2章 デートは甘々ちょっぴり苦い地雷系

7話 デートが始まる、地雷が動き出す


 迎えたデート当日。

 午前11時に大学の最寄駅で崎宮さんと待ち合わせすることになっているのに、昨日から緊張しまくり俺は朝の6時に起きて、洗面台の前で何度も自分の姿を確認しながら今日の準備をしていた。


「ワックス……上手くできたよな」


 鏡の前でキマッた自分の髪を見て、感動のあまり声が漏れた。

 実は日向から愚痴を聞かされたあの日、日向から俺の髪質に合うワックスのアドバイスを貰っていたので帰りにハードタイプのワックスを購入してから帰宅していた。

 するとどうだろう、苦戦すると思われた髪のセットが自分の思い通りにバッチリできたのだ。


 やっぱり陽キャの生き方は陽キャから学ぶ方がいい。

 それに日向ってショートヘアだし、結構男子の髪のことも分かってる感じだった。


 高校の頃までは日向みたいな女子とは分かり合えないと思い込んでいたが、話してみた感じ、意外と大丈夫そうだった。

 しかしそれは俺が陽キャ慣れしたというわけではなく、単純に日向のコミュ力が高いから、俺みたいな男子でも普通に話せてるだけ。


「……っと、今日は崎宮さんとデートするんだから、日向じゃなくて崎宮さんのこと考えないと」


 俺は脳内にいた日向を一旦横に置いて、崎宮さんを持ってくる。


 今日のデート、崎宮さんは原宿のおしゃれなカフェに行きたいって言ってた。

 おしゃれなカフェなんて今まで行ったこともないし、行こうと思ったこともない。


 そもそも俺の地元である栃木の田舎には人気カフェチェーンの『スノー・トップス』すら無かったので、カフェとかおしゃれな飲食店に馴染みがないのだ。(地元にあったとしても根が陰キャなので多分行かないけど)

 二郎系ラーメンとか家系ラーメンならピザデブの鈴木たちとよく通ってたんだけどなぁ。


「とりあえず、今日は崎宮さんに失望されないようにしないと」


 今の俺は、つい最近まで大学デビューに失敗して退学を考えていた陰キャ男子とは思えないくらいにモチベーションが高い。


 ワックスで毛束を作ったりして髪を遊ばせながら、前髪を右に寄せて髪のセットを終わらせる。

 その後諸々の支度を済ませた俺は、もう一度鏡の前に立つ。


「よし! 今の俺……めっちゃ陽キャっぽい!」


 なんて言ってるうちはやっぱ陰キャなのだろう。

 俺はマンションの部屋から出るとすぐに駅へ向かう。

 昨日ネットで調べて見たけど、デートの基本は1時間前には集合場所にいて、デートのシミュレーションをすることらしい。


 だが恋愛に関して貧困な想像力しか持ち合わせていない俺にとってデートのシミュレーションなんて不可能。

 だから今日はいくらデートに不慣れでも、とにかく崎宮さんを楽しんでもらえるようにしないと。


「……駅についたけど、崎宮さんはまだか」


 俺が駅に到着すると、まだ1時間前ということもあって崎宮さんは来てなかった。

 1時間前って、やっぱり早すぎたのかな?


「崎宮さん……まだかな」


 デートの緊張からか、逸る気持ちを抑えられない。


 だって崎宮さんって服はちょっと派手だけどそれ以外はアイドルみたいに可愛いし、話すだけでも緊張するのに、二人きりでデートをするのだから緊張どころか吐き気すら催してしまうほどだ。

 崎宮さんって見た目は地雷系だけど中身は普通の女の子っぽいし、あんなに可愛い顔ならこれまで男子たちが寄って来ない方がおかしい。

 そう考えると、やっぱり崎宮さんはデートとか慣れてるのかな?

 あれだけ可愛い子なんだから、当然、高校の時は彼氏とかいただろうし……。


 やっべぇ……余計に自信なくなってきた。


 もしつまんないデートになっちゃって「元カレとのデートの方が居心地よかったなぁ」とか言われたら、間違いなく大学辞めるぞ俺……。


「はぁ……」

「お待たせっ、風切くんっ」


 自信がなくて肩を落としながら待っていたら、突然、背後から透明感のある声が聞こえたので、俺は反射的にその声の方へと振り向いた。


「さ、崎宮さんっ!」


 もう見慣れたピンク色の髪と赤のインナーカラーが入ったストレートヘア。

 その端正な顔立ちは今日もメイクでさらに可愛らしさが増しており、すれ違う人の視線を集める。

 今日のファッションは、胸元に大きなリボンをあしらった真っピンクのワンピースに、黒光りする黒の革ジャケットを羽織っていた。

 崎宮さんはヒールの高いロングブーツの靴音をコツコツと鳴らしながら近づいてくる。


 お、おお……昨日とはまた違った感じの地雷系ファッション。

 これにデカい缶チューハイとか持ってたら、SNSとかでたまに見かけるただの地雷系女子なんだけど……。


「風切くん? どうしたの?」

「あ、え、えっと」

「もしかして……今日のわたし、あんまり可愛くなかった?」

「そんなわけない! 可愛いよ! 崎宮さんはピンクの服がよく似合うし!」

「……っ」


 オタク語りをする時みたいに必死になって言うと、崎宮さんはキュッと口をつぐみながら、顔を逸らしてしまった。

 どうしたんだろ? ま、まさかキモいと思われた!?

 それとも……怒らせちゃったとか?


「崎宮、さん?」

「そ、そんなに面と向かって熱烈に褒められると……嬉しくなっちゃうからやめて」

「あ、ご、ごめんっ! これ以上は、褒めないようにするから」

「それはダメ。もっと褒めて」

「どっち!?」


 崎宮さんは「ふふふっ」と柔らかい笑みをこぼした。


 か……可愛い……崎宮さん。


「風切くんも今日は一段とかっこいいね?」

「えっ……そ、そう、かな?」


 苦節18年。

 人生で初めて親以外から「かっこいい」って言われた。


 最後に言われたのは小学校の入学式の時「ゆうくんかっこいいよー」と校門の前で母親と写真撮影した時に言われて以来だ。


 あれ以来、誰からも言われてないとか……俺の人生辛すぎるだろ。(ちなみに中学と高校の時は反抗期真っ盛りで親は無言でシャッターを切ってました)


「はぁ……今日の風切くん、髪も目も鼻も首筋も服も足首も靴下も靴も……全部かっこいい……」


 え、今なんて?

 よく分からないけど、崎宮さんは俺のことをめっっっちゃ褒めてくれたみたいだ。

 女子から褒められるのってこんなに嬉しいんだ……頑張った甲斐があったかな。


「じゃ、行こっか崎宮さん」

「うんっ」



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