33話 清水神奈子の真実


 その後の講義を適当に聞き流し、日向に流されるまま、俺と日向は二人で学食へ向かう。


「やっぱ昼前の講義って眠くてヤバいよねー?」

「あ、ああ」


 この後、学食で清水と会うことになっている。

 今の清水神奈子がどうなっているのか、かなり気になるところだ。

 日向の言い方的に、前までの黒髪清楚なイメージとはまた違う見た目になってるとか?

 それこそ意外と崎宮さんみたいな派手な髪色になってたりして……。

 まあでも俺たちも大学生だし、むしろイメチェンするヤツの方が多いと思うから、そこまで驚かないと思う。

 あの鈴木や佐藤ですらイメチェンして大学デビューしたくらいで、当の俺も……そうだし。


「あ、清水ちゃんいたいた。お待たせー清水ちゃーん!」


 日向は学食に着くとすぐに清水を見つけ出し、早歩きで駆け寄る。

 俺は日向について行くようにそのテーブルまで歩み寄ったが、そこにいたのは……。


「あらあら……お待ちしておりましたよ。日向さん」


 女子にしては高めの身長と長い足。

 艶のある長い黒髪とは正反対に真っ白な肌。

 長いまつ毛が特徴的な少し吊り目の鋭い眼差しは、一見本人の性格をキツく思わせるけど、口元がいつも笑っているからどこか柔らかく見える。


 ここまでは高校時代と変わらない清水神奈子なのだが、問題はその服装……。


「え゛……き、清水、だよね?」

「はいっ、お久しぶりですね風切さん」


 清水は丁寧な口調で挨拶しながら学食の椅子から立ち上がり、俺の方を向く。


 ど、どうなってんだ……この服装、どう見ても。


 じ、地雷系……っ!?


 黒を基調としたフリルが目立つオフショルダーのブラウス。胸元にはハートのリボンがあしらわれていて、スカートはハート型の金具のベルトが巻かれたハイウェストフレアスカートで、もちろん色は黒。

 さらにそのスカートから垣間見える細めの太ももにはガーターベルトが巻かれ、銀色のリングで網タイツと繋がれている。

 靴もリボン付きのショートブーツ……完全に地雷系ファッションだ。


 ただ、崎宮さんと違うのはその色合い。

 派手な崎宮さんとは対を成すようにシックな色合いの地雷系。

 地雷系の知識0だったら『喪服かよ』とツッコミを入れそうなくらい、黒で統一された病みファッションなのだ。

 清水の場合は髪色も黒ということもあり、身体全体から、病みオーラが溢れている。


「……っ」

「風切さん?」


 俺は言葉を失いその場に立ち尽くしていた。

 立ち尽くしているという客観的な事象を自覚するくらい、清水の地雷系に目を奪われていたのだ。


 あんなにお淑やかなお嬢様みたいなキャラだった学校一の人気者・清水神奈子が……じ、地雷系ファッション……。

 その服装だけでなく、俺は大きな胸を見て生唾を飲む。

 胸元にある黒いリボンが天井を向くくらい、清水の胸は膨らみがあって、その大きさは崎宮さんと同格……。

 高校時代から周りと比べるとスタイル良かったし胸も大きめだとは思ってたけど、私服だとさらに大きく見える。

 というか大きくなった、のか?


「どうしましたか? 風切さん」

「あ、いや!」

「先ほどからわたくしの服を凝視されていましたが……もしかしてわたくしの服……おかしいですか?」

「そんなことはないよ! 俺は、その」


 俺が上手く誤魔化そうとしたら日向が俺の肩をポンっと叩いて会話に入ってくる。


「いやぁ、風切って地雷系女子オタクだからさー、いつも地雷系ファッションの女の子のことナンパしててー」

「へ、変なこと言うな! してないだろ!」

「してるじゃーん」

「へぇ……そうでしたの?」


 突然、清水の俺を見る視線がしっとりして、俺の背筋を凍らせる。

 やばい、キモいと思われたのか……っ!


「地雷系ファッションがお好きだなんて……なんかそれ"神の導き"みたいですね?」

「み、導き? 何が?」

「ふふ……いえ、こちらの話です」


 そういや高校時代から清水ってちょっと不思議なこと言う奴だった。

 現役で東大行くくらいだし、頭が良いから小難しいこと並べてるだけなのかもしれないけど。


「風切さん、お久しぶりですね? こうしてお話しするのは高校の修学旅行以来でしょうか」

「そう、だと思う」

「せっかくですし、座って色々とお話ししましょう」


 清水はふふっと妖麗な笑みをこぼした。



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