27話 ファッションショー開始ぃ!


 風切くん、さっきあの店員と話してるみたいだったけど……。


 矢見さんがフィッティングルームに行っている間、わたしは風切くんと二人で軽く店内を見て歩き回っていた。


「崎宮さんってこのお店の宣材写真に使われてたんだね?」

「それ、あの店員から聞いたの?」

「うん!」


 モデルやった時、まだ高校生だったから素直に恥ずかしい。

 まだあの頃はまだ髪色も地味な茶髪だったし、ピンクも控えめな時期だったから風切くんから失望されないといいけど。


「わたしがモデルしてだ時の写真、見たの?」

「あ! プレゼント選んでたからエアドロで貰ったの忘れてた!」

「プレゼント?」

「あ、えっ! っと、なんでもないよ! 今から写真見せてもらおーっと!」


 プレゼント……なんで風切くんが?

 もしかして、ロリータファッションデビューの矢見さんに?


 スノトにいた時からやけに楽しそうに話してたし、脳内でも矢見さんのこと「可愛い」って思ってそうだったし。

 まぁ、頭の中が読めるわけではないけど、風切くんって分かりやすいからある程度把握できてしまう。


 確かに矢見さんは、全体的に小さいけど、顔は"無自覚なあざとさ"があって男子からモテそう。


 風切くんもそれは分かってるみたいだし、もし風切くんがロリ●ンなら、すでに気持ちが矢見さんに……。


 元々風切くんはわたし本人のことが気になるというより、わたしのファッションが気になっていたはず。

 だから、矢見さんも同じ趣向になったらわたしのことなんて……。


「崎宮さん、この時の崎宮さんもすっっごい可愛いよ! 最初に会った時から芸能人オーラあったし、崎宮さんなら本当にモデルとかになれそうだね」

「……嫌だ」

「え?」


「わたしはモデルなんかより、風切くんの一番になりっ——」


「おっ待たせしましたー!」


 フィッティングルームの方からタタタッと小走りの足音が近づいてきた。


「や、矢見、さんっ!」


 風切くんが目をカッ開くほどに、矢見さんが着るロリータは違和感なくそれ以上に似合っていて、自然体に映ったのだ。


 矢見さんの黒が多めがいいというリクエストに応えて選んだセットアップ。


 まず手始めに矢見さんがコンプレックに思っていた身長をカバーするために選んだのは、黒い厚底の編み上げブーツ。

 これで風切くんを首から見上げていた姿勢が一気に目だけで見上げられるようになった。(これによって上目遣いあざとおねだりも可能)


 バッグも、少し値は張るけどソフトレザーの可愛くて人気のあるバッグを選んだ。

 わたしもよく愛用するブランドだから見た目と質は安心して欲しい。


 そして肝心の服は矢見さんの「黒とピンクは入れたい」というリクエストに合わせて、ピンクのシースルーブラウスに黒くて大きいリボンをあしらったものを選んだ。

 スカートは少し長めの黒いハイウェストスカート。

 矢見さんの場合はハイウェストにしても膝までが短いので少し長めに映るけど、それが一つのポイントとして映えるようにした。


 矢見さんが着るとわたしとは違った趣があり、ロリータファッションのロリータ味をさらに濃く仕立てている。


「お二人とも、どう、ですか?」

「凄い似合ってるよ! ね、崎宮さん」

「うん。本当に凄い……あとはメイクもファッションに寄せたら完璧だと思う」

「え、えへへ。崎宮さんのおかげですよー」


 矢見さんはニコッと笑顔をこちらに向ける。


 ……そっか。

 矢見さんみたいな自然な笑顔が、わたしにはできないから……風切くんは。


 プレゼント、いつ渡すのかな?


 ……渡すところ、見たくないな。


「じゃあお会計してきますので、しばしお待ちくださいっ」


 わたしは矢見さんには……なれない。

 自然な笑顔なんて……。


「さ、崎宮さんっ!」

「へ?」

「少し、店の外に出て待ってようか」

「う、うん……」


 なんだろう。

 やけに風切くんが緊張しているように見えた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る