第6話

二人の話が脱線しかかったところでノアが本題に戻す。二人の情報の流失についてどう対処するかについてだ。


「そうだね。まずアマテラスを使って二人の情報についてはフェイクも混ぜて偽装したよ。烏と冬羽とわ=ノアとカフカということを掴んでも情報を得られないようにしておいた。」


アマテラスとはカフカが発案した凡用型AIを実現したもの。指令を与えるだけであらゆることを自己で判断し、実行してくれる。


「てことは、私たちの情報については相当優秀なAIかハッカーでもいないとゲットできないわけだね。」


「そういうことだね。加えてこのことを知った政府との取引により、外交筋からも他国に圧力をかけてもらった。二人を最重要要人に認定したと周知してもらい、危害が加えられることがあったら敵国認定。場合によっては戦争状態に入ることを勧告してもらったわけさね。」


「さすが葵ちゃんです。でも今の権力だけで、このレベルの圧力をかけるのは難しくないですか?」


「すまないね。そこは二人の未発表の研究成果を渡すこと、日本以外に技術を渡さないことを取引カードにさせてもらったよ。」


「まぁ仕方ないね。アメリカとの友好のために私たちを引き渡すとかされたら最悪だからね。」


この研究所は扱いとしては、民間の研究会社である。様々なところからの出資により成立している研究所であり、中には政治家以上の権力をもつ人たちからの出資もある。


最初は神成博士、今は葵の研究などが認められ多額の研究資金を拠出してもらっていたが、今回カフカたちのことが一部の権力者に認知されることになった。結果カフカとノアという超優秀な人材の流出を危惧する権力者に力により政府を言いなりにできたのだ。


「今の時点では研究結果と、正体がばれているらしいけど、学校行けるかな。」


「もう別に行かなくてもいいんじゃない。それよりも私と一緒に研究でもしようよ。学校行くより私といる方が楽しいよ。」


学校に行きたいノアとカフカで意見が割れる。


「嫌だよ!せっかくできた友達と離れたくないし、何より私はカフカちゃんと普通の青春を送りたい。」


「でも、私は少しでも長くノアと一緒に…」


「二人とも落ち着きな。カフカの気持ちも分かるが、今まで通りの生活を送る意味でも、何よりノアの言ったように他の人と仲良くすることも、世界を変える研究と同じくらい大事だよ。人生は一回キリですぐに終わっちゃうからね。」


ヒートアップしそうな二人の口論を葵が宥める。どちらも互いが大切なのだが大事ということのベクトルが異なり時々言い争いになってしまう。


「…分かったよ。わがまま言ってごめんノア。」


「私こそごめんね。カフカちゃんは私と少しでも長くいないと死んじゃう、うさぎさんってこと忘れてました。」


「そういわれると恥ずかしい。間違いではないんだけど。」


自分からノアに対して好きアピールをしているカフカも真正面から指摘されると照れてしまう。

ノアもそのことを心得ていて、『こういうところがかわいいなぁ』と内心思っている。


「まぁ安全に学校に通えることは保証するよ。大丈夫だろアサヒ?」


「もちろん僕が完璧に監視しているから大丈夫に決まっているよ。どんな情報でも僕の前では素っ裸さ。」


ホテルのラウンジのような大広間。そんな大広間の片隅にはバーカウンターが併設されている。アサヒは人工衛星を用いた情報研究をしている研究員であり、趣味としてバーテンダーもしている。


「アサヒさんがそういうなら大丈夫ですね。」


「でもアサヒ、そういう割には変なところでミスするからな。」


二人とは20歳ほど離れたアサヒの扱いは親戚のお兄ちゃんであり、二人との距離も近い。


「まぁ、今回二人の情報が各国の情報機関に送られる兆候を発見できなかったんだけどね。」


葵もちくりと毒づく。自分への自信が過剰なアサヒにはみんな、この位の扱いをする。優しく認めてあげるのはノアくらいである。


「はい、それは僕の失態ですね。二人だけじゃなくこの研究所の職員の情報は僕が守らないといけないのに。あぁーもう。美しくない。完璧じゃない。最悪だ。」


美しく、完全な状態を好むアサヒは失敗を攻めすぎる嫌いがある。


「まぁでもアサヒのことだから対抗策は考えたんでしょう?」


「あぁもちろん。失敗をそのままにする僕ではないよ。二人の情報はアマテラスを使

って他の所に漏れないようにした。今は二人に近づく奴の身元を割り出して除外するシステムを作っているところだよ。まぁ二人の周りだけなら二日もあったらできる。カフカが手伝ってくれたら今日中にもできる。黒服たちも配置したら問題なくどこへでも行けるよ。」


人工衛星を使いカフカたちの周りを監視することもアサヒなら容易い。いけ好かない言動以外は有能な男である。


「でも削除したはずの情報を復元して、どこかの国から手に入れた奴もいたんじゃがな。」


「うぅ。それはあいつが特異すぎるんだよ。僕の情報隠蔽は完璧だったはずだし、そもそも国の上層部にしか送られてない情報を何で手に入れられるんだよ。まずどこからその情報を知ったんだ!」


絶叫するアサヒ。自分が天才であると疑ってないため、自身が想定できないほどの天才には嫉妬し、恐怖してしまう。


「あいつって?アサヒがこうなるくらいの天才がいたの?」


「そうだね。少なくとも世界最高レベルのハッキングの天才と言っていい奴だよ。」


「そんな大物が私たちの情報を。誰なんですか?私たちの知っている人ですか?」


全く見当もつかない二人。研究所の誰かかと疑うも該当する人物もいない。


「そろそろ入ってくる頃だね。」


「え!その人ここに来るんですか。」


そんな話をしていた時大広間の扉が開く。そこにいたのは


「え、さっきのおばさんじゃん。何でここに入ってくるの。」


大広間にやって来たのは先ほど二人を襲った不気味な女。二人とも警察署にでも連れて行かれたのだろうと思っていたため驚きが大きい。


「ほらカフカちゃん。文脈からして…」


「この嫉妬に狂ったおばさんが天才なの?」


「誰が狂ったおばさんかなー?そっちのでかい方ほんとに殺すよ?」|


だがどうしてここになんの拘束もなく現れたのか疑問が残る。


「ふふっ。どうしてここで自由にしているか不思議な顔だねー。それはねー、私は今日からここの一員になったんだよー。つまりは研究職員。同僚。」


先ほど死闘を演じた不気味な女が同僚になるということに戸惑いが隠せない二人。

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