18話 男女の関係(意味深)


 最終的にゼミのグループは俺たち4人といかにもオタクっぽい見た目の男子グループ、陽キャ男子と陽キャ女子の混ざった2グループ、そして残りの女子と男子がグループになり、全部で5グループができた。


 日向が前に言っていたように俺だけハーレムグループ、か。


 それも崎宮さんと一緒……。


 俺は隣に座る崎宮さんの顔を見つめる。


 流れでグループを組めたけど、もしさっき日向から話を持ちかけられなかったら、崎宮さんと違うグループになっていた可能性もあるし、日向には感謝だな。


 にしても、1軍女子で温厚そうな日向でも女子グループ内で仲別れとかするものなんだな。

 まあ崎宮さんの憶測だから、それが原因かどうかなんて分からないんだけどね。


「では本日からは、基本的にそのグループで活動してもらいます」


 教壇の薄井先生はマイクを片手に伝える。


「ではこれから講義に移ります。今回は図書館の利用とレポートの書き方について……」


 こうして退屈な講義が始まった。


 ✳︎✳︎


「今日はここまで。次回はグループでテーマを決めてレポートを提出してもらいます」


 講義終了1分前に薄井先生はそう言うと、講義の締めに入る。


「また、次回までに『社会情勢・日本のこれからと課題』という私の著書を買っておいてください。基本的にこれを今後のテキストにしますので」


 自分の著書をテキストにして学生に購入させるとか……どんなやり口だよ。

 まぁ他の講義でも同じことしてる教授がたくさんいるし、大学では当たり前なんだろうな……。


「……終わりですね。それではまた来週」


 終わりのチャイムが鳴ると生徒たちの緊張感もなくなり、一気に騒がしくなる。


 薄井先生って声に抑揚がないから頭に入ってこないんだよなぁ。


 なんて、先生の文句を頭に並べていると、前に座る日向と矢見さんが立ち上がった。


「あたしと矢見ちゃんは次の講義行くけど、二人は?」

「俺はもう講義ないから、適当に学食で昼飯食べてから帰るよ」

「わたしは……この後バイトあるかな」


 崎宮さんは苦笑いしながら言う。

 そういえば、ちょうど1週間前のあの雨の日も何か用事がありそうな様子だったけど、あれはバイトがあるから急いでたのかな?


 あれで崎宮さんがバイトに間に合ったなら、傘貸して良かったし、びしょ濡れになったかいがあったよな……!


「じゃあ二人ともまた来週ねー」

「またですっ!」


 軽く手を振る日向とぺこりと一礼してから行く矢見さん。


「俺たちも行こっか。崎宮さんバイトの時間大丈夫?」

「うん。先週よりも少しだけシフト遅らせたから」


 俺と崎宮さんは二人で講義室から廊下へ出る。


「いやー、マジでさー」


 俺たちの前を歩く同じゼミの男女グループの話し声が聞こえた。


「やっぱ日向みたいなタイプ苦手だわ。同じグループにならなくて良かったー」

「俺も俺も。気が強くてちょっと男っ気があるから苦手」

「だよね、あたしらも最初そう思ってー」


 話しているのは、日向が最初に声をかけていた女子グループの一人と、先週の講義の後のメシで日向からウザがられた男子グループの中の二人。

 その腹いせなのか、日向を愚痴っているみたいだった。


「てか俺たち何も酷いこととか言ってないのに、なんで日向がキレたか意味不だよな?」

「だよねー」


 男子たち二人は自分たちは悪くないような言い方をして、女子はそれに頷いていた。


 日向側の愚痴では、男子が独りよがりにベラベラ話して女子たち困らせてたから、日向は嫌気が差して先に帰ったとか言っていたが……。

 あの女子も本当は嫌なんじゃなかったのかよ。


「ほんと面倒だよね……男子も、女子も」


 隣を歩く崎宮さんの目がいつの間にか鋭くなっていた。

 崎宮さんは少し暗い話をする時にいつもこの目をする。

 そこには可愛いパッチりとした崎宮さんの目はない。


 もしかして崎宮さんも、過去にこんなことがあったのかな……。


「みんな風切くんみたいに優しくて素直ならいいのに」

「崎宮さん……」

「これで分かったよね風切くん? 女の子って複雑な生き物なの。それはもちろん、わたしも——」


「それでも俺は、崎宮さんだけはそうじゃないって思うよ!」


 崎宮さんが自分もそうだと言おうとしたから、つい俺は口を挟んでしまった。


「崎宮さんは誰に何を言われても動じないし、崎宮さんってすぐに群れたがる他の女子とは違った感じがあって……俺は崎宮さんのそういう所、めっちゃカッコいいと思ってるから!」

「風切、くん……」


 ありのままの気持ちを伝えると、崎宮さんは驚いた顔で俺の名前を呟いた。

 そんな驚くことではないと思うんだけど——っ?


 その時だ。

 崎宮さんはそのピンクのストレート髪をふわっと揺らしながら俺の懐に飛び込んで来たのだ。


「さ、ささ、崎宮さんっ!?」

「わたしは風切くんとなら……群れたいから」

「えっ……そ、それって、どういう」


 崎宮さんはニコッと笑顔を返すと、駆け足で先を行く。


「もう行かないと。またね風切くんっ」


 崎宮さんの匂いと体温が直に伝わってきた。


 ……心臓のドキドキが、止まらなかった。

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