14話 ヒステリック崎宮さんとジト目の日向
急に様子がおかしくなった崎宮さんを宥め、とりあえず椅子に座ってもらう。
今日の崎宮さんは少し様子がおかしい。
なんか誤解されてるみたいだし、まずはそこから説明しないと。
「あの、崎宮さん。俺と日向が話してたのは俺の同級生の話で」
「風切くんの同級生……? どうして日向さんとそんな話に?」
「実は俺の高校の同級生が日向と同じサークルに入ったらしくて、その子のことを話してたんだ。まぁ、ほぼ話したことない子だから、馴れ馴れしく同級生って言うのはおかしいかもだけど」
「……そう、だったんだ」
「まっ、そーいうことだから崎宮ちゃんっ。別にあたしと風切はやましいことなんて話してないよ?」
日向も俺に続いて誤解を解くのに協力してくれた。
しかし崎宮さんは暗い顔のまま無言で日向の方を見ると、次に俺の方を見てきた。
「風切くん」
崎宮さんが口を開くと、どこか重々しい空気が流れ出す。
「わたしは陰口を言われるのが大嫌いだし、裏で仲間外れにされるのも嫌い」
「う……うん」
「興味のない人からされる分には気にならないけど……友達と思っていた人にされたら、本当にツラいの」
「崎宮さん……」
「だから風切くんにはそんなこと絶対にしないで欲しい。約束して。お願い」
その垂れ目の地雷系メイクには似合わないくらい必死な顔と、うるっとした目で俺に訴えかける崎宮さん。
俺が崎宮さんの陰口なんて言うわけないのに……崎宮さんってこんなに心配症だったんだ。
昨日のデートの時はずっとニコニコして元気な姿を見せてくれてたけど、実は繊細な心の持ち主なのかもしれない。
もしかしたら日向が男子たちを愚痴ってた時も、いつか自分もそう言われるんじゃないかと思って怖がっていたのかも……?
だから崎宮さんはここに来てすぐに、俺たちが何を話していたのか気になって聞いてきたんだ。
きっと崎宮さんは、俺たちが自分の悪口を言ってるのかと思ってる……。
もしそうだとしたら崎宮さんにはつらい思いをさせちゃったよね。
「崎宮さん、俺は崎宮さんの悪口なんか絶対に言わないよっ」
「……本当に?」
「当たり前だよ! そもそも崎宮さんに悪いところなんてないっ!」
「えっ……」
崎宮さんは心配症っぽいから、しっかり伝えておかないと。
「崎宮さんは常に自分の大好きなものに真っ直ぐな気持ちを持ってて、自分に自信があって、好きなもののためにアルバイトも頑張ってるじゃん! 俺はそんな崎宮さんを馬鹿にしたり悪口なんて絶っっ対に言わないし、俺は崎宮さんのことを誰よりも尊敬してる!」
「……っ、ほんとに……?」
「それにもし馬鹿にされるとしたら俺の方だと思うよ? 何も上手く行ってないし、友達も少ないし、あはは……」
俺が自嘲すると、さっきまで暗い顔をしていた崎宮さんは口元を緩ませた。
「やっぱり風切くんは……変わってるよね?」
「変わってる!? どこが!?」
「風切は変わり者だよ? 喋る時いつも目が合わないし、なんかオドオドしてるし」
「それは根が陰キャだから仕方ないだろ!」
俺だってなりたくてこうなったんじゃないんだ……!
「まぁ、崎宮ちゃんをイジるより風切の方がイジり甲斐があるってのはそうかもねー」
「もう日向は黙っててくれっっ!」
「やーだ」
日向は俺に向かってあっかんべーした後、目の前に座る崎宮さんの方を見る。
な、なんだなんだ?
「崎宮ちゃん、この前はごめんね? あたしちょっとカッとなってて他人の悪口言い過ぎたから。気分悪くさせちゃったよね?」
日向は真面目なトーンでこの前のことを謝罪した。
さすが日向、陽キャ一軍女子としてちゃんと空気を読んで謝ることで場を納めるとは。
折れる時はすんなり折れる、これが陽キャ。
「……別にいいよ日向さん。わたしも嫌なことがあったら同じくらい言いたくなるし」
「そ?」
「それに……男子は……嫌いだから」
……え?
崎宮さんがボソッと呟いたその一言が気になった。
男子が、嫌い?
「崎宮さん。それってどういう——」
「よっし! 暗い感じはここまでにして! それより二人はどうやって知り合ったの? 先週のゼミの後とか?」
明るい声に戻った日向は仕切りだす。
そういえば俺たちのことを聞きたいって言ってたんだっけ。
「先週のゼミの後に雨降っただろ? 傘がなくて崎宮さんが困ってるみたいだったから、俺から声をかけて」
あの時のトラウマが蘇る。
雨の中泣きながら走ったあの、トラウマ……い、いや! あれはもうトラウマじゃない! あれのおかげで崎宮さんと友達になれたんだから結果オーライだ!
「ほへー! 意外とロマンチックじゃん」
「意外とって……むしろなんだと思ったんだよ」
「いやぁ風切ムッツリっぽいし、崎宮ちゃんのおっぱい目当てで近づいたんじゃないかなって」
「お、おおっおっぱいなんて!」
つい右隣に座る崎宮さんの胸を見てしまう。
やっぱいつ見ても……お、大きい。
前に座る日向がスレンダーだからか、より一層、その胸の大きさが際立つ。
「大丈夫だよ日向さん? 風切くんはそんな目でわたしを見てないから」
「い、いやいや! 今、完全に風切は崎宮ちゃんの胸ガン見してたよ! なんならあたしのと見比べてたよ!」
「おまっ、何言ってんの日向」
「ねぇ、違うよね——風切くん?」
崎宮さんの目がスッと一瞬、細く鋭利な目に変わる。
お……おお……多分、正直に見てたとか言ったら殺されるかも。
「あ、当たり前だよ! 崎宮さんのこと、そんな目で見てないし!」
「だよね? それでこそわたしのプリ……友達だもん」
崎宮さん、やっと俺と二人の時みたいな明るい喋り方に戻ってくれた。
これでひと安心……と、言いたいところだが、今度は日向の目が死んでいる。
「な、なんだよ。その目は」
「……風切、サイテー」
「うっせ」
そりゃ、崎宮さんをそういう目では見てないとは言い切れない。
実際、昨日帰ってから崎宮さんのアカウントの画像を見て、その……色々してしまった。
だって崎宮さん、自撮りの時にキス顔とか、夏の時は露出高めのコーデとかも平気で載せてるし、こんなの見たら……。
『変なことに使ったら……ダーメっ♡』
あの時、崎宮さんとした約束をソッコーで破ってしまった。
だって崎宮さんはこんな可愛いんだから無関心な方がどうかしてるだろ!
「まぁ風切の下心はどうでもいいとして」
「だから下心なんて!」
「実は二人を呼んだ目的は別にあってさ」
「べ、別?」
あれ? 日向はlimeで俺たちが知り合った理由を聞きたいとかなんとか言ってたよな?
「なんか聞いた話だと、今日のゼミからしばらくグループで資料まとめて報告会するっぽいんだけど、良かったら風切と崎宮ちゃん、あたしたちと組まない?」
日向たちとグループ……?
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