9話 キミヲシリタイ
「ここだよっ」
カフェの近くまで来ると崎宮さんはそのピンク色の長い髪を靡かせながら、スキップして前を行く。
ピンク色のワンピースのスカートがふわっと揺れ、ブーツもリズム良く靴音を立てた。
ここが、崎宮さんの行きたかったカフェ……。
原宿駅から歩いて10分くらいの所にある、ボタニカルな店構えのカフェ。
作り物と思わしき緑色のツタがぐねぐねと屋根を這っており、屋根の下にある横長の看板には英語で店名が書かれていた。
お、オシャレだなぁ……。
店先にある大きめの黒板には、船みたいな横長の器に盛られたパフェが描かれていて、崎宮さんが好きそうなピンク一色のストロベリーアイスやたっぷりの生クリームとプリン、ピンク色のハートチョコが満遍なく盛られていた。
見るからに崎宮さんが好きそう……。
パフェって言うからてっきり縦長のものを想像していたけどまさかの横長。それも凄いボリューム。
これが今どきのパフェってやつなのか?
「早く入ろっ!」
「う、うん」
上機嫌の崎宮さんはニッコニコで俺の手を引く。
さ、崎宮さんの手が俺の手を……!!!
崎宮さんの手はちょっぴり冷たいけど、剥きたてのゆで卵みたいにツルツルでスベスベしてて——っい、いやキモいキモい!
こんな童貞くさい感想が出る所も直していかないと、崎宮さんからキモいと思われるぞ!
繋がれた手を見つめながら反省していると、崎宮さんは俺の顔を覗き込みながら首を傾げる。
「わたしの手を見てどうしたの?」
「えっと……そ! そのピンクネイル、可愛いなって思って」
「やっぱり風切くんにもわかる? これ、今朝ネイルサロンでやってもらって」
ね、ネイルサロン……?
あんまり詳しく知らないけど、爪の美容院的な所、だよね? サロンっていうくらいだし。
「そうだ。今度二人でおそろいのネイルにしてもらわない? 風切くんもピンクにしよっ?」
「えっ、俺がネイル……」
男がそれはちょっとな……。
「なーに? 嫌?」
「えっとー、嫌ってわけじゃ」
「いらっしゃいませーっ」
入店と同時に女性店員の声がして、俺たちの会話が途切れた。
な、ナイス店員さん……っ!
「2名さまでよろしいですか?」
「はいっ、二人、ですっ」
「それではあちらのテーブルへどうぞ」
店員に案内されて、俺と崎宮さんは窓際にある丸テーブルの席に座る。
「崎宮さん、奥……どうぞ」
「うん。ありがと風切くん」
女子とデートする時は奥のソファ席を譲る。ケースバイケースだけど、これは大切らしい。(ネット情報参照)
崎宮さんが座ってから俺も座ってメニューを開く。
うっわぁ、都会のカフェなだけあっていい値段するなぁ……。
どれも値段が1000円をゆうに超えたものばかりであり、ほぼデザート。
どうやらこのカフェはケーキとパフェが人気らしく、パフェだけでも3ページ以上もあった。
「なんか色々あるみたいだけど……崎宮さんは店の前の黒板に描いてあったパフェ?」
「うん。風切くん、ごちになりますっ♡」
崎宮さんは100点満点のスマイルで言う。
あざといけどすっげぇ可愛い……。
「こちらお冷とおしぼりになります。ご注文はお決まりでしょうか?」
「はい、じゃあ——」
俺は崎宮さんの分も注文を伝える。
崎宮さんはお目当てのパフェで、俺はパフェではなく無難にコーヒーにしておいた。
「風切くんってコーヒー飲むんだね?」
「う、うん」
別にコーヒーにして渋い男アピールをしてカッコつけてるとかではなく、実はゴリゴリに甘いものがそこまで得意じゃないのだ。
でも崎宮さんの前であんまり甘い物が好きじゃないなんて、崎宮さんの前では言えないよな。
「コーヒー飲めるなんて、カッコいいね?」
「そう、かな……」
よし、これから毎日コーヒー飲もう。
そうやってすぐに思ってしまうのは、自分がいかに単純な性格なのか再確認してしまう。
「ここのパフェね? この前SNSで見かけてからずっと行きたいなぁって思ってたの。だから来れて嬉しいよ」
え、SNS……か。
それを聞いて不意にこの前の「病み女子大生の日常」っていう地雷系の服とかも上げてた地雷系女子のアカウントを思い出した。
そういえば崎宮さんって趣味が衣装作りだったし、あの地雷系女子のアカウントみたいに自分の服とかをネットに上げてたりするのかな?
崎宮さんのアカウント……気になる!
崎宮さんって可愛いことに熱心だから、自分の可愛い写真とかいっぱいネットに上げてそうだよな。
べ、別にその写真を変なことに利用したりはしないけど! た、単純に、崎宮さんの昔の写真とか見たいっていうか……。
よし決めた……思い切って崎宮さんのアカウントを聞いてみよう!
「さ……崎宮さん!」
「どうしたの?」
「せっかく……友達になったんだし、lime以外のSNSでも崎宮さんと繋がりたいっていうか……」
「わたしのアカウントを知りたいってこと?」
「う、うん」
い、言った。よく言ったぞ俺!
「うーん。どうしようかなぁ? 自撮りの写真とか載せちゃってるから恥ずかしいなぁー」
見たい……! なおさら気になる……!
「わたしの写真……見たい?」
「み、見たいっ!!! って、あっ!」
俺は馬鹿みたいに正直な受け答えしてしまう。
な、なに本音漏らしてるんだ俺!
これじゃ崎宮さんの写真が欲しいだけのただのキモ男じゃないかっ!
「へぇ……」
崎宮さんはしっとりとした細目で俺を見てきた。
や、ヤバい……絶対に引かれただろ!
今度こそ、終わった……。
「……分かった。アカウント教えてあげるっ」
「えっ? い、いいの?」
「昔の写真とか見られるのは恥ずかしいけど、風切くんにならいいかなって。だってわたしたち、お友達、だしっ」
いよぉぉぉっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!
俺は心の中でガッツポーズを決めた。
「あ、でもね。わたしの写真を——」
「え?」
「変なことに使ったらダメだからねっ?」
崎宮さんは俺の鼻先を優しくツンッとつついてくる。
崎宮さんのピンクネイルが目と鼻の先にあった。
「へ、変なことになんて使うわけないよ!」
「ふふっ……」
「もー! なんで笑うの崎宮さん!」
「お待たせしましたー。特大ストロベリーミックスパフェとコーヒーです」
ドスンっと横長の器が丸テーブルいっぱいに置かれ……て。
「パフェでっっっっっか」
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