第33話 助太刀
「ハ、ハイトさん……?」
「助太刀する」
言うや否や、ハイトはメリッサから受け取った黄金色に輝く剣を構えると、
「断界」
そう一言小さく呟くと共に、フレイムサーペントの身体を縦に斬り裂く。
フレイムサーペントは悲鳴を上げることもできず、そのまま地面のしみとなった。
「なっ、サーペント!?」
「あの炎から、どうやって剣を守ったというのだ……?」
今使ったのが宵崎流剣術であることを知るのは、この場においてハイト・グラディウスただ一人だ。
本人は軽く剣を振って異常がないことを確かめると、一度剣を鞘に戻す。
グラドマギス・ワールドの高性能な鞘には、剣の耐久値を回復する機能が付けられているためだ。
「グラディウス卿、ガイロンは?」
「貴方は……シンセル卿か。安心されよ、既にヤツは討伐済みだ」
「「!!」」
「なんですって!?」
驚くのも無理はない。
ハイトの身体には傷らしい傷が見えない。
一応HPゲージは僅かに減少してはいるが、一国を滅ぼせるだけの力を持つ魔人を討伐したとは思えないほどの減少量だ。
一応【騎士】系統の職業には自己回復スキルの『セルフヒール』があるものの、回復量は通常のヒールに比べ微量、激戦の傷跡を癒すのは不可能なのだから。
「ありえないわ!ガイロン様が虫けらに敗北するなんて事実、あるはずがないでしょう!」
「信じるも疑うも自由だが、動きを止めて大丈夫なのか?」
「!?」
「やあっ!」
この中でハイトを除いて唯一、その事実を聞いて驚かず、冷静に戦況を把握しているものがいた。
アイシスだ。
彼女はアグネスから自分への注意が逸れたのを確認すると、一度戦線を離脱するフリをして背後に回り、隙だらけのアグネスに一撃を加える。
「鬱陶しいですわ!無駄だと言っているでしょう!」
アグネスはスキルによってHPを敵に確認できないようにしているが、今の一撃で減ったのは総量の2%ほど。
隙を突いてもこのダメージなのは、ひとえに彼女の
「そうでもなさそうだぞ?」
「!?」
確かに間違いではないが、それは無意味と同義ではなかった。
ハイトはアグネスがアイシスに放とうとしていた蹴りを、鞘に収まったままの剣で受け止めた。いくら魔人が人族にステータスで勝っているとはいえ、その人族は最強の呼び声高い【剣聖】。流石に相手が悪い。
そしてアグネスは一つミスを犯した。
魔術職でありながら、人族最強の剣士に接近を許すというミスを。
「ブ、ブループ────」
「遅い」
「があああああ!!」
この場では誰も見えないほどの速度で鞘から剣を引き抜いたハイトは、勢いそのままにアグネスの右腕を斬り落とした。
「い、今のは抜刀術か?何故【侍】でもないグラディウス卿があの技を」
「いえ、スキルではありません。ハイトさん個人の技術だと思います。恐らくプレイヤーの決闘を受けるうちに、自分で動きを学んだのでしょう」
勿論サフィリアの推理は外れである。真実は前世で培った技術だ。
「や、やってくれましたわねぇ……」
「散々王都を滅茶苦茶にした奴が吐けるセリフではないな」
「お黙りなさい!『クイックバースト』!」
爆発を利用してハイトから距離を取ろうとしたアグネス。しかしハイトは剣でその爆発を斬り裂き、アグネスに肉薄し続ける。
ハイトの持つ剣がその容貌を変えていることに、気付いているものはまだいない。
「借り物の剣に負担をかけるのは心苦しい。早く終わらせよう」
「舐めた口を……聞くんじゃないよ!」
「あれはいかん、距離を取りたまえグラディウス卿!」
アグネスの周囲に、視認できるほど濃密な魔力、MPが凝縮されていく。
「ここも不味いな、早く逃げるぞ!」
「ヨスルさん、あれは?」
「魔人族の固有自爆スキル『
「そんな……」
「ガイロン様ぁ!王都崩壊の悲願、このアグネスが身を賭して達成してみせましょう!」
魔人は人族を滅ぼすために存在している種族、そう言われている理由がここにある。
彼ら魔族は自らが命の危機に瀕した時、このスキルを使用することに躊躇いがない。
一切の躊躇も、命乞いもすることなく、まるで初めからそうすることを本能に刻み込まれているかのように、魔人は一人でも多くの人族を殺すために自分の命を捨てるのだ。
「グラディウス卿、一体何をしているんだ!いち早くこの場から離れなければ」
「どの道、今から逃げてももう遅い。なら、その前に倒すしかない」
「人族ごときがぁ、私に勝てると思うなぁ!」
自身の体に膨大なMPの注ぎ続けることにより、今のアグネスの肉体はある意味で限界を超えた強化が施されている状態。
先程とは異なり、分が悪いのはハイトの方だ。
だが、今のハイトは昔のハイトではない。防戦こそ、今の彼にとっては主戦場と言える。
「すごい、アグネスの攻撃を全部捌いている」
「アグネスの動き自体は素人のそれだが、速度はもはや私ですら視認するのがやっとの領域。森での修行が、彼をここまで強くしたと言うのか……」
「……ねぇヨスルさん。私の気のせいじゃなければあの剣、なんか見た目変わってない?」
「む?言われてみれば確かに……まさかあれは
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