3話 同棲が始まる


「じゃあ風切くん?」


 崎宮さんは午後から講義があるらしく、そのままマンションから大学へ行ってしまった。

 俺は崎宮さんを玄関から見送り、部屋に戻ってから一度冷静になる。


「崎宮さんと半同棲……」


 よく考えたら、楽しみよりも不安の方が勝ってしまう。

 だって俺、母さん以外の女性と一緒に暮らしたことないし……。

 そもそもお風呂とキッチンを貸すだけで半同棲と考えてもいいのか?


 それに崎宮さんからしたら、たまたま友達が隣の部屋で助かった、と思っているくらいかもしれないし、意識しているのは俺だけだったりして……。


「と、とにかく! 今は考えるよりも掃除をしよう!」


 この部屋の水場はとてもじゃないが崎宮さんに見せられる状態じゃ無い。

 キッチンのシンクの中には昨日使ったお皿が残ってるし、バスタブは昨日のお湯を抜いてない。あとはトイレも……。


「やることが多いなぁ……まさかこれから女子と部屋を共有するなんて思っても見なかったから、掃除してなかったんだよなぁ」


 これからはプライベートな空間も崎宮さんと共有するんだから色々と気を遣わないとな。


 特に匂いとかは印象に関わると思うし、もし崎宮さんに臭いとか思われたらショックすぎて実家に帰るかも……。

 崎宮さんは一番大切な友達なんだ。

 私生活のことで嫌悪感を持たれたりしたら俺も嫌だし、今日からしっかりしないと。

 まずはファイブリーズをたくさん買い込もう。


「そうだ。崎宮さんがいつでもこの部屋に入れるように合鍵も持たせてあげないとな」


 新しく作るにはこのマンションの管理会社の許可が必要になると思うから、とりあえず俺のスペアキーを渡しておけばいいよね。


 午後の講義なら崎宮さんはしばらく帰って来ないと思うし、その間に買い出しに行くか。


 ✳︎✳︎


 大学の講義が終わったわたしは、近くにあるスーパーマーケットで買い物をして、パンパンになった買い物袋を片手に風切くんのマンション……いいえ、のマンションへ向かう。


 今日から風切くんの血となり肉となる食材はわたしが選んだものオンリーになる。

 それにわたしの手料理を食べたら風切くんは絶対に惚れると思う。


 ここまでは全て計画通り。

 ガスに関しても契約を忘れたのではなく、あえてしていないだけ。

 風切くんの胃袋はもちろん、風切くんのハートを両手で思いっきり鷲掴みにしてみせる。


「ふふふ……っ」


「あら? 崎宮さんではないですか」


 わたしが大学の最寄り駅の前を通りかかった時、偶然にも清水神奈子と鉢合わせた。

 清水……さん。


 こんな所で会うなんて……。

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