4章 憧れは止まらない!(地雷系)

19話 孤独な学食ラブコメグルメ


 さっき崎宮さんから急接近されたせいで、なかなかドキドキが止まらない俺。

 崎宮さんが俺の胸に飛び込んできた時は心臓が飛び出そうなくらいびっくりした。でもめっちゃ良い匂いしたなぁ……。

 相変わらず陰キャっぽい感想しか出てこない。

 女性慣れしてないんだから仕方ないだろ。


 ゼミの後は相変わらず暇な俺は、悶々としながら学食まで来た。

 さて、今日も学食グルメと行くか。


 俺の通う東南大学は都内トップクラス私立大学であり、都内にキャンバスが何個もあって学内の施設もかなり充実している。

 中でも学食は地域の人たちが毎日のように食べに来るくらい美味しくてコスパが良いのだ。


 和食はもちろん洋食や中華、インド料理まであり、そのクオリティはその辺のファミレスより値段が安いのに段違いで美味しい。

 このように豊富なジャンルが揃っている上に値段も安いことから、かなり好評なのだ。


 俺は大好きなカルボナーラ定食(400円)のトレーを受け取ると、それを持ってテーブルまで移動する。


 料理しない俺にとって、大学の学食メシは唯一の"まともな食事"と言っても過言じゃないだろう。

 いつも通り、カルボナーラ食べながらTwiXするか。

 俺は片手のフォークでパスタを巻き、もう片方の手でスマホをイジる。

 俺は陽キャを目指しているのにInsteやtictaxといった流行りのSNSをやっていない。

 唯一やってるTwiXも、高校の同級生(鈴木や佐藤)やアニメ関連の公式アカウントしかフォローしておらず、大学生の知り合いは崎宮さんのアカウントしかフォローしていない。

 それもあって崎宮さんの投稿が一番上に来ることが多く、崎宮さんの投稿は全てチェックしている。

 直近だと『新しいお洋服作ったー』という地雷系ファッションの服を紹介する投稿や、『ピンクラビットのぬいぐるみ買ったー』という好きなものを紹介するような投稿が多く見られ、その全てに1000いいねも付いているので、崎宮さんの顔の広さが伺える。

 リアルアカウントなのにフォロワー4000人もいるもんなぁ……やっぱり崎宮さんは凄いや。


 崎宮さんのそんな投稿を毎日見ていたからか、最初こそビビってしまった崎宮さんの地雷系ファッションも、今では普通のファッションのようにも思える。

 それだけじゃない。ピンクに赤のインナーカラーが入ったあのロングヘアも、今じゃ見慣れてきてむしろ可愛いと思えている。

 見慣れたというのもあるけど、崎宮さん本人の人間性に俺は惹かれているから崎宮さんの好きなものが全て肯定できるようになっているのかもしれない。


 やっぱり俺は、崎宮さんのこと……。


 でも俺みたいな根が陰キャの大学デビュー失敗組男子が、あんなにキラキラした崎宮さんと釣り合うわけがない。

 崎宮さんだって、あくまで友達として俺と仲良くしてくれているなら、俺が変に恋心を抱いたら迷惑に思うんじゃ……。

 

 そんなモヤモヤを抱えながら、たまたまこの前フォローしていた【病み系女子大生の日常】というアカウントを開く。


『2分前:今日は彼ピにみんなの前で抱きついちゃった♡ しっかりマーキング完了〜♡』


 へぇ……この人インフルエンサーか何かかと思ってたから彼氏とかいない設定なのかと思ってたけど、公言してるんだ?


 こんな地雷系ファッション丸出しの子でも、ちゃんと彼氏がいるんだ。

 崎宮さんも……きっと。


「あーもう! いつまで聞けないでいるんだよ俺ぇ!!」


「ぴひゃっ、風切……さんっ?」


 ぴひゃ?

 俺が声の方を向くと、そこには中学生……ではなく、矢見さんがいた。


「あれ、矢見さん? この後講義なんじゃ」

「実はですね、次の講義をいつも担当してる教授が乗ってる飛行機が羽田まで来る途中で激しめのバードストライクして引き返す事になったらしくて……今日は休講です」

「へぇー。それで矢見さんもお昼を?」

「はいっ。せっかくだから食べようかなって」


 俺は矢見さんの手元のトレーを指差しながら言う。

 矢見さんのトレーにはこの学食で一番人気のデラックスカツ丼(500円)があった。

 とろっとろの半熟卵と分厚くてジューシーな豚肉が白米を覆う。

 香りからして胃が重くなるが、見てるだけでよだれが出てくるくらい美味しそうだ。

 矢見さんって、小柄な見た目の割に重めなモノ食べるなぁ……。


「それで日向は?」

「日向さんは他大学から来た同じサークルの人と一緒にどこかへ行くとか……?」


 ああ、清水神奈子のことか。

 矢見さんはトレーをテーブルに置くと、俺の向かいの席に座った。


「風切さん、少し聞きたいんですけど」

「な、なに?」

「崎宮さんの……」

「ん?」


「崎宮さんの……しゅっ! 好きなんですか!?」


「は、は?」

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