としてハッキリとした良い所がないから、褒めるに褒めづらいとか?

 だとしたら崎宮さんに気を遣わせちゃったかな……?


「あ、もうこれで洗う野菜最後だった! 崎宮さん、次は何をすれば良いかな?」

「……プロポーズとか」

「は? え、今、なんて?」

「……何でもないっ。次はひき肉でタネを作ろっか」

「う、うん」


 さ、崎宮さん……今プロポーズとか言わなかったか?

 さすがに聞き間違い、だよな。

 もー、崎宮さんが結婚の話するから……。

 チラッと横を見ると、崎宮さんの頬がやけに赤くなっているように思えた。



————————

次回、崎宮可憐視点でヤバい妄想が炸裂する……かも?

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