1stシーズン最終章 地雷系女子に好かれてしまった。

37話 陰キャか否か


 旅行サークルに初めて参加する日の前夜。


 俺は寝る前にベットの上でスマホをいじっていた。


「明日は崎宮さんと大学の前で待ち合わせて二人で会議室に行く約束したし……楽しみだな」


 初めてのサークルだし緊張する。

 大学に入る前までは、陽キャのグループに入って陽キャの友達と同じサークルに入るプランだったんだけど……まあ、一応上手く行ってんのかな?


「そういや、鈴木や佐藤も各々の大学でサークルに入ってたよな?」


 鈴木は新歓コンパで知り合った友達たちと同じダンスサークルに入ったらしいし、佐藤は彼女と同じ理系のサークルに入ったっていうSNSの投稿を見かけた。


 二人とも結構良さげなサークルに入ってるんだよな……。


 俺は大学デビューに成功したあいつらに感化されて陽キャになるのを決めた。

 最初こそ敗北感があって悔しかったけど、今となっては俺もそこそこ陽キャに近づけたと思うし、上手く行ってるあの二人はもう同士なのかもしれない。

 だからこそ、変なプライドは気にせずに、あの二人からサークルについて教えてもらおう。


「まだ9時前だし、グループ通話に誘ってみるか」


 俺が高校時代のオタグループに『久々に通話しない?』と送ったら、すぐに2人の既読がついて、グループ通話が始まった。


『久しぶり風切』

「おお、佐藤」


 メガネオタクだった佐藤の声が聞こえる。

 高校時代に比べて、やけにクールな声色になっていた。


『久しぶりだなぁ、裕也〜』

「鈴木ぃ!」


 続いてピザデブだった鈴木の声がした。

 鈴木は……相変わらずだな。


「二人とも久しぶりだなぁ。てかお前たち既読付くの速すぎだろー」

『そりゃそうだろ! だって俺と佐藤は一緒にネトゲやっててたからな!』

「ね、ネトゲ?」

『ビリジオンラインだよ。お前も高校の時によくやったろ?』

「あ、ああ」


 ビリジオンラインとは2年前くらいから世界的に人気なMMORPGであり、西洋、和、中華テイストの3D世界を行き来し、各国のボスモンスターを倒してドロップした素材で装備を作るという中毒性満載のゲームだ。

 でも最近は課金勢しか生き残れない環境になっており、プレイヤーも減少傾向にある。

 俺もそれが理由で飽きてしまったんだが……。


「なんで今さらビリジオンラインなんてやってんだ? 高校の時に二人も飽きたって言ってたじゃんか」

『いや……実は俺たち、同じサークル入ったから』

『そうだぜ裕也!』

「同じサークル?」


 鈴木と佐藤は神奈川の大学に進学して、大学も近いし、同じサークルに入っていても違和感はないけど……。

 でも鈴木はダンスサークルに入ったはずだし、佐藤は理系サークルに入ったんじゃ……?


『俺たちビリジオンラインのサークル入ったんだよ! 佐藤の大学にクラン組んでるサークルあってさー!』

「へ、へぇ……でも、お前たちってそれぞれ自分たちのサークルに入ってるよな? 掛け持ちって大変じゃないのか?」

『ああ、それならとっくに辞めたよ風切』

「え!? 辞めた!?」


 急に「辞めた」と言われ、俺は驚いてしまう。


『俺も辞めたぜ裕也ぁ』

「鈴木まで!? なんでだよ、ダンスサークル楽しかったんじゃ!」

『裕也は俺と長いんだし俺の性格よくわかるだろ? ピザみたいに本気で好きになれるなら毎日食うけど、ダンスは微妙でさぁ』

「はあ?」

『やっぱ俺たち元陰キャに陽キャたちの文化は早かったんだよー。ダンスサークルって、名前だけの完全に飲みサーでさぁ、ダンスそっちのけで他大学の女子との合コンばっかりだし、可愛い子は先輩に回されて俺たち後輩は年増のブスばっか相手させられるし、会費も高すぎるから俺はやーめた』

「そ、そんな……さ、佐藤は!? なんでサークル辞めたんだよ!」

『佐藤は彼女と別れたのが原因だろ?』

「わ、別れた!?」

『ああ。やっぱ女とか信用できねえよ。だってあの女……僕の知らないところで他の男と……』

『あーもうやめろよ佐藤ぉ〜! 暗くならず、やっぱ俺たちは陰キャらしくゲームサークルで遊ぼうぜぇー!』


 陰キャらしく……。

 確かに言われてみたら、あいつらのSNSでのリア充アピールは、入学から数日で止まっていた。

 てっきりわざわざ投稿するまでもないくらい毎日リア充みたいな生活をするのが当たり前になっていて、かなり充実しているのかと思っていたが……まさか、リア充生活そのものが終わっていたなんて。


『裕也ぁ、お前もビリジオンラインのサークル入ろうぜ!』

『そうだよ風切。また3人で童貞の誓いを交わそうぜ』


 なんだよ……こいつら。

 俺は負け犬になりたくなくて、お前たちに負けるのが悔しくて、悩んで、もがいて、泣きながらも必死に陽キャを目指していたのに。


 こいつらが一番、負け犬だったなんて。


「……ごめん二人とも。俺、もう寝ないといけないんだ。短い時間だったけど二人の声を聞けて良かったよ。ゲーム、二人で楽しんで」


 俺は上手いこと話をまとめて通話を切った。


 何がゲームサークルだよ。


 あの二人を見るに、陰キャが陰キャに戻ったら、もうそこから戻れない。

 陽キャから傷つけられない、陰キャの温室を知ってしまったら、そこからもう……。


 一度陽キャになることに挫折したら、もう2度と立ち上がれないんだ。

 あの二人みたいに挫折したら……ダメ、なんだ。


「俺は、陰キャには戻りたくない」


 だからこそ明日、俺は逃げられない。


「頑張ろう。俺はもう変わったんだ」




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