24話 矢見ちゃんの想い
崎宮さんが運んでくれたフラペチーノを飲んでいると、矢見さんが手を差し出してくる。
「風切さんっ、メロンも一口貰ってもいいですか?」
「え、あ、うん」
俺は崎宮さんがわざわざ10本も持ってきてくれたストローの束の中から一本取り出し、自分のメロンフラペチーノと一緒に矢見さんへ渡した。
「じゃあ交換で私の桃をどうぞ?」
「あ、ありがとう」
矢見さんから桃のフラペチーノを受け取る。
受け取った時に思ったけど、矢見さんもネイルとかしてるんだ?
矢見さんの爪は水色と白の水玉模様のネイルで、崎宮さんのピンク一色ネイルとはまた違ったカラーリング。
女子って爪の先までオシャレに拘って、凄いよなぁ。
「むふぅ〜、やっぱりフラペチーノは美味しいです! メロンも良き良き」
「矢見さんってフラペチーノ好きなの?」
「はい! このしゃりしゃり感がすっっごい大好きで!」
「へぇ……」
すっごい大好きって……語彙力が飛ぶくらい好きなんだ。
やっぱ矢見さんはお子様な感じがした。
「実は、今日ここに来たのは崎宮さんが見たかったのもあるんですが……本当はこれが飲みたかったのもあって」
「ふーん」
まあなんとなくそんな気はしていた。
電車の中でもフラペチーノのことばっか話してたし。
「……あとちょっとだけ、異性の子と行くスノトも味わってみたいなって」
「異性?」
「す、スノトって……カップルも多いじゃないですか! 例えばデートの寄り道とかで来たりして!」
「は、はぁ」
「それにちょっぴり憧れがあったというか」
矢見さんはぶつぶつ言いながらピンク色だった可愛らしい頬を赤く染めた。
カップルに憧れって……矢見さんも高校の時に男子と行ったりしたんじゃないの?
それを聞いてみたかったがそこにはまだ踏み込めない一線があるような気がしてやめておいた。
「矢見さんって純粋無垢な感じだと思ってだけど意外と打算的なんだね? 崎宮さんをダシに使うとか」
「だ、だって! ……風切さんは私のこと、『チビっ子』とか『ロリ』とか馬鹿にしない男子だったので、大丈夫かなって思ったんです。他の男子はすぐ私の身体が小さいことイジってくるので」
その手のノリでイジられたことがありそうだなぁと思っていたが、やっぱり経験あるんだ……。
「馬鹿になんてしないよ。てかむしろ俺の方が『こいつ陰キャ臭い』とか馬鹿にされると思ってたくらいだし」
「風切さんが陰キャくさい?」
「え、思わない? 喋り方とかノリとか、俺、陰キャだけど」
「私は、特に思いませんでしたよ? 風切さんって日向さんとも仲良さげでしたので、てっきり陽の
「陽の方って」
でもそっか、日向と仲良くしてるとこんな俺でも陽キャに見えるものなんだな。
あんまり考えたくないけど、友達って自分のイメージにも関わるのか。
「まぁ俺は大学デビューの陰キャだからさ、下手に陽キャとか思わないで接してくれると助かるかなぁなんて」
「……風切さんは強いですね」
「な、何が?」
「私は自分のコンプレックスとか、自分から言えないから」
矢見さんは言葉を噛み潰すように淡々とそう言ってフラペチーノを吸った。
褒めてくれたのかもしれないけど、自虐は陰キャの武器だからなぁ。
「私が憧れてる崎宮さんみたいな地雷系の服も……結局はこの小さな身体を少しでも目立つように見せたいだけなのかもしれないです。ただの自己満足で」
「それならそれでいいんじゃないかな?」
「え?」
「好きなものを長所にするのって全然悪いことじゃないと思うよ? 崎宮さんだってあんなに目立つのは好きなピンクのものに一心だからだし。矢見さんだって地雷系が好きなんだよね? ならきっと似合うと思うし、もし良かったら俺も見せてほしいっていうか」
「へ?」
やべ、つい崎宮さん以外の地雷系も見てみたいという願望がっ!
最後のは普通にキモいよな……。
「ご、ごめ、やっぱ今のは」
「風切、さん、じゃあこの後」
「?」
「一緒に地雷系のお洋服買いに行ってくれますか?」
服……?
俺と?
「……う、うん。いいけど。俺なんかでいいの?」
「見たいって言ったのは風切さんです! 責任持って私とショッピングしてください!」
「う、うん分かった」
こんな陰キャの俺とショッピングとか、普通に嫌だと思うけど……。
「風切くん——お待たせ」
俺たちがテーブルで話していると私服姿に戻った崎宮さんが現れる。
「ちょうどいい所に! この後矢見さんと服を買いに行こうって話になったんだけど、崎宮さんアドバイスしてあげてよ!」
「…………は?」
崎宮さんは顔を引き攣らせながら答えた。
え、なんかキレ気味……?
仕事終わりで機嫌悪いのかな?
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