5話 地雷系女子はいつもしっとり


「聞いてよ風切! 昨日ゼミの男子たちと言った親睦会? みたいなヤツが全然楽しくなくてさー」

「へ、へぇ……」

「あの男子たち、ウザいほど自慢話ばっかしてきて、あたしら女子たち全員ドン引いてたしー」

「そ、そう、だったんだ?」


 唇を尖らせながら次々と昨日男子たちと言った親睦会の愚痴を吐き出す日向。

 俺はその愚痴に対して相槌を打ちながら、横目で崎宮さんを見る。


 日向が来てからというもの、ずっと真顔の崎宮さんは手元のスマホを見つめてしまって何も言わない。

 友達同士の会話のあるあるではあるが、友達の友達が乱入してきたことによる居心地が悪い現象。

 別に俺も日向とは昨日少しだけ話しただけだから友達と呼べるほど親しくなったわけではないし、そんな俺よりも日向と関わりがない崎宮さんからしたら、日向は同じゼミの生徒ってだけで。

 そんな日向の愚痴を間接的に聞かせている現状に申し訳なく思ってしまう。


 それにしても崎宮さん……俺と二人きりの時はあんなに可愛い笑顔を見せるのに、日向が来てからやけに機嫌が悪そうだなぁ。

 いくら『友達の友達現象』が起きているとはいえ、少しは愛想良くするものだと思うけど……もしかして崎宮さんって、日向みたいな無駄に明るくてよく喋るタイプの女子は苦手なのか?

 

「おーい日向ーっ! こっちで講義受けよー?」

「あ、おけおけー!」


 俺の左隣でずっと愚痴っていた日向だが、後から講義室に入ってきた女友達たちに呼ばれて立ち上がる。


「ねえ風切、来週のゼミの時にまたあたしの話聞いてくれる?」

「えぇ……まだ愚痴り足りないの?」

「違う違う。今度はもっと楽しい話するからさっ」


 日向は右目でウインクしながら、後から教室に入ってきた女友達の方へと行ってしまった。


 日向は陽キャ女子らしくおしゃべりだけど、別に悪い子では無いと思う。

 むしろ恋愛経験0で陰キャ童貞の俺に話しかけてくれるだけでも優しいし、最後のウインクは9999ダメージ並みの迫力があった。


 ——って、今はそれより……。

 俺はゆっくりと崎宮さんの方へ視線を移す。


「さ、崎宮さん……?」

「…………」

「……なんか、ごめんね」


 崎宮さんを見て謝ると、崎宮さんはやっとスマホから顔を上げて俺の方を見てくれた。


「居心地悪かったよね。話したことない相手が急に話に入ってきたら気まずいよね?」

「………」

「日向って我が強い感じの女の子だから、俺もあんまり言えなくてさ。だからごめんね?」


 崎宮さんは少し不機嫌な様子でなかなか返事をくれない。

 あー、これは完全にミスった!

 崎宮さん怒ってんじゃん!


「え! えとえと、そうだ! もし良かったら何か奢るよ! 食べたいものとかあったらお詫びに何でも」


 そう言うと崎宮さんの目がギロっとこちらを向いた。

 や、やばい。さらに怒らせたんじゃ……?

 よく考えたら、奢るってご機嫌取りみたいだし、逆に嫌われたんじゃ……。


「…………じゃあ」

「?」

「パフェ、奢ってくれるなら許してあげる」


 言いながらムスッと片頬を膨らませ、膨れっ面になる崎宮さん。

 崎宮さんの怒り顔……か、可愛い。


「ぱ、パフェを奢ったら機嫌直してくれるの?」

「うん……直す」


 か、可愛いすぎる……だろ。


「パフェ奢るよ! 何杯でも!」

「何杯でもって……風切くんったら。そんなに食べたらわたしが太っちゃうからダメー」

「そ、そっか。あはは」

「……ふふっ」


 崎宮さんに笑顔が戻った。

 俺はその笑顔に安堵しながらも、どこが太ってきてるんだろう……と、俺は崎宮さんの胸を凝視してしまう。(デカい。説明不用)


「じゃ、じゃあ、講義の後にでも行く?」

「ごめんね風切くん。講義の後はちょっと用事が」

「用事?」

「実はわたしこの後バイトなの」

「へぇー! 崎宮さんバイトしてるんだ」

「うん、だから今週は空いてた時間にバイト入れちゃってて。来週月曜日なら大丈夫だし、月曜のお昼に大学前駅に集合でどうかな? 細かい時間は後でlimeで伝えるから、とりあえず連絡先交換しない?」

「もちろん!」


 俺は崎宮さんとlimeを交換した。

 大学で初めて出来た友達とlimeを交換した。それもその相手は美少女……。


 やばい。俺の大学生活がついにリア充ルートに入ったかもしれない。


 こうして俺は崎宮さんとデートの約束をしたのだった。


 ✳︎✳︎


 講義が終わり、この後バイトがあるという崎宮さんと別れた俺は、3限の講義まで学食で時間を潰すことにした。


 女子とデートなんてしたことないが、俺は崎宮さんに楽しんでもらいたし、さっきのことを許して欲しい。


 きっと崎宮さんは月曜日のデートも地雷系ファッションで来るだろうし、ちゃんと褒められるように俺も地雷系ファッションについてしっかり勉強しておかないとな。


 俺は学食の隅にある席に座ると、スマホのSNSアプリを開いて『地雷系』と検索する。

 とりあえず、それっぽいインフルエンサーとかがいたら参考になるよな?

 そう思って調べていると真っ先に出てきたのが、地雷系ピンクロリータの服がアイコンのアカウント。


 名前は——【病み女子大生の日常】


 病み女子大生って……そんなの自称するものなのかよ……って、ん? フォロワー40万人!?


「す、すっげぇ……そんなに人気なんだ」


 そっと呟きを見てみると地雷系っぽいファッションの紹介や、作った服の写真がズラッと投稿されていて、度々日常の呟きがあった。

 どんな人なのか気になるな……最新の呟きはっと。


『気になってる人と話してたら愚痴女が乱入してきてまじ鬱。そんなにゲロ吐きたいならくっさいトイレまで行けばいいのに』


 う、うおぉ……。

 これが本物の地雷系ってやつか。

 天使の崎宮さんとは真逆だな。

 やっぱこう見ても崎宮さんが地雷系なんてあり得ないよなぁ。

 きっと崎宮さんはファッションだけ地雷系なんだと思うし、ただピンクが好きなだけなのかも。

 そう思いながら、俺はデートの妄想を膨らませるのだった。

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