4話 地雷×地雷


 帰宅中に駅の前で清水さんとバッタリ会ってしまった。


 清水さんはいつも通りの黒を基調とした地雷系コーデをしており、今日はやけにそのイカつい黒ブーツが黒光りしていた。(他人のことは言えないけど)


 そんなことより、風切くんが待ってくれているから、早くマンションに帰りたいのに……。


「今からお帰りですか?」

「ええ……清水さんこそどうしたの? 今日は旅行サークルの集まりがないよね? それなのに東南大まで来てたの?」

「はい。こちらの大学の学食はわたくしの通う大学よりも美味びみですので、来てしまいましたの」

「へ、へぇ……」


 そんな理由でわざわざうちの大学の学食に来たなんて……やっぱり不思議な子。


「崎宮さん、今日もお美しい地雷系コーデですわ」

「ど、どーも」


 わたしは前に彼女のせいで『地雷系』という言葉への嫌悪感を再確認してしまったことがある。

 結果的に風切くんに救われたから良かったけど、あのまま地雷系という言葉を嫌って、普通に憧れてしまっていたら今の生活は無かった。

 だからわたしは清水さんに対して、一方的に因縁のようなものを抱いてしまっている。


 そんなわたしの気持ちもつゆ知らず、清水さんは謎にわたしに憧れを抱いているのが厄介で……。


「その大きな買い物袋はどうしましたの? もしかしてやけ食いですか?」

「そんなのじゃないから」

「……左様ですか」


 清水さんは薄ら笑いを浮かべて呟いた。


 この子はいつも何を考えているか分からない。

 会った時から不穏なオーラがあったというか、風切くんのことをどう思っているのかも謎だし……。


 清水さんは人差し指で涙袋の濃いアイシャドウを撫でながら目を細める。


「そういえば崎宮さん。昨日SNSで『お引越しをした』との旨を投稿していましたが、荷解きの方は順調でしょうか?」

「……順調、だけど」


 そう言うと、

 何その目……。


「何か……隠していませんか?」

「は? 何が?」

「人間はやましいことがある時に目線が上向くらしいです。その上、嬉しいことがあったのに対象の人の前では笑顔を見せないのは、その幸福が対象の人間には不幸であることを心理的に表してしまうからなんですって」


 抑揚なく淡々と話す清水さん。


「先ほど崎宮さんを見かけた時、あなたは鼻歌を口ずさみながら今にも天に昇るような幸福に満ちていました。しかし、わたくしが声をかけたら急に罰が悪そうな顔をして……何かわたくしに知られて都合の悪いことがあるのでしょうか」

「……っ」


 ダメ出しできない完璧な推察。

 さすが東大生……と、言いたいところだけど、今回ばかりは無駄な洞察力を発揮しないで欲しいと苛立ちすら覚えてしまう。


「今度は怒りですか……わたくしに心理を見抜かれたことに対する怒りですか?」

「ち、違う! わたしは!」

「ふふっ……崎宮さんって表情が豊かですよね」


 こ、これ以上清水さんとこれ以上話すのは危険だ。

 ここは上手いこと躱さないと。


「ごめんなさい清水さん。卵とか生ものが腐るからそろそろ帰らないと」

「そうですわね。わたくしとしたことが要らない知恵を働かせてしまいました。お許しを」

「う、うん。じゃあね、清水さん」


 清水さんと別れて、わたしはやっと帰路に戻れた。


 やはり彼女は只者じゃない。

 清水さんもわたしと同じ地雷系を着る女子だけど、彼女はわたしと似て非なる存在。

 わたしの真っ直ぐな愛情とは違う何かを、清水さんからは感じる。

 もし清水さんも風切くんのことが好きなら……要警戒ね。

 もちろん、風切くんはわたしのことを一番に考えてくれると思うけど。


「よし、気持ちを切り替えてお夕飯のメニュー考えないと!」


 わたしは軽快なステップを踏みながらマンションへ戻るのだった。




———————————

地雷系にも色々あるんだなぁ(小並感)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る