第2話
授業が開始する前に教室にたどり着いたノア。席に着くやいなや、友人の
「なんなのーもう!私を誘って学校についたと思ったら、カフカちゃんは簡単に私を放置して友達の所に行っちゃうんだよ。カフカちゃんは私を弄びすぎだよ。」
何だかんだシスコンなノアはカフカを自然に取っていく涼子に、無自覚に嫉妬している。涼子にそのつもりは全くないのだが。
「やっぱり仲いいですね、お姉さんと。でも仲良すぎて私とは全然遊んでくれないですね。」
「魅音とも遊びたいんだけどね。中々お家のことが忙しくて、遊べないんだよね。」
「私はノアと遊ぶためならなんでもしますよ。お家に逆らってもいいです。こんなにも親友である私がノアのことを思っているのに薄情ですね。」
「そんなことないって。よーし、よーし。今日はたくさんお話しようね。」
そう言って魅音の頭を撫でるノア。
「そんなことしたって、流されたりなんてしないんですからね」
魅音はノアの初めての友人。150センチ位のノアと比べても小柄な体格をしており、頭にはチャームポイントであるお団子を二つ作っている。
「それは学校の外じゃ会ってくれないってことですか?もうあいつをノアから引き離すしかないですかね。」
あいつとはもちろんノアを独占しているカフカのこと。『魅音は思い込みが強いから時々怖いことをいうなぁ』程度にしかノアは捉えていない。
「そんな怖いこと言わないの。魅音はわたしの親友だし、とっても大切な存在だから。家族のカフカちゃんとはまた大切の基準が違うよ。」
「じゃあ私もノアの家族になります。そうしたらもっと一緒にいる時間が増えますよね?私と結婚しましょう!」
「友達同士で結婚はしないんじゃないの?」
「する人もたくさんいますよ。だから私たちが結婚してもおかしくないですよ。」
常識不足なところがあるノアに、魅音は自分に有利な知識をいれていく
「うーん。でも私まだ結婚とかいいかな。それに家にはカフカちゃんがいるから、まだ他の人と生活したりとかは考えられないよ」
「なんでそこであいつが出てくるんですか!これは私たちの将来の話ですよ」
「カフカちゃんのことを“あいつ”とかって言わないでよ。いくら魅音でも私の大切な人のことをそんなに何度も悪く言うんだったら嫌いになっちゃうよ」
「ご、ごめんなさい。次からはちゃんと名前で呼ぶから許してください。嫌いにならないで」
「もう、冗談だよ。魅音がいなきゃ学校もつまらないからさ。ずっと一緒にいてね」
ナチュラルにタラシを発揮していくノア。
「やっぱりノアは私がいないとダメみたですね。それなら我慢するのが正妻の務めです」
「正妻?あはは、そうだね。」
魅音の妄言を軽くいなす。
ノアと魅音は高校で知り合い、二年続けて同じクラス。魅音の家は日本の財政界でも1、2を争う富と権力を持っている。上流階級が揃うこの学園の中でも、藪をつついて蛇を出してはいけないと避けられるほどの存在である。だから、基本的には二人組で行動することが多い。
「あの、ワタシもイッショにハナしていいですか。」
だが、今日はいつもと同じ日ではないらしい。話しかけてきたのは、最近留学してきたアメリカ人のニーナ。もちろんノアたちとはあまり話したことがない。
そもそも魅音の見せるノアへの独占欲の深さから、他の人はあまり話しかけてこない。だが、空気を読む文化などないアメリカ育ちのニーナには関係ない。
「もちろんだよ。えーと、ニーナでいいかな?私のことはノアって呼んでね。英語で話した方がいいかな?」
「ゼンゼン大丈夫です。thank you です。よろしくお願いいたします、ノア。」
『片言な日本語がかわいいなぁ』、と思いながら互いに自己紹介をしていく。ニーナは長いブロンズヘアーに、碧眼といういかにも外国人といった姿をしている。
「ニーナと話すのは初めてだね。なんで話しかけてきてくれたの?」
「前から二人ともかわいいとおもてました。だから話してみたくて」
「えー、嬉しい。ありがと。私もニーナのことは気になってたよ。でもあんまり話す機会がなかったね。」
会話を続ける二人とは対照的に魅音は黙りこくりながら、『どうやってこの女をノアから引き離しましょう。』と、よからぬことを考えている。露骨に排除しようとするとノアが怒ってしまうから悩みどころなのだ。
『自然に排除することが大事です』と不埒な思考を回す。
「ニーナは何で日本に来たの?」
「ワタシは、二ホンのジーニアスなサイエンティストに憧れて、キマシタ。」
この時代の日本は天才と言われる科学者を多く輩出し、日本国内に囲い込むことを成功している。世界のバランスが崩れかかっている現在、日本との同盟関係を強化し、日本の技術を盗みたいと考えるアメリカと、優秀な人材が欲しい日本の需要がマッチし、多種多様な人材の交流が行われている。ニーナもその交流の一環として日本に留学しにきている。
「そうなんだ。誰か好きな人とか、憧れの人はいるの?」
「ハイ。ワタシは冬羽を憧れています」
「そうなんですね。それなら話す暇もない位勉強しなきゃいけないんじゃないんですか?冬羽さんは若手の科学者の中でも飛びぬけた天才らしいですし、少しでも近づくように努力した方がいいですよ。」
魅音は取り敢えず、牽制のジャブをいれる。
「No problem。勉強は得意ですよ。今は色んな人とはなすのがワタシのためです。日本語の勉強がんばります!」
ニーナは現在13才であり、飛び級でこの学校に入学してきている。知能自体は大学クラスではあるのだが、まだ日本語に不慣れであるため、高卒資格を取るついでとして日本に早期留学をすることになったのだ。
「でも、冬羽は飛びぬけて天才ですから、勉強をもーっと頑張らないといけないのではないですか?」
「Life won‘twait。人生は一回キリです!だから、キュートなノアとも友達になります!でもいじわるな魅音は丁重にお断りします。」
「なんでそこだけ丁寧な日本語なんですか!それに私はいじわるなんかじゃありません。ですよね?ノア」
「まぁまぁ落ち着いて。三人で話そうね。それにまずは二人とも自己紹介から初めよう!」
『ニーナは魅音とも相性がよさそう。これから仲良くやれそうだな』、と楽観的に考える。
実態は猫と犬のじゃれ合いのようであり、魅音側もノアを本気で奪おうとしているわけでもないニーナを本気で排除しにかかってはいない。ノアに嫌われては元もこうもない。
ニーナも『これがジャパニーズツンデレですね』と良い方に捉えている。魅音の当たりの強い発言にも真っ向から立ち向かえるニーナはなんだかんだ相性がいいのだろう。
だから今はただ、新しい出会いを楽しむ三人。緩やかだが、心地の良い穏やかな時間が過ぎていく。
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