5話 ラブコメはハンバーグのように(コネコネ)


 部屋や水場の片付けをしていた俺は、崎宮さんが帰って来る前にしっかり掃除を済ませていた。


 唯一崎宮さんに見られたら終わりそうな、エロ系のゲームや雑誌はアダルトショップで全部売り払って来たので大丈夫。


 これからこの部屋は崎宮さんと共同で使う時間が長くなるんだし、エロ系のグッズの処分はやむを得なかった。


 それに今や時代はオンライン。

 売ったブツは後から全部オンラインで買い直せば大丈夫。

 そ、そりゃ、その分の出費はデカいけど……崎宮さんに見られて引かれるよりはマシだ。


 たまに見たくなるケモノ系の本をもし崎宮さんに見られたらドン引き不可避だもんな……。


『ピンポーン』


「お、崎宮さんが帰ってきた」


 ドキッとしながらも、俺はドアの鍵を開ける。


「ただいまっ、風切くん」

「お、おお、おかえり、崎宮さん!」


 緊張のあまり挙動不審になってしまう。


「風切くん、もしかして緊張してる?」

「そ! そんなことないよ! あっ、その買い物、袋俺が運ぶよ!」

「もー、風切くんったら、変な事するわけじゃないんだし、緊張しないでよー」


 崎宮さんは笑いながら俺に買い物袋を手渡すと、部屋に入っていった。


 へ、変な事って……!?


 つまり、そういう事を指してるんだよな?


 さらにドキドキが加速していく。


「風切くん、今日は何が食べたい?」

「な、なんでも!」

「了解っ、じゃあー、ハンバーグとかにしよっかなぁ」


 崎宮さんの手コネハンバーグ……。

 別に変な事を考えてるわけじゃないけど、女子の手料理を食べる機会なんて、俺の人生で調理実習の時くらいだったから、そう考えると感動を覚えてしまう。


 俺はキッチンにある冷蔵庫の前に買い物袋を置いて、冷蔵庫の中に買い物袋の中の食材を入れていく。


 色々と家事を崎宮さんにお任せしちゃうんだから、これくらいは俺がやらないと。


「ふふっ、ありがとう風切くん」

「礼には及ばないよ。崎宮さんに買って来て貰ったんだからこれくらいはしないと」

「じゃあとびっきり美味しいハンバーグ作らないとね?」


 た、楽しみすぎる……。


「エプロン着けたらすぐに準備始めるから、風切くんはテレビとか観ながらゆっくりしてて」

「ゆっくり……ううん、やっぱ俺も作るの手伝うよ!」

「手伝ってくれるの?」

「うん! 崎宮さんに作ってもらうのに自分だけ何もしないのは、落ち着かないからさ」


 いくらガスを貸しているからといって、崎宮さんだけにやらせるのは、やっぱ俺には無理だ。

 性格的にどうしても申し訳なさの方が強くなってしまう。

 確かに料理はド下手だけど、何かしら力になれるはずだ。


「じゃあお言葉に甘えて、一緒に作ろうね、風切くん」


 崎宮さんはそう言って優しい笑みを浮かべる。

 大丈夫。崎宮さんは見た目の派手さに反して優しいんだし、ド下手でも褒めてくれるはず。

 てか、シンプルに崎宮さんから褒められたら、めちゃくちゃ嬉しい。

 いつもカッコ悪い所ばっかり見せちゃってるし、たまにはカッコいい所も見せたいもんな。

 よし、やるぞ……!

 モチベーションが上がりきった俺は、エプロンを着けてシンクの前に立つ。


「今から作るのは、ハンバーグとじゃかいものポタージュスープだから、とりあえずにんじんと玉ねぎ、あとじゃがいもとブロッコリーを使いましょうか」

「は、はい! 分かりました!」

「もぉ、緊張しすぎだって。じゃあ、今からはお野菜を洗ったり野菜の皮を剥く作業をやって行くね」


 そう言って崎宮さんは大きなハートの刺繍が胸元にある真っピンクのエプロンを首から下げた。

 やっぱ普段使いのエプロンもピンクなんだ。

 前にスノトで働いている崎宮さんを見た時も確かピンクのエプロンを着けていたな。


「風切くん、野菜の扱いは大丈夫?」

「う、うんっ。にんじんじゃがいも玉ねぎは、よく使う野菜だし(カレーしか料理できないから)」

「へぇ! お野菜しっかり食べてるなんて、風切くんカッコいいね?」

「そっ、そうかな」


 急に崎宮さんからカッコいいと言われて、照れて気持ち悪いほどニヤニヤしそうになるが、グッと抑える。


 崎宮さんに褒められて嬉しい俺は、お返しとばかりに崎宮さんのことを褒めたくなった。


「あ、あのさ、崎宮さん。そのエプロンすごい可愛いね! 崎宮さんにピッタリのエプロンだよ」

「えっ——」


 すると予想していた反応とは真逆で、崎宮さんは洗っていたじゃがいもをゴロンとシンクの中に落とした。


「え? さ、崎宮さん?」

「も、もう! 風切くんっ!」

「は、はいっ」

「お料理中に『可愛い』って言うの禁止! もし包丁持ってる時に言われたら、わ、わたし、嬉しくて身体中切っちゃうかもだし」

「は??」


 身体中切るってどういうこと!?

 どうやら俺は、無自覚でヤバすぎる邪魔をしてしまっていたらしい。

 反省反省。



————————

ついに3300星評価突破してました!

最高に嬉しいし、この作品が始まる前はこんなにも多くの方に愛される作品になれるとは想像できなかったので感動です。

これからもガンガン更新するので、今後も星評価で応援よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る