3章 グループワークは地雷と共に

13話 知りたいこと。知らない方が幸せなこと。


 ——ゼミ当日の朝。


 俺は身だしなみを整えてからマンションを出て、大学に着くと真っ先に学食へ向かう。

 ゼミは昼前からなので、まだ2時間ほど余裕があり、日向はその時間をおしゃべりタイムにしたいようだ。

 日向はゼミまでの時間、話し相手が欲しいだけなのかもしれないけど、俺だけならまだしも崎宮さんまで巻き込むことになっちゃうなんて。


 前に日向が話しかけてきた時、崎宮さんは気まずそうな顔をしていたから、てっきり今日の誘いは断られると思ってたけど……なぜか普通に『行くよ』と返信が送られてきた。


 崎宮さん、無理してないといいけど……。


 日向みたいな我の強い女子は、崎宮さんみたいなお淑やかな女子とは相反する存在だからなぁ……。

 俺が学食に来ると、真っ先に窓際の4人席に座る日向を見つけた。


 お、いたいた。


 今日の日向はこの前のボーイッシュな服装ではなく、黒のブラウスをウエストにインして着ており下はワイン色のタックスカートだった。

 崎宮さんのロングヘアも女の子って感じがしていいけど、日向みたいなショートヘアはさっぱりしてて大人で美人な雰囲気があっていい。

 それに日向の場合はスレンダーでスタイルがいいから何を着てもモデルのように綺麗だ。

 俺みたいな陰キャが話しかけるのが憚られるレベルだ。


 でも呼ばれたんだしさっさと話しかけよう。


「お、おはよう日向」

「おっ、来てくれてあんがとね風切〜。あれ、崎宮ちゃんは?」

「崎宮さんはまだだけど……そうだ。愚痴なら俺と二人の時にしてくれないかな? 今から崎宮さんが来るまでならいくらでも聞くからさ」

「なんそれ。愚痴魔人の日向から崎宮ちゃんを守る〜っ的な?」

「そんなのじゃない! た、単純に、崎宮さんって純粋な女の子だから愚痴とか嫌いだと思ってさ。この前だって黙りこくってたし」

「確かにねぇ……あたし、悪いことしちゃったかな」


 日向は苦笑いを浮かべながらショートヘアの毛先をいじった。


「この前はちょっとカリカリしててさ。風切ならあの男子どもとも関係なさそうだったからつい。風切も気分悪かったよね? ごめんね」


 日向って我が強そうなタイプだから謝ったりしないと思ってたけど……意外と素直だな。


「別にいいよ。あの男子グループは見た目からしてアレだし、気持ちは分かる」

「俺なら日向のことムカつかせないのにって顔してる?」

「し、してない! するわけない! だって俺の場合はずっとオドオドしてるから、むしろ日向のことイライラさせるかもだし」

「ぷっ……あははっ! 風切おもしろっ」

「わ、笑うなよ」


 俺は正直に事実を述べたまでだ。

 崎宮さんみたいにお淑やかで優しい子は、どれだけ俺がオドオドしてても寛容な心持ちで対応してくれたけど、日向場合は俺がオドオドしてたらその場で怒られそうだし……。


「それより日向。崎宮さんが来る前に聞きたいことがあるんだけど」

「なになに?」

「お前のサークルにが入ったって言ってたよな?」

「うん、入ってきたけど……あ、もしかして風切は清水ちゃんのこと好きなん?」

「あんな人気者に対して好きとか思えないって。俺みたいな男子じゃ手の届かない存在だったし」

「んんん?」

「なんだよ?」

「でもさ、清水ちゃんは風切のこと」


「——風切くんっ、お待たせっ」


 足音や気配を全く感じさせず、突然、崎宮さんは俺たちのテーブルの前に現れた。

 俺と日向はビクンと反応しながら崎宮さんの声の方を向く。


 黒い大きめのリボンが胸元にあるピンクのフリルブラウスと黒のハイウエストスカート。

 薄手のフリルブラウスは肩のところだけぽっかり空いており、袖にあるリボンはなぜか全部黒い。

 今日は肌色多めの地雷系ファッションだなぁ……それに、ピンク大好きな崎宮さんにしてはやけに黒のポイントが多いような。


「ねえねえ、二人で楽しそうなお話してたけど、いったい何のお話し?」

「えっと……」


 崎宮さんに清水神奈子のことを一から話すのは面倒だよなぁ……。

 日向も同じことを考えているのか、ポカーン間抜けな顔をして一向に口を開かない。


「もしかして二人でデートのお約束でもしたのかなー? それだったらわたしも行きたいなぁー? ね? いいよね風切くん? ね?」


 今日の崎宮さん、やけに早口で様子がおかしいような。


「俺たちデートの約束なんかしてな」

「じゃあ何を話してたの風切くん? わたしには言えないっておかしいよね? ね?」


 あと、なんか怖かった。

 仕方ない。清水のこと話すかぁ。



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