39話 伝えたい思いは重い


 大学の前で崎宮さんも合流し、俺と矢見さんと崎宮さんは、3人で4号館にある会議室へと向かう。


 あのプレゼントを上げた日以来だから、久々に崎宮さんと話すけど、何から話したらいいんだろ。

 プレゼントのことはさっき話しちゃったし……。


「崎宮さん崎宮さんっ」


 俺が考えながら歩いていると、矢見さんが先に崎宮さんに話しかけた。


「どうしたの矢見さん?」

「今日の私どうですか? 今日は病み系のメイクもしてきたんです! 地雷系の服と合いますよね!?」

「地雷……」


 矢見さんから感想を聞かれた崎宮さんは、急に足を止める。


「崎宮さんどうしたんです?」

「矢見さん、できればこのファッションのことを地雷系って言うのはやめて欲しいな」

「え? でも、みんなそう呼んで」

「わたしは別にこの服を地雷系女子だから着たいと思ってるわけじゃないし、この服が可愛いから着てるだけで……わたしはこの服を量産型とか地雷系とか言われるのがあまり好きじゃ無いっていうか……それは矢見さんも同じでしょ?」

「えと……た、確かに私もそうです。病んでるから好きなんじゃなくて、可愛いから着てるので」

「そうだよね? なら、いいかな?」


 崎宮さんは矢見さんを諭すように話しながら柔らかい笑顔を向けた。

 すると矢見さんも、先生からお願い事を頼まれた小学生みたいに元気よく右手を上げて「分かりましたっ」と言った。


「ありがとう矢見さん。もちろん風切くんも、分かってくれるかな?」


 その優しい笑顔が今度は俺の方に向けられる。


「う、うん、気をつけるよ。崎宮さんを嫌な気持ちにさせたくないからね」

「ありがとっ、風切くん」


 崎宮さんの笑顔……めっちゃ可愛い……じゃなくて! 地雷系って言わないようにしないとな。

 そう考えると俺は、崎宮さんに向かって地雷系と言ったこと無かったはず。

 特に意識していた訳ではないけど、地雷系ってワード自体がなんとなく悪口にも聞こえるから崎宮さんの前では言わなかったのだが、どうやらそれが正解だったようだ。


「それはそれとして、今日の私のメイクどうですか崎宮さんっ!」

「うん、バッチリだと思う。でもそこにもっと二重に見える感じの——」


 二人は俺の前を歩きながらどんどんメイクの話に入っていった。

 男の俺には全くついていけない話題なので、俺は後ろを歩きながら二人の話を聞いていた。

 それにしても崎宮さんは、地雷って言われるのが地雷なのか……。

 崎宮さんってファッションがそっち寄りなだけで、中身は普通の女の子だもんね。(ほんの時々、ちょっとだけ情緒不安定になる所はあるけど……)

 地雷って言わないように俺も気をつけないとな。


「あ、もう着いちゃいましたね会議室」


 日向が言っていた4号館の会議室に到着した。

 まだ中は電気が点いておらず、入ってみると、誰もいなかった。


 どうやらまだ日向たちは来てないみたいだ。

 時間はちょっと早めだから来てなくてもおかしくないけど……普通、早めに来て新入部員3人を持て成すとかしないのか?


 集合場所の会議室は普段使っている講義室と同じような構造で、巨大な前黒板に向かい合うように座スイングアップ式の席がズラッと並んでいた。

 とりあえず俺たちは一番前の列の机に荷物を置く。


「私、飲み物を買いに行くので少しだけ外してもいいですか?」

「うん、日向たちが来たら言っておくよ」


 矢見さんがとてとてと会議室から出ていく。

 矢見さんがいなくなったことで、必然的に崎宮さんと二人きりになった。

 ここに来るまでは矢見さんのおかげでなんとなく話が続いていたが、崎宮さんと二人きりになった今、何を話すべきかすぐに考えないと!

 え、えっとー、何か、何かー!


「風切くん、なんていうか……ありがとう」

「え、急にどうしたの?」


 ポケットから道具を探すドラ●●んくらい焦って話題を捻り出そうとしていると、突然、崎宮さんの方から御礼を言われてしまった。


「わたしね、大学入る前までは友達とか要らないって思ってたけど……矢見さんみたいな趣味の合う友達がいるのが楽しいって少し思えたから」


 崎宮さんはさっきまでとは違う、いつもより落ち着いた口調でそう言うと、椅子に座り、俺に隣に座るよう手招きをしてくる。

 俺は従うように崎宮さんの隣の席に腰を下ろした。


「矢見さんと仲良くなれたのは、あの日、風切くんが矢見さんを連れて来てくれたおかげだもん。だから、ありがとうって言いたくて」

「そ、そっか……俺でも、崎宮さんの力になれたんだ」


 嬉しくて堪らなかった。

 俺はいつも崎宮さんの隣にいるのに、何もしてあげられなかったから。


 崎宮さんの前では少しでもカッコ良い姿を見せたくて、崎宮さんの隣にいても恥ずかしくない人間になりたくて。

 そのために日々、陽キャに近づけるように頑張ってる。

 だからこそ、崎宮さんからお礼を言われるのは、心から嬉しい……。

 それに崎宮さんが友達できて喜んでくれたことも……同じくらい嬉しい。


「ちょっと、なんで笑ってるの?」

「ううん。なんでもないよ」

「本当? もしかしてわたしが友達できて喜んだのを意外とか思ってたりしてー」

「それは……少しあるかも」

「酷いよ風切くん!」

「だ、だって崎宮さんって最初に会った時は一匹狼みたいな感じがあったから」


 初めて崎宮さんを見た時、他を寄せ付けないオーラがビンビンしてた。

 だからこそ、初めて見かけた時は近づけなくて……。


「でもさ、崎宮さんのそんな所が……やっぱりカッコ良かったというか。元陰キャで大学デビューしたばかりの俺からしたら、すっごく眩しくて。そのファッションも、最初はビビったけど、崎宮さんが着てると本当に可愛いく見えて。そんな崎宮さんに……俺は憧れたから」

「ふーん。そうなんだ?」


 崎宮さんはバッグからペットボトルの水を取り出すと、一口飲んで喉を潤す。

 結構、攻めたこと言っちゃったかな。

 崎宮さんは、どう思ったんだろ。


「風切くんはさ、わたしのこと重い女って思ったりする?」

「え? お、俺は思わないよ!」

「正直に言うと?」

「お、思わない……けど、最初は……」

「最初は?」

「ごめん。最初はてっきり、服からして重めの女子なんだって思ってた」

「……そっか。でも仕方ないよね。人は見た目が8割なんだし」

「で、でも俺は!」

「っ?」


 言え。言うんだ俺。

 今は違うってことを。


 崎宮さんのことを知れば知るほど、俺の中の崎宮さんへの思いは変わっていったことを……!


「崎宮さんは、好きなものに真っ直ぐで、芯が強くて、見た目なんかより何倍も、何倍も好きなものに対する思いが強くて! 俺にはそこまで好きになれるものはないし、そんな崎宮さんのことを俺は、素敵だって思ったよ!」

「風切、く……ん」

「だからっ——だから、その、俺」


 ここまで勢いに任せて話していたが、ついに言葉に詰まってしまう。

 ほ、他に、何か、こう!


 グダったその時、ガチャッと会議室の大扉が開かれた。


「やーやー新入生諸君! 集まってるかねー?」


 急に廊下から白衣を身に纏った小学生くらいの背丈の眼鏡っ娘が俺たちの前に現れた。


 背は矢見さんと同じ、いや、もしかしたらそれよりも低く、茶髪のロングヘアで、赤縁のメガネに白衣の下には紺色のジャンスカを着ている。


 な、なんだこのロリッ子。


「おお! 噂の地雷系ピンクちゃんもいるじゃん!」

「じらっ……!」


 崎宮さんの顔が一気に曇る。


 このロリ! 出会って3秒で地雷ワード踏みやがった!


「ああ! えっと! 君は小学生? 学校見学とかかなぁ?」

「だーれーが小学生じゃい! こう見えてもワタシは東南大学理工学部生だぞ!」


 ロリは無駄に白衣の長い袖から学生証を出すと、俺と崎宮さんの前に差し出す。

 確かにそこには理工学部2年と書かれていた。


「ふふん。ワタシは東南大旅行サークル部長になった東雲稲荷しののめいなりだ。よろしく一年生諸君」

「よ、よろしく、お願いします……」

「…………」


 またまた濃い感じのキャラクターの人が来たなぁ……。

 隣に座る崎宮さんは終始警戒気味だった。


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