21話 みんな、ポニテは好きかい?
半ば強引に矢見さんに連れられ、大学から駅まで来たけど……何も言わずに崎宮さんのバイト先に突撃するなんて、崎宮さんに迷惑かけないかな……?
一抹の不安を抱えながらも、俺は矢見さんと駅の改札を通りホームまで出る。
さっきは崎宮さんの働く姿を見たいという衝動に駆られてしまったが、友達のバイト先に行くなんてやっぱり悪いんじゃ……。
「ふふ〜んっ、バイト服姿の崎宮さん、楽しみ〜」
鼻歌混じりに言う矢見さん。
どうやら矢見さんは崎宮さんの地雷系ファッションに憧れを持っているらしく、崎宮さんのことを推しのアイドルのように思っているみたいだ。
「風切さんも楽しみですよねっ?」
「あーうん……」
崎宮さんのことだから怒るってことは無いと思うけど、逆の立場だったらかなり嫌だもんなぁ。
次会う時に『なんで来たの?』と質問されたら何て答えたらいいのか……。
そんなことを考えているうちに、楽しみな気持ちよりも不安な気持ちの方が上回ってしまう。
「はぁぁ……」
ウキウキな様子の矢見さんを横目に、俺は軽くため息を吐いた。
「なんですかそのため息! もしや、本当は崎宮さんのバイト服姿に興味がないとか? 風切さんの地雷愛はそんなものなんですか!」
「そういうのじゃなくて」
「ほへ?」
「なんていうかさ……崎宮さんも必死にお仕事してるのに、俺たちが遊び半分で行くのは冷やかしみたいにならないかなって」
「そ、それは……まぁ、一理あります」
矢見さんは額にシワを寄せながら考え込む。
「でもま、ちゃんとお客様としてお店に行けば大丈夫ですよ! 友達がバイトしてたらその店に行けないなんて、不自由ですし」
「そ……それも、そっか」
俺と矢見さんはあくまでお客として崎宮さんのスノー・トップスに行くんだ。
俺はそう心に言い聞かせて、矢見さんと一緒に電車へ乗った。
✳︎✳︎
今日もスノー・トップスのバイトはかなり忙しい。
「崎宮先輩! フラッペが上手く作れなくて……」
「フラッペはこうやるの」
「わぁ、ありがとうございます!」
春先は入学シーズンということもあって、入学したてで初バイトの大学生や、バイトOKな高校に入った高校生の新しいバイトの子が一気に増える傾向がある。
そのため高校からここで働いている古株のわたしは、普段の業務と一緒に新バイトの面倒も見なければいけないので、必然的に激務に追われてしまう。
昨年まで中学生だった新高校生はミスが多くても目を瞑るけど、わたしと同じく今年から大学生になった新バイトの子は、年齢的にももう少し上手くやってほしいというのが本音だ。
わたしみたいな高校の時からやってる子とは比べるのは良くないけど、仮にも大学生なんだからもっと要領良くやってくれないと……。
「さ、崎宮先輩っ、これ、ミスっちゃってどうしたら」
「ここは任せて。代わりにレジよろしく」
「は、ハイっ」
フラペチーノ作りに手こずる同い年の新人バイトの子のサポートをしながら、わたしは店を回す。
一応、今年からわたしはバイトリーダーの一人に任命されたので、立場に合った仕事をしなければならない。
わたしは新人のサポートをしながら他の仕事もスムーズにこなし、その上で自分の可愛いを追求しないと。
わたしはいつものピンクエプロンに、長いピンク髪をポニーテールにしてまとめる。
本当は髪を流していた方がピンク以外にもインナーの赤が映えるし、ポニテはわたしの可愛いにそぐわないからあんまり好きじゃないけど……仕事中はたくさん動くし、こっちの方が楽なんだよね。
「新人ちゃん、フラペチーノの方は処理しといたからよろしく」
「ありがとうございます崎宮先輩!」
「じゃ、わたしはレジ戻るね」
わたしは自分でもロングヘアの方が似合うと思ってる。
まあ、仕事中は風切くんに見られることがないし……別にいいか……な?
「崎宮、さんっ。ぽ、ポポ、ポニテっ」
レジにいたのは——風切くんッ!?
か、風切……くんっなんで!
「——と、私もいますよー」
視野の外からひょこっと顔を出したのは、今日知り合ったロリな見た目の女子……確か名前は矢見さん。
は? なんで、この子……わたしの風切くんと……っ!
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