第3話
一方カフカの方は教室に着いてからもダラダラと涼子と話していた。
「今日はノアちゃんともっと話さなくてよかったの?涼子さんはカフカちゃんとたくさんお話できて嬉しいけど。」
「いいの、いいの。今日は放置プレイの日だから。引く時間も大事だよ。それにノアちゃんは何だかんだ私がいないと寂しがるからね。」
「こわー。涼子さんなら一生関わりたくないタイプだよ。ノアちゃんかわいそー。」
「そんな引くほど本気で言ってないよ。それに、そんな私と関わっている涼子も結構な変人じゃないかな」
「いや、そこは優しい友達って言ってくれると嬉しいかな。涼子さんはいたって普通な女子高生だからね」
涼子はカフカの初めてにして唯一の友達。ノリが軽く、マイペースな性格故に相手が引いている心の境界を超えてこない。自分の内側にあまり踏み込んでほしくないカフカとは、絶妙に相性が噛み合う唯一の友人である。
「今日は放課後暇なの?」
「いや、ノアちゃんと遊ぶから暇じゃないかな。ごめんね、いつもひとりぼっちにしちゃって。」
「そうだよー。このままだと、涼子さんは家族から友達がいない子って思われちゃう。」
芝居がかった泣きまねを織り交ぜながらコミカルに返す。
「でも仕方ないさ。私にはノアちゃんがいるからね。ノアちゃんがいる限り断り続けるかもしれないね。」
「涼子さんはカフカちゃんのくそシスコンぶりに引いているよ。まぁ涼子さんも一人でいるのも好きだから構わないけどね。涼子さんがイケイケの女子だったらカフカちゃんはいじめられているかもね。」
「そんなことしないから涼子と友達なんじゃん。」
カフカが涼子の誘いを断る理由はノアだけじゃなく、家に戻ったら、すぐ隣にある研究所に向かうためでもある。
そして涼子の方は誘いを断られたことは大して気にせずに会話を続ける。
「そういえば涼子は、今日も図書館に行くの?」
「ううん。今日はお家の方の用事があるよ。面倒くさくてたまらないけどね。本当は今日も図書館に行って本でも読んでいたいよ。」
「本もだけど、最近見つけったていうかわいい司書さんに会いに行くのが目的なんでしょ。」
「まぁー、否定はしないかな」
「ほんとに出会ったころから変わらないね。可愛い子がいたら節操なく絡みに行って。」
「まぁそのおかげでカフカちゃんに出会ったわけだし。」
「そうだね。まぁノアちゃんに手を出さなければ私は別に何をしていても構わないけど。」
「カフカちゃんたちは姉妹揃ってかわいいもんね。」
「は?」
「冗談だよ。涼子さんは一途なタイプだからね。今は司書さんの連絡先をゲットするのが先決だからね。」
「誰が何を言っているのだか。これでも一応お嬢様なのにね」
「自由なものほど自由を求めるからね。仕方ない。」
この学校に通う涼子ももちろん家柄のいいお嬢様なのだが、縛られていた生活からの反発により、今ではかわいい女の子を追いかけるじゃじゃ馬娘になってしまった。
因みにカフカとの出会いも入学式でのナンパだったりする。
そうして時は流れて放課後。
「ノアちゃんは学校楽しかった?」
「今日はね、ニーナっていう新しい子と友達になったの!ニーナはアメリカからの留学生でね、金髪の髪が綺麗なアメリカ人なんだよ。」
「そうなんだ。新しい友達が出来て良かったね。」
「カフカちゃんは涼子さんに迷惑かけてない?」
「さーどうだろ?まぁまだ私に付き合ってくれている位だし、あらかたのことは見逃してくれるよ。」
「そういうこと言っているとほんとに大切な友達をなくしちゃうよ!いつまでも当たり前に隣にいるわけじゃないんだからね。適当に扱っていたら後悔するよ」
「そうだね。そういえば研究のことで話があるんだけど」
ノアの忠告を聞き流し、強引に話題を切り替える。ノアはカフカが忠告を聞き流すことに少し怒りながらも、『言っても受け流されるだけか』と今日は諦める。『カフカちゃんが自分のことを話してくれるくらい、私もカフカちゃんを支えなきゃ』と、小さな誓いを立てる。
そんな折
「ねぇーお二人さん。ちょーっと私についてきてくれないかな。はー、飴玉位ならあげるよ。それともスイーツでも欲しいかな?」
話しかけてきたのは全体的に闇と病みが混じったような不吉な女性。腰に届くほどの黒髪と完全に据わった目、スローペースに話す口調が怪しさを倍増させている。
「何?いかにも怪しいおばさんは警察に通報しちゃうよ」
「カフカちゃんだめだよ!いくら怪しく感じても、不気味な見た目をしていても優しい対応をしてあげなきゃ。悪い人じゃないかもしれないし」
「ノアちゃんそれは無自覚に煽っているよ。それに怪しい人とかと対話なんて考えたらだめだよ。悪い人が悪い人って確定するのは結局悪いことが起こった後なんだから、善人な私たちにできるのは闘争か逃走のどっちかだよ。先手必勝。」
「カフカちゃんちょっとその言葉遊びはダサいかな」
気まずそうに微笑するノアを今日だけは無視するカフカ。仮定悪人登場にも怯まず二人の世界が展開される。
「何二人だけで話しちゃってるのー?あたしさー、そういう二人の世界あります、私
たち心から繋がっています、みたいなの大嫌いなんだよねー。あんまりさー調子にのらないでくれるかな」
一閃身にまとうワンピースの中から出した包丁を振り回し、カフカを攻撃する。
「あー悪人確定。だから何かされる前に行動すべきなんだよ。言葉なんかいらない」
軽口をたたきながら無軌道に振り下ろされる包丁をよける。包丁を大振りした所を避け、手首をつかみ、捻り、足をはじいて地面に叩きつける。仰向けに相手を組み伏せ、武器を取り上げて質問をする。
「君は誰かな?私たちを狙っていたのかな?それとも通り魔?」
「だれがお前らなんかに話すかー。聞きたいなら拷問でもしてみたら」
カフカは相手を拘束している手に力を入れる。『痛めつけて情報を』、というところで黒いワゴンカーが突っ込んでくる。
「カフカ様、ノア様無事ですか?」
「黒服くんはこの状況が無事に見える?」
ワゴンカーから降りてきた黒服で筋骨隆々とした男が心配した様子で話しかる。
「見た感じでは、お二人なら大丈夫でしょう。」
「この筋肉だけが取り柄のおっさんがー心配しろよ」
「黒服さんに失礼だよ!カフカちゃん」
当たりは強くともそこは旧知の仲。黒服は研究所勤務のエリートであり、二人の護衛を務めている。ノアとカフカを極秘に守るための研究所所属の部隊のトップである。
「それでどうしたの?基本は陰から見守るのが役目でしょう?私たちが安全に高校に通えるようにさ。それが出てくるってことは、この女はシンセリティの一員?」
「状況が変わりました。至急研究所まで帰りましょう。因みにその女は本当に誰ですか?」
焦った様子で黒服が二人を車に乗せる。
「本当に誰も知らない不審者なんだ。ちょっと驚いたね。で、こいつどうするの?」
「一応犯罪者なので研究所に連れて行きます。実験台にでもなるんじゃないですかね」
そんなことを話し合いながら研究所に向かう。
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