第5話
二人が車に乗って数分。研究所に到着する。
「着きました。」
研究所は厳重な門に閉じられており、見た目は古びた大学の研究所の様である。地下に広大な研究スペースあり、見た目以上のキャパシティーがある。因みにカフカたちの家は研究所から徒歩数分圏内にある。
「葵様から研究所の大広間で待っていると伝言です。」
「OK。黒服くんも一緒に行く?」
「いや、遠慮しときます。お二人をお連れしたら今日の仕事は終わりですので、ジョシュアの散歩に行きます。」
散歩という言葉を聞いた瞬間ジョシュアのしっぽが尋常じゃないほど揺れ、黒服に飛びつく。
「いつ見ても立ったジョシュアはでかいね」
「このもふもふした抱き心地は筋トレを続ける価値がありますよ」
黒服は超大型犬であるジョシュアに飛びつかれても大丈夫なように筋肉を鍛えている。全てのことはジョシュアのためにしている真正の愛犬家である。
「ふふっ、ジョシュアも喜んでいるみたいですし、早く散歩に行ってあげてください。」
「そうですね。ではお言葉に甘えていってきます。」
散歩に駆け出した黒服たちとは研究所の入り口で別れ、研究職員が集まる大広間へと向かう。この研究所では様々な分野の研究が行われており、それぞれが自分の分野でトップクラスの成果を残した天才たちが集まる。ショーペンハウアーが言っていたように、『天才と狂気は隣り合わせ。両者とも他の誰とも違う世界に住んでいる』と言ったように、ここの研究職員も奇人変人が揃っている。
「こんにちは。葵ちゃんはいますか?」
「葵―、来たよ!どこー?」
ノアは丁寧に、カフカは元気に挨拶をする。
「二人ともようきたな。」
「あ、葵いた。小さくて気づかなかったよ。」
「口を慎まんか、この生意気な小娘が!」
二人を最初に出迎えたのは所長の常念葵。見た目は完全な幼女である。研究所に博士がいた頃は初老に入った上品なおばぁさんと言った姿であった葵だが、今では完全に幼女な見た目になっている。
「うわー恐ーい。カルシウム不足かな?牛乳たくさん飲まないと成長しないよ?」
煽るカフカにヘッドロックを決める葵。
このように葵の見た目が幼くなったのは葵の研究の影響である。葵は生命科学の天才であり、二人を生み出す研究の中核を担っていた一人でもある。葵の研究テーマは不老不死。この神の領域に踏み込む常軌を逸した研究を進めた結果、不老を達成したものの、細胞が若返りすぎ見た目が幼女になってしまった。
「二人とも落ち着いて!何でカフカちゃんは葵ちゃんを煽るの!」
「今まで厳しかった大人の葵がこんな小さくなったら煽りたくなるじゃん。」
「葵ちゃんは今まで大切に育ててくれたでしょ!もっと敬意をもたないと。」
ノアは葵が小さくなった時から葵をちゃんを付けて呼ぶようになった。
『ノアもちゃんを付けて呼ぶのは敬意があるのかい』と内心苦笑いしながらも、お利口なノアなので許している。
ノアは控えめで、丁寧な子だが案外他人の感情に機微には鈍感である。相手の地雷になりそうなことを踏んでしまうこともあるが、何だかんだノアには誰も怒れない。世渡りのうまい末っ子気質なノアである。
「へー、そんなことを思っていたのかい。そんなことばかり言っているとお前の秘密をノアに…」
「ごめんなさい、葵様。何でもします。許してください。」
幼いころから葵に育てられてきたカフカは葵には逆らえない。カフカが隠している秘
密もある程度は握られている。
「あのカフカちゃんが大人しくなった!葵ちゃんカフカちゃんの秘密って何ですか?私もカフカちゃんを大人しくさせるのに使いたいです!」
「ノアが知ったら意味がなくなる秘密だからね。今はまだ秘密だよ」
「えー、私が知ったら意味のない秘密ですか。つまり私に関連している秘密ということですか?」
「さぁ、どうだろうね?まぁいつか分かるときが来るよ。」
「ちょっと葵、情報を与えすぎ!」
「大丈夫だよカフカちゃん。カフカちゃんが本気で教えたくない秘密なら私も無理に詮索しないから。でもいつかは私にも話してね?」
「う、うん。分かったよ。」
上目遣いでカフカを見つめるノアの可愛さに内心悶えるカフカ。ノアの天性の人タラシさに秘密を話しそうになりながらも口を閉じる。
『ノアが悪女だったら私はイチコロだな』と思うカフカ。
「まぁ生意気なカフカは罰として私の研究を後で手伝ってもらうからね。」
「えー、いやだよ。そこまで悪いことしてないじゃん。それに葵の実験はほぼ人体実験みたいなものだから披検体でも使いなよ」
「モルモット側で手伝ってもらうわけないじゃないの!私の実験の記録と予想についてAIを使って手伝えってことに決まっているじゃないか。」
葵の研究は不老不死についてのことである。この研究の派生である若返りなどの技術を権力者に施しこの研究所の資金を得ているため、この研究所の中でも最重要の研究とされている。必然多くの人が協力しておりカフカもその一人。
「まぁ二人とも研究については後から話して、今は私たちの情報の流出について話しましょう。」
ノアからのもっともな提案に二人とも正気に戻る。これからどうするのか、今の状況がどうなっているのかについて情報を共有しはじめる。
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