29話 次なるラブコメへの誘い
すっかり夕方になった帰り道を歩き、俺は肩を落としながら部屋まで戻ってきた。
「はぁ……俺が渡したプレゼント、あんまり喜んで貰えなかったのかな」
あの後、崎宮さんは泣き止んでから「嬉しい嬉しい」と何度も言ってくれたけど、俺があのプレゼントを渡したことで崎宮さんのこと泣かせてしまったのは事実。
そりゃ素直に嬉し泣きだったならいいけど……本当は嫌だったとかなら、余計なことしちゃったなって思う。
「本当は迷惑だから泣いちゃった、とかだったらショックだよなぁ」
崎宮さんって見た目こそ派手だけど、中身は普通の女の子だからそんなことはないと思いたい……。
俺は頭の中でさっきのことを堂々巡りしながら、部屋着に着替える。
すると、脱いだ服のポケットに入っていたスマホに通知が入った。
「矢見さんからlime?」
俺はlimeを開いてすぐに内容を確認する。
『yummy:風切さん! 今日はありがとうございました! それと、答えづらかったら無理に答えなくていいのですが、最後少し様子が変でしたが崎宮さんと何かありました?』
矢見さんには俺と崎宮さんの間で何かあったように映ったらしい。
心配してわざわざlimeをくれるなんて、矢見さんも優しいよなぁ。
そうだ。矢見さんに相談してみよう。
女子からの意見も聞きたいし。
『風切:実はね、崎宮さんにちょっとしたプレゼントあげたんだけどそれがきっかけで崎宮さんのこと泣かせちゃって……もしかしたらプレゼントが嬉しく無かったんじゃないかと思ってて』
『yummy:え? 崎宮さんなら凄い嬉しそうでしたよ? 帰りの電車でも「これ風切くんから貰ったの」って何度も何度も私に自慢してましたので笑』
『風切:ほんとに!?』
そんなに喜んで貰えたなんて……。
喜んで貰えたなら、とりあえずオッケーかな。
『風切:矢見さん色々ありがとう。少し安心したよ』
『yummy:いえいえ』
最後にシャム猫がペコリとお辞儀するスタンプが送られてきて、yummyこと矢見さんとのlimeが終わった。
「さてと、モヤモヤが晴れたんだし、今晩はパーっと行きますか!」
一気にテンションが上がった俺は、景気良くウォーバーイーツで出前を頼むことにする。
「寿司もいいけど、今日はカツ丼の気分〜」
ウォーバーイーツのアプリで注文しようとしていた時、急にスマホがバイブした。
「日向から電話だ。なんだろ?」
ゼミのグループ活動か? でもまだ課題とか出てないし……。
「もしもし、風切ですけど」
『あ、風切ぃー?』
「どうしたんだ? 急用か?」
『まぁ、そんなとこ! 実はあたしのサークル、来週で4年生の先輩たちが就活とかで一気に抜けるらしくて。残った2年生の先輩から何人か1年生誘ってほしいって言われちゃってさー』
「ま、まさか俺にサークルへ入れってこと?」
『そんな身構えなくても大丈夫大丈夫。うちのサークルって2年の先輩が1人と、1年生はあたしと清水ちゃんの2人だから』
清水ちゃんって……あの清水神奈子か。
「清水神奈子がいるならなおさら嫌なんだけど」
『ええ? 清水ちゃんから風切誘ったらって言われたんだけど』
「修学旅行の時しか面識のない清水神奈子がそんなこと言うわけないだろ」
『まぁそう言わずと。うちのサークル3年生が0人だから、今のところ3人しかいなくて色々と困ってんの!』
「困ってるのは分かったが、そもそもの話していいか?」
『ん、なにー?』
「日向がどのサークルに入ってるのか聞いたことなかったんだけど、何のサークルなんだ?」
そう、思い返せば俺は日向が何のサークルに入っているのかまだ聞いたことがなかったのだ。
『あたしが入ってるのは旅行サークル! 全国をサークルのみんなで旅行するのが活動内容で、色んなところ行ったりすんの! 楽しそうでしょ?』
みんなで旅行するサークル、ねぇ……。
「偏見だけどさ、ヤリサーみたいだな」
『うん。なんか10年前くらいまでは普通にヤルためだけのヤリサーだったらしいよー』
「ヤリサーだったのかよっ!」
『今の4年の先輩が入る前くらいに、たまたまメンバーが女子オンリーになって、男子がいなくなったから必然的に普通の旅行サークルに戻ったんだって』
いや、それが旅行サークルの在るべき姿というか。
「なら、今も女子しかいないのか?」
『うん! だからハーレム好きの風切には持ってこいの話だと思うけどー?」
「誰がハーレム好きだ! お、俺はハーレムなんて望んでない!」
『ええ? まあハーレムとかは置いといて、風切は崎宮ちゃんと旅行したくないのー?』
「崎宮さんっ?」
俺は崎宮さんの名前が出た瞬間に身構える。
「さ、崎宮さんはそのサークルに入るのか!?」
『まだ入るって決まったわけじゃないけど、さっき電話したら男子がいないなら考えておくって言ってたよ?』
崎宮さんと……旅行。
今後、俺から誘えるわけないし、サークルという名目で行けるなら……。
俺はゴクリと生唾を飲む。
「わ、分かった。崎宮さんが入るなら……俺も入る」
『うわぁ女子を餌に唆されるとか……風切は欲望に忠実だなぁ』
「唆した張本人はお前だろっ」
『どうせ崎宮ちゃんのデカパイ目当てじゃん。言っとくけどヤリサーには戻んないからね?』
「あ、当たり前だろ」
日向のやつ、変なこと言うなよ。
俺は決して崎宮さんの、で、デカパイが目当てじゃない。
崎宮さんと旅行がしたい、ただそれだけだ。
『まあ何はともあれ、風切が入ってくれるなら清水ちゃんも喜ぶと思う。清水ちゃん、自分だけ違う大学だから、サークル新歓コンパの時とかも少し肩身狭そうだったし』
そう、だったのか。
意外だな。清水神奈子といえばコミュ力の塊みたいだったのに。
それに彼女は、崎宮さん並みに俺とは遠い存在だった。
『あと矢見ちゃんも入るって言ってくれたし、ゼミのいつメン揃い踏みだね? こりゃ楽しくなるなぁ』
日向は声を弾ませる。
楽しいかどうかは分からないが、矢見さんもいるなら心強い。
身体は小さいけど意外としっかり者だったし。
『じゃあサークルの件はまた決まったら連絡するねー。色々ありがとう風切〜』
そう言って日向は電話を切った。
俺がサークル……か。
ここ数日で友達も増えてサークルにも入るなんて……。
「俺、少しづつ陽キャの階段上ってるよな?」
なんて自惚れていたが、よくよく考えてみると。
「……まぁ、周りに女子ばっかりなのが懸念的なんだが」
日向の言うハーレムってやつも、あながち間違いではないと感じていた。
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