第34話 聖剣憑依
「
「剣聖の奥義とも言うべきスキルだ。聖剣を使わずとも剣聖本来の能力を用いることができるという……」
ヨスルはそこで言葉を飲みこんだ。
『
そのため以前のハイト・グラディウスはいつでもこのスキルを使用できるようにするため、高価な剣は使わずに騎士団支給の鉄剣を使っていた過去がある。
(グラディウス卿は他人の剣を蔑ろにするような人間ではない。使わねばならない状況、そして使えば彼女に勝てる可能性があったからこそ使ったのだろう)
娘には新しい剣を用意せねばならない。
そして彼が娘に頭を下げるときには、自分も一緒に頭を下げることをヨスルは心に誓った。
「虫けらごときがぁ、私に、歯向かうなどぉ!」
「その虫けらとやらに一度も攻撃を当てられていないお前は、一体何なのだろうな?」
「お黙りなさい!」
『
主の死、さらにはハイトの挑発を受けながらも、そう考えるだけの余裕があったのは、ハイトが『
相手に今の自分を止める手立てはない、アグネスはそう楽観していた。
「一つ、答え合わせをしてはくれないか、アグネス夫人」
「何をです!?」
「お前達の計画についてだ」
ハイトはアグネスの返事を待たず、話を続けた。
「騎士団の大部分を洗脳し、多大なる歳月をかけ人の国に潜伏したにしては、今回の作戦は随分と杜撰なことが気がかりだったのだ。ここまで入念な準備をかけたのであれば、それこそ俺にも気付かせないほどあっさりと王都を落とすことだって可能だったはず」
「何が言いたいのです!?」
「だがお前達はそれをせず、強引な決行に踏み切った。お前が自分の身を賭さなければならないほど強引にだ」
ハイトの言葉は正しかった。
ハイト自身、ガイロン・デュラムが魔人だということには気が付かなかった。それどころか大戦の英雄として崇められており、それは国民全員がその事実に気が付いていなかったということを指している。
「そこまでの信用を得たならば、物理的手段に講じずとも内部から国を崩壊させることも用意だっただろう。いや、洗脳対象に騎士団を選択している辺り、最初はそうするつもりだったのではないか?」
「だから、何が言いたいのです!」
「つまりお前達は、ある理由から強引にでも作戦の結構時期を早める必要があった。一つはこの世界にプレイヤーと呼ばれる不死身の人間が流入してきたこと」
これは考えれば当然の話だろう。
プレイヤーはアバターを様々な容姿に変更することができるものの、種族は必ず人族からゲームをスタートする。その人族を敵視している魔人が、死んでも蘇る彼らの存在を注視しないはずがない。
「カノーファスが殺されたことによって、お前達は明確にプレイヤーを脅威として認識した。そしてプレイヤーはその不死の力によって無限に等しい成長の可能性を持っている。出鼻を挫くのは早い方がいい」
「………」
「プレイヤーを殺すことはできずとも、活動拠点を潰せば痛手にはなるからな。そしてもう一つの理由、それは……魔王復活」
「な!?なぜそれを」
「……やはりそうか」
二つの目の理由に関して言えば、確証があったわけではなかった。
だが、プレイヤーの出現により、世界に変革が訪れるのは間違いないだろうというメタ的な予想、そして徒党を組まずに単独での行動を好むはずの魔人が、夫婦になりすまし長年協力関係にあったという事実。
ハイトと叶馬、二つの思考を持つ彼にとって、その二つの事案から魔王の再臨を予測するのは何ら難しいことではなかった。
「私を騙したのですね!?」
「長年国を騙し続けたお前がそれを言うか?」
「減らず口を……ですが、もうよろしいでしょう!」
アグネスの全身が赤黒く発光したかと思うと、付近に雷鳴が降り始めた。
「きゃ!?」
「サフィリア君は私の後ろに!」
「これが、
「あなたが散々無駄話を叩いてくれたお陰で、時間を稼ぐことができましたわ!喜びなさい、あなたが無駄にした数刻が、この国を滅ぼすのです!」
アグネスの周囲には雷が飛び交い、最早何人たりとも近づくことができない状態になっている。そんな絶望的な状況にもかかわらず、ハイトの目は極めて冷静だった。
「……時間を稼いでいたのは俺の方だ、アグネス」
権能を解放するには、それ相応の時間と代償が必要になる。
「あの世で自分の行いを後悔しなさい────
「
次の瞬間、黄金剣は粉々に砕け散った。
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