12話 崎宮さんは知らない(side崎宮可憐)
「よし、保存完了っと」
バイト前の更衣室。
わたしは風切くんのTwiXアカウント【ユーザーネーム:KIRI】に上がってる写真(全120枚)を全てクラウド上の【風切くん♡】というフォルダに保存した。
「それにしても風切くんの投稿……」
『KIRI:引越しの荷解き終了〜! ダンボールの机とはオサラバ!』
という文章と一緒に、綺麗になった部屋の写真が添えられていた。
部屋で荷解きしてる写真をTwiXに上げるなんて不用心な……。
間取りとかも丸わかりだし、もしもヤバい人に見つかったら住所バレとかしちゃうかもしれないのに、脇が甘いよ風切くん。
「でも、この間取りで大学近くのマンションとなると……」
わたしは入学前に自分で大学近くのマンションを選んだこともあり、慣れた手つきで検索する。
「へぇ、風切くんってこのマンションに住んでるんだ……」
こんなものの数分で簡単に分かっちゃうし、変な人に住所バレとかしなければいいけど……。
わたしはどうしても心配になってしまう。
こうなったら防犯のためにわたしが隣に引っ越すとか……。
「……だ、ダメダメ。今はちゃんとお金貯めないといけないし」
わたしにとって風切くんは他の人外男たちとは違って、わたしのことを認めてくれる唯一無二の存在。
でもいくら彼が特別とはいえ、わたしの好きなものを犠牲にしてまで彼に注ぎ込んでしまったら、また風切くんから怒られちゃうだけ。
風切くんはわたしが好きなものを大切に思ってくれていた。
だからいっぱい褒めてくれるし、優しくしてくれる。
小学校や中学校にいた人外たちとは生き物としてのステージが違う。
風切くんはわたしのために生まれてきた
わたしは笑みをこぼしながら、ピンクワンピースの胸元のボタンをプチンと外した。
また大きくなったかも。
風切くんからダラシないと思われたくないからこれ以上大きくなって欲しくないんだけど……。
「おっはよー崎宮ちゃんっ! 今日も崎宮ちゃんのピンクブラマウントフジが綺麗だねぇー」
更衣室のドアが開き、廊下から女性店長の蒲池さんが入ってきた。
「蒲池店長。毎回毎回わたしが脱ぐタイミングで入って来ないでください」
「いーじゃん! アタシら女同士なんだし」
「いくら同姓とはいえセクハラですから。出るとこ出ますよ」
「あれれー? おっかしぃなぁ? ピンク髪とピンクエプロンを許してるの誰だっけなぁ?」
それを言われるといくらわたしでも弱い。
わたしはジト目で蒲池店長に目で「出てけセクハラ野郎」と訴える。
「ねえねえ、さっきはなんでニヤニヤ笑ってたん? あ、まさかついにオ・ト・コ?」
28歳独身の蒲池さんは他人の恋バナをしつこく聞いてくる悪癖がある。
「違います……王子様です」
「は?」
「運命の
わたしは遠い目をしながら風切くんのマンションの方角を見る。
今ごろ風切くんも、家でわたしのアカウントのメディア欄を遡って画像保存しまくってるに違いない。
そして、きっと最後には——。
「……ふふっ、あははっ♡」
「うん。この子やっぱダメだわ。独身のアタシより男に向いてねぇし……だからあれだけ女子大へ行けってすすめたのに」
風切くんに早く会いたい。
そうだ、スノー・トップスのアルバイトに誘えば毎日のように風切くんと共同作業を……。
「ん? 崎宮ちゃーん、テーブルの上のスマホに通知来たみたいだよ?」
「えっ……」
わたしはロッカーの前でしていた着替えを中断し、ラグビーのトライの勢いで真ん中にあるテーブルの上のスマホに飛びつく。
【風切くん♡からメッセージ】
デートから帰ってすぐにlimeなんて……風切くんったら、可愛いところあ……。
「……は?」
【風切くん♡:来週のゼミの前に、日向から崎宮さんと一緒に学食来て欲しいって言われちゃってさ。崎宮さんどうかな?】
「は? は? あ゛?」
「うっわ。なんつー顔してんの崎宮ちゃん、こっっっわ。アタシレジに戻るわー」
まさかあの女、わたしの風切くんに……。
ここであの愚痴女と風切くんを二人にするのはマズい。
だとしたら選択肢は一つのみ。
「行くわ……わたしも」
その瞬間——わたしの胸元からブチィッという音がした。
「あ、あいたーっ!」
制服の胸ボタンが弾け飛び、逃げようとしていた店長の目に直撃した。
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