36話 崎宮さんの心の内(崎宮side)


 今日の講義……思いっきりサボっちゃった。

 せっかく風切くんと同じ講義だったのに。


 今日は朝から別のスノー・トップスの店舗にヘルプで入っているわたしは、バイト終わりにロッカールームで銀行の貯金額を見る。

 を進めるためにお金が必要なこともあるけど、わたしは連日バイトのシフトを増やしていた。


 全ては風切くんとの未来のため……。

 風切くんと二人で過ごせる未来を創造するためには多少の犠牲(講義)はやむを得ないと思うし。


 それに今日の講義は出席が成績に響かないこともあって、バイトの方を優先してサボった。

 風切くんとの未来のためにお金が必要なのはもちろんだけど、それ以外にも講義をサボった理由が一つある。

 サボった本当の理由は、昨日プレゼントを貰った時に感極まって泣いてしまったから、風切くんと会うのが……少し恥ずかしい。


 わたしは耳元のノンホールピアスにそっと触れる。


 大切なものだからしまっておきたいと思ったけど……可愛いものを身につけたい欲に負けてしまった。


「風切くん……」


 ここまで想いが強くなるのはいつ以来だろう。


 日曜日の朝にやっていたアニメに出ていたピンク髪のヒロインに強い憧れを抱いたあの瞬間によく似ている。


 わたしは昔から好きになったものへの執着が凄かった。

 それは自分の姿を鏡で見れば、一目瞭然。


 好きなものには寵愛を、嫌いなものには憎悪を。

 だからこそ、男子を好きになるなんて考えられないものだったけど、今こうしてわたしは風切裕也くんに恋焦がれている。


 芯の強いわたしを動かした彼は……とても特別な存在だ。


「はやく風切くんに……会いたい」


 そんなことを考えながら私服に着替えてロッカールームから出た途端、日向さんから電話が入った。


 日向さん? 何だろう。


「はい。崎宮です」

『やほー崎宮ちゃーん』

「……何か? わたし、今は外にいて」

『サークルの話っ! 明後日4号館の5階にある会議室で話し合いするから来てねー』


 そういえば昨日、日向さんから旅行サークルとやらに勧誘されたのだった。

 矢見さんや風切くんも入るって聞いたからわたしも入ることにしたけど……その話を聞いた時からずっと、嫌な予感しかしていない。


 サークルには女子しかいない、と聞いたからノンストレスで入れると思ったけど、よく考えたら風切くんが一人だけ男子になるって意味であって。


 それに1番懸念してるのは……風切くんの同級生という女。

 日向さんのサークルにいる同級生の子の話は風切くんから前に聞いたけど、その子と風切くんの関係が非常に気になって仕方ない。


「日向さん、一つ聞いてもいい?」

『なになにー?』

「風切くんの高校時代の同級生の子って、どんな子なのかしら」


 その質問をすると、日向さんは「むぅ……」と考え込むような反応を示して黙りこくってしまう。


『どんな子なのかは見てのお楽しみだけど、崎宮ちゃんなら仲良くなれると思うよー?』

「……そう、なら明後日楽しみにしてる」


 わたしはそう言って電話を終わらせる。


 わたしとなら、仲良く……?


 その言葉の意味が分からないまま、わたしは帰り道を歩いた。




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