38話 照れる二人、ロリな彼女。
もう陰キャに戻らないと覚悟を決めて迎えた翌日。朝支度を済ませた俺は、ワックスで髪を整えるとマンションを出た。
崎宮さんと大学の前で待ち合わせしてるから、はやく行かないと。
「今日からサークル……だもんな」
知り合いばかりとはいえ、まだ俺は緊張していた。
だって、大学デビューに成功していると思われた高校時代の友人であるあの二人でさえ、数週間でサークルを辞めてしまったのだ。
見た目こそ陽キャに近づいたとはいえ、中身が完全に陰キャ気質のままの俺がついていけるのだろうか……。
「あー! そうやってすぐに弱気になるな俺! サークルには崎宮さんだっているし、大丈夫なはず」
でも、佐藤みたいに彼女と別れたからサークル辞めるパターンもあるなら、俺も崎宮さんと喧嘩したら、嫌になってサークルを辞めることも……。
そうなったらあの二人と同じ道に……。
「だ、だからマイナス思考やめろって」
「かーざきーりさんっ」
俺が葛藤の渦の中で一人もがいていると、背後から子供みたいに甲高い可愛らしい声が俺の名前を呼ぶ。
この声って……。
振り向くと、そこには少し背が低めで地雷系ファッションを身に纏った矢見さんがいた。
「えへへー、たまたま見かけたので声をかけちゃいました」
「や、矢見さん、おはよう」
「おはようですっ」
以前崎宮さんに選んでもらっていた黒が多めの地雷系ファッションに今日は髪型がいつものハーフアップではなく、ハーフツインになっている。
髪型も相まってなおさら幼く見えるけど、今日は厚底ブーツを履いているからいつもより背が高くなっている……が、やっぱり童顔なので小学生〜中学生くらいにしか見えない。
でも矢見さんも崎宮さんみたいに地雷系の服を着ていても違和感がないよな。
ロリータというジャンルに溶け込んでいるというか……(別に矢見さんがロリ体型って言ってるわけではないけど)。
「旅行サークル、楽しみですね?」
「あ、矢見さんも旅行サークル入るんだっけ?」
「はいっ! 日向ちゃんから誘われたのもありますけど、元々旅行とか好きな方なので!」
俺とは真逆でサークルを楽しみにしているらしい矢見さん。
矢見さんって見た目こそ幼く見えるけど、ハキハキ話すし、憧れの地雷系ファッションのために崎宮さんに接近する行動力もあるし、俺の何百倍も陽キャラだよな……。
「旅行サークルには崎宮さんも入るんですよね? 今日は崎宮さんに会うということでこの服で来ちゃいましたっ。ふりふりしてて可愛いですよねー」
「う、うん……」
「風切さん? どうしたんです? 今日はやけに元気がないようですが」
矢見さんは(背が低いので)俺の顔を見上げるようにして覗き込んできた。
やっぱり緊張してるのって、何も言わなくても周りにも伝わるものなのかな……?
根が陰キャだから馴染めるか不安だってことがバレてたり。
「もしかして風切さん……今日が楽しみすぎて昨日寝れなかったとかですか!?」
「へ?」
「その気持ち分かります! 私も今日が楽しみでいつも7時までには寝るのに、9時まで夜更かししちゃいましたもん!」
いつもは7時に寝て9時が夜更かしって……矢見さんが子供っぽいのは見た目だけじゃないのか。
「はぁ……」
「ちょっ、なんでため息なんですか! 私の推察は正解ですよね! ね!」
「なんていうか、矢見さんって可愛いね」
「え、ええっ!? 急になんですか風切さん! や、やや、やっぱり風切さんはナンパ師さんなんですか!」
「やっぱりって何!?」
俺たちが変な漫才をしていると、いつの間にか大学の前に到着した。
待ち合わせ時間よりも10分早いけど……まだ崎宮さんは来てないみたいだ。
前のデートの時は崎宮さんは早めに来てたから、待たせてると思ってたけど……。
「あれ? 4号館行かないんですか?」
「崎宮さんと大学の前で待ち合わせしててさ。あと10分くらいで来ると思うんだけど」
「そうだったんですね! じゃあ私も待ちます!」
矢見さんは俺の隣に並ぶと、一緒に崎宮さんを待ってくれる。
それにしても……。
「あの小さい子めちゃ可愛いー」
「子役の子とか?」
「コスプレみたいな服だし、撮影か何かなんじゃない?」
大学の前を通る人がやけにこっちを見てくる。
崎宮さんと一緒にいる時間が多くて周りから見られるのは慣れてるけど、矢見さんの場合は崎宮さんとはまた違う見られ方をされているような……。
「風切さん風切さん」
「ど、どうしたの?」
「みんな私の方見てますね? やっぱり崎宮さんが選んでくれたこのお洋服のおかげですよ!」
「そ……そだね」
シンプルに矢見さんが小さくて可愛いからだと思うけど、地雷系ファッションでいつもより目立ってるのも一つの要因かもしれない。
「あ、崎宮さん来ましたよ!」
「えっ?」
コツン、コツンとブーツの足音がこちらに近づいてくる。
「お待たせ、風切くん」
「さ、崎宮さん」
3日ぶりの崎宮さんは、ピンクとチョコレート色のチェック柄が可愛らしいワンピースを着ており、黒のブーツを履いて、黒光りするショルダーバッグを肩に掛けている。
胸元のリボンはピンク……つまり機嫌が良いということだよな。
そして何より、耳元には俺がこの前プレゼントしたピンク色のハート型ノンホールピアスがあった。
「どう、かな。今日はノンホールピアス付けてきたんだけど」
「凄い似合ってるし……可愛いよ!」
「……あ、ありがと」
崎宮さんはそう言うと、瞬きをしながら俺から目を逸らした。
その顔には照れのようなものが感じられて、つい俺まで照れしまい、視線を空に向ける。
なんだろう、自分のプレゼントを崎宮さんが付けてくれてるって思ったらドキドキが止まらない……。
「むぅー。風切さん! さっき私に言った『可愛い』とは少し違う感じがします」
「は? 待って風切くん、なんで矢見さんに可愛いって言ったの? なんでなんでなんで?」
「さ、崎宮さん落ち着いて! 違うから!」
急に崎宮さんの顔が不穏な感じがしたので俺はすぐに弁解した。
サークルが始まってすらいないのに先行きが不安だ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます