第4話
二人に絡んできた不審者を助手席に乗せ、猿轡をする。邪魔が入らなくなった状況で黒服が事情を説明する。
「お二人は神成博士の遺伝子操作により造られた人工人間であることは他国に知られていますよね?ですが、どの位優秀であるか、どれほど成功しているかということについては博士の失踪と合わせて他国はまだ詳しくは知りません。ですが、今回はお二
人の実績が他国にリークされてしまいました。」
「それは面倒くさいことになったね。」
「私たちの実績って、どこら辺までリークされたの?」
「まずお二人が研究結果を発表する際に使っていた偽名である、烏と冬羽の両方についての情報がリークされました。」
「その時点でかなりだるいね。」
二人は平穏に暮らすために自分たちの研究結果について、偽名を使い発表していた。
「そして、実績についても偽名から関連付けられて大体ばれていますね。具体的に、カフカ様は凡用型AIの実現。ノア様は常温核融合実現の基礎理論の確立。双方ともに世界を揺るがすほどの技術ですね。」
「まぁ偽名がばれていたらそうなるだろうね。」
凡庸型AIとは簡単に言ったら人間を再現した、人間を超えるAIのことである。今までのAIでは与えられた特定の課題しか解決できなかった。だがこのAIは人間のように様々な問題について処理できる次世代のAIである。あらゆることを管理するAIの理想形として構想されていたものをカフカが実現させた形だ。
一方、常温核融合は超高温でのみしか実現できなかった核融合発電を常温の範囲内で実現させる技術のことである。放射能を発生しない発電技術である核融合発電の安全性を増し、技術的ハードルを下げることができきる革新的理論を定義付けたのだ。
「くーん。」
車の後ろから大きな犬がカフカに抱き着く。
「わー、こら、顔なめない。わー、やめろー。」
「やっぱりジョシュアも乗っていたんですね。」
「もちろんです。ジョシュアは私の相棒ですからね。どこへ行くのも一緒ですよ。」
ジョシュアは黒服が買う犬の名前。犬種はチベタン・マスティフという絶滅危惧犬種である。研究所の護衛用に飼われていた犬種であり、非常に忠誠心と愛情深い犬である。実は屈強な体格を有する黒服よりも護衛のメインとして考えられており、古代にはライオンを倒したという逸話さえ残っている。
「ほんとにジョシュアが好きだね。」
「ジョシュアの魅力を語れと言われたら何日でも語れますよ。ほらまずこのライオンの様な毛並み。そして間抜けそうな顔が愛おしくて…」
「ストップ。ストップ。ほんとに数日間語っちゃうから。これだから、ジョシュア狂いは。飼うときは護衛犬に愛情なんて抱くわけがないとか、クールに言っていたのに。」
「でもカフカちゃんも学校ではこんな感じで私のことを語ろうとするよね?少しは迷惑さに気づいた。」
「あーー、何も聞こえないな。」
そんな会話をしながらもジョシュアはカフカをなめ続ける。
「それで話が逸れたけど、私たちのことを知っているのはどの国のどの層の人たちかは分かっているの?」
「はい。アメリカや中国など計10か国の政府上層部に送られたそうです。日本政府や研究所も即座に気づき情報がこれ以上広がらないように尽力しているそうです。」
「まぁ一般的に暴かれたわけじゃないってことだね。」
「情報を知った連中はどう動きますかね?」
「シンセリティは私を捕まえに来るだろうね。AI開発を強制されると思う。アメリカは取り敢えず、日本経由で私たちにコンタクトでも取ってくるんじゃないかな。」
「アメリカは今でも一番の同盟国だから、かなり高い確率で味方になってくれると思う。だけどカフカちゃんを利用しようとするかもね。中国はアメリカに協力される位なら、私たちを殺しに来るかもしれないけど、絶賛シンセリティと対立しているから私たちに構っている余裕はないだろうね。」
「中国と対立するなら、よくて誘拐からの一生兵器研究コースかな。まぁノアの言った通りあまり絡んでこなさそうだけど。他の国は所詮この3陣営の庇護下だからね。警戒するとしたらとりあえずはこの3陣営だね。」
二人は状況を分析する。
需要的にシンセリティが一番カフカを求めていると推測する。AIによる支配を唱えるシンセリティにとってカフカの技術は目から鱗、全てを統治するためには必須といえる。
「やっぱり結構大変なことになりそうだね。今までの状態でいるのは無理かもしれないね。」
「大丈夫だよ。ノアは私が守るから。」
「私よりも自分のことを第一に考えて!もう理論を公表している私よりも、まだ他国に知られていないカフカちゃんのAIの方が貴重性が高いでしょ!自分を大切にしてね。」
自己犠牲的なカフカをたしなめるノア。
「取り敢えず、研究所に行こうか。今ここにある情報だけじゃ推測位しか出来ないし、私たちのAIにでも聞いてみようか」
「分かりました。今すぐ向かいます。」
少し話を逸らされたように感じ煩悶とするノア。ノアは昔から互いに助け合って生きたい自分と、ノアさえ守れたらそれでいいカフカに齟齬があると感じていた。
だがこの時は、二人の気持ちの乖離について深くは考えず取り敢えず放置をすることにした。『また二人で話せるときに考えよう』と思いながら車に揺られ研究所に向かう。
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