35話 サキュバスの微笑み
俺が誰かと付き合ってる……?
なんで俺に、そんなこと。
清水はその怪しいまでに美しくミステリアスな瞳で、呆気に取られた俺の目を見つめてくる。
「風切さんって高校の時よりも見た目が明るくなっていらしたので、もしかしたら環境の変化があったのかと……ふと思ったのです」
それって、清水から見ても、俺が少しは陽キャっぽく見えたってことかな……?
でも俺、彼女いないし。
「お、俺……彼女はいないよ」
俺は恥ずかしい気持ちを押し殺し、清水に向かって正直に全てを話した。
俺が大学デビューしてる元陰キャなんてことは、同級生の清水なら察してることだし、今さら陽キャぶっても仕方ない。
彼女がいないのは事実だし、崎宮さんとも……仲は良いけど、そういう関係ではないのだから。
「本当に、彼女さんはいらっしゃらないのですか?」
「う、うん。大学から見た目は頑張ってみたけど、内面は高校の時のままだし、相変わらず異性と話すのは苦手っていうか……」
「内面は高校の時のまま……ふふ」
またしても清水は口元を緩ませて不敵な笑みを浮かべる。
「それはとても良いことだと思いますよ。わたくしと致しましては、高校時代の正義感のある風切さんのままで安心しましたから」
正義感だなんて言ってくれてるけど、俺はただ清水のストラップ探しを手伝っただけなんだよな。
「でも、先ほどの反応的に……誰か気になる方がいらっしゃったり……」
清水はさらに目を細める。
そのアイシャドウのせいで、
「お、俺はっ」
気になる人なんて、崎宮さんに決まって。
「なーに話してんのー?」
自販機でカフェオレを買ってきた日向が、テーブルにボトルを置きながら話しかけてくる。
「風切さんの恋愛事情に少し興味があって、そのお話を」
「風切の? あ、それならあたしから話してあげよう〜」
「おい、日向っ」
日向のことだ、もしかしたら崎宮さんのことをベラベラ話すかも。
「なーんて、うそうそ。風切は恋愛とか奥手だし、特に浮ついた話とかないと思うよ? その証拠にこんな美人のあたしにすら手を出さないくらいだからねっ」
「自分で言うなよそれ」
「風切ってめっっちゃ理想高いからさー、きっとミス東南大ですら気に入らないと思う」
「知ったかぶるな。清水、耳貸さなくていいから」
「さすが風切さん。それほどまでに理想が高いなんて素敵ですわ」
「だから聞くなって!」
俺が理想ばっかり高い嫌な男みたいな感じになっちゃったけど、日向が崎宮さんのこと話さなくて安心した。
崎宮さんも同じサークルに入るから、いずれ清水も知ることになるとは思うが、俺の近くに清水と同じく地雷系ファッションが好きな美少女がいることはなんか言いづらい。
それに、崎宮さんの地雷系ファッションと清水の地雷系ファッションは、なんていうか、こう……似通っているけど絶妙に違うような気がする。
それに矢見さんも地雷系着るようになったわけだし……。
俺の周りって地雷系ファッション好きな女子多すぎだろ。
「あ、そうだ。旅行サークルのことなんだけどさ」
日向は何か思い出したかのように旅行サークルの話を始める。
「さっき先輩からlimeがあってさ。明後日4号館の5階にある会議室に集まって今年最初の旅行先を決めるんだってさ。新しく入る風切たちにも来て欲しいって。清水ちゃんや先輩とは初顔合わせになるけど、いいよね?」
「俺は別に構わないけど」
崎宮さんはどうだろう。今日も講義にすら来てないみたいだったし、バイト忙しくないのかな?
「今はわたくしたち2人と1学年上の先輩が1人しか居なくなってしまったので、新しく入る風切さんたちと決めたいですし、自己紹介もしたいので」
自己紹介……か。
崎宮さんと清水が会ったらどうなってしまうのか……。
想像しただけで身震いが止まらない。
「じゃ、明後日会議室集合ってことで」
「楽しみにしてますね。風切さん」
「……う、うん」
何もなければいいけど……。
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