10話 動き出す恋の行方?地雷の行方?


「んん〜っ、パフェ美味しい〜っ」


 パフェの写真撮影を終えた崎宮さんは、取手の長いスプーンを持つと食べ始めると、ずっとニコニコしていた。


 横長の大きな器のパフェは、真ん中にいちごプリンと生クリームが盛られ、サイドにはいちごとチョコのシャーベット、抹茶のわらび餅と生チョコがゾロっと添えられて、上からいちごのジャムがトロッと垂れていた。

 ピンクピンクピンクピンク……。

 まさにザ・崎宮さんって感じのパフェだな。


「シャーベットの果肉が大きくてすっごい美味しいし、ボリュームもあって写真映えもするし最高っ」


 急に饒舌になった崎宮さんは、興奮気味に力説してくれた。

 甘いものに甘いものを重ねていく狂気の甘味マリアージュ。

 しかし、こんなものばっかり食べてたらいつか糖尿病になりそうだ。

 女子って、この手のデザートを毎日のように胃袋に入れてるんだよね?

 崎宮さんもきっと食べてるんだろうけど……その割には(胸以外)痩せ型だし、全然太って見えないよなぁ。

 運動とかしてるのかな?


 そんなことを思いながら目の前で美味しそうに食べる崎宮さんをぼーっと見ていると、急に崎宮さんの視線がパフェから俺に向けられる。


「風切くん……? わたしの顔を見つめてどうしたの?」

「あ、あぁ、ごめん!」


 やっば! 俺、また無意識のうちに崎宮さんのこと見つめて……。


「もしかして——風切くん」


 ごくり……。

 まずい、流石に今度はキモいと思われ——っ!


して欲しいの?」


 あ、あーんっ……!?

 そんなのして欲しいに決まっ——じゃない!


「そんなこと考えてないよっ!」

「ふーん……?」


 俺はコーヒーを飲んでお茶を濁す。

 危ない危ない。

 いくら崎宮さんが可愛いからって見つめるのはダメだ。

 崎宮さんからキモいと思われたら、またぼっち生活に戻ることになるからな。


「そうだ。風切くんはわたしのアカウントを知りたいんだったよね? じゃあ、TwiXのアカウントで良ければ」


 崎宮さんは思い出したように話を戻すと、スマホを開いた。


「あっ………ちょっと待ってね?」


 崎宮さんは少し顔を引き攣らせながら、何やらポチポチしていた。

 あれ? アカウントを見せるだけならすぐに出せるものじゃないのかな?

 もしかして、急な連絡が入ってたとか?

 それこそ……彼氏、とか?

 彼氏……か。


「崎宮さん……急ぎの連絡とかだったら全然、そっちを先でも」

「ごめんね? ちょっとアカウント切り替えてて」

「アカウント……?」

「うん。もう大丈夫だから」


 崎宮さん、アカウント二つ持ってるんだ?

 まあ俺もオタ垢とリア垢に分けてるわけだし、崎宮さんも趣味とリア垢は分けてるのかもな。

 崎宮さんのことだし、きっとピンクの可愛いものを見る用専門のアカウントとかなんだろうなぁ。


「はいっ、これがわたしのアカウントだよ?」


 崎宮さんは自分のスマホを俺に見せる。


 スマホに映し出されたそのアカウントは【♡karen♡】という名前で、スノー・トップスの飲み物を持ちながら自撮りした写真に薄ピンク色のフィルターがかかっているアイコンだった。

 いかにも女子大学生って感じで、普通のアカウントなのにフォロワーが4000人もいた。

 30人しかいない陰キャの俺とは天と地の差があるっていうか……。

 や、やっぱ美少女の崎宮さんと俺じゃ釣り合わないよなぁ……。

 肩を落としながらも、俺は崎宮さんのTwiXアカウントを探してフォローした。


「アカウントフォローできたよ」

「ありがとう、風切くんっ」


 いやいや、お礼を言うのは俺の方なんだけど……。

 でもまあ何はともあれ、崎宮さんとFFになれたし、崎宮さんのプライベートな写真も見放題……。

 な、何度も言うけど、やましいことには使わないから。


「わたし、風切くんの投稿しっかり見るからね?」

「俺の投稿なんて全部しょうもないよ?」

「そんなこと言わないでよ。わたしも風切くんのこともっと知りたいしっ」

「へ、へぇ……?」


 俺のこともっと知りたい、か。

 深い意味はないだろうけど、ちょっと嬉しかった。

 崎宮さんが見てくれるなら……いつもより投稿増やしてみよっかな……なんて。

 俺はコーヒーを飲むフリをしてニヤけ顔を隠した。


「風切くんの個人情……プライベートな投稿見てみたいなぁー? 特にお友達との写真とか? あ、そうだ! 彼女さんとの写真とか!」

「俺に彼女? い、いないよ彼女なんてっ」


 俺がそう言うと、崎宮さんはスッと顔色を変える。

 さっきまでの笑顔が消えて、真顔になった。


「へぇ……風切くんってお話が上手いから、地元に彼女さんとかいると思ってた」

「な、ないない。彼女どころか昔から友達少ないくらいだから。あはは」

「…………」


 自虐的にそう言って笑う俺とは違って、崎宮さんはやけに真剣な眼差しを俺に向けて来る。

 やばい、空気悪くしちゃったかな?


「ぎゃ! 逆に! 崎宮さんは?」

「え、わたし?」

「えっと……崎宮さんは……」

「?」

「……やっぱりなんでもないや」


 崎宮さんに「彼氏いないの?」と聞きたかったけど、それはやめておいた。

 あまりプライベートに踏み込むのは良くない、もんな。


 ✳︎✳︎


 パフェという目的を果たして店を出た俺と崎宮さんは原宿の駅まで戻ってきた。


「今日はパフェ奢ってくれてありがと風切くん! とっても美味しかった」

「大したことじゃないよ。今日はこの前のお詫びだったんだし」


 ピンク髪とその地雷系ファッションをフリフリ揺らして上機嫌に歩く崎宮さん。

 楽しんでもらえたなら本当に良かった。


 本当はこの後もどこかへ誘おうと思ってたけど、崎宮さんは夕方からバイトがあるらしく誘うのはやめておいた。

 先週誘った時といい、崎宮さんってバイトのシフトたくさん入れてるんだなぁ……。


 まぁ、本来の目的はこの前のお詫びだし、崎宮さんも満足そうだからいいよね。


「えっと……次に風切くんと一緒の講義になるのはゼミの時かな?」

「そう、だね」


 ゼミかぁ……相変わらずグループに属してないから俺はどうなることやら。

 次のゼミは2日後の水曜日。

 俺は月曜日は講義を入れておらず、週末に講義を詰め込んでいるから週明けに結構入れてる崎宮さんとは重ならない講義が多い。

 ゼミ以外で重なるのは木金の必修講義とかかな?


「じゃあ、またゼミでね?」

「う、うん」


 まだ名残惜しい感じもするけど我慢我慢。

 俺は崎宮さんを地下鉄の改札まで見送って別れた。


 崎宮さん、ずっと笑顔だったし楽しんでもらえたみたいで良かった。

 彼氏がいるかどうか聞けるチャンスをみすみす逃してしまったのは反省点かもだけど……。

 どっちにしても美少女の崎宮さんと俺が付き合うなんて現実味ないし、崎宮さんにとって俺は異性の友達の域を超えないと思う。

 でも俺はそれでもいい。

 崎宮さんみたいな可愛い女の子の友達と、今日みたいに楽しく過ごせるなら大学デビュー成功と言って間違いないし、勝ち組だ!


「さて、デートが上手く行ったお祝いってことで、二郎でもすすってから帰ろっかなぁ……って、ん?」


 原宿で二郎ラーメンを探そうと思ってスマホを開いたら、俺のスマホにlimeの通知が入った。

 lime? 誰からだろ?


 俺は大学で崎宮さん以外の友達とlimeの連絡先を交換してないので、おそらく両親か、もしくは高校時代の友達である鈴木たちになる。


 一体誰が俺にlimeを——。


「えっ?」


【日向:やっほー風切! 今週のゼミの日なんだけど、ゼミの前に学食でちょっと話さない?】


 ひ、日向!?



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