第16話 ???①

「───あれ?」


「どうかしたか?」


「いやー、ベータの時にテスターの人達が躍起になって挑戦してたボスがいたじゃないっすか。あそこのボスが倒されたらしくて」


「ああ、将軍な。一か月以上経ってるんだし、別におかしな話じゃないだろ、むしろ遅いくらいじゃないか?」


「いやそれが、裏の不死王まで倒されたみたいなんすよ」


「……なんだと?」


「どうしたの?」


「あ、主任。不死王の討伐が確認されたらしく……」


「……なんですって?」


「先輩と似たような反応しますね」


「そりゃそうなるわよ、だって不死王ってカノでしょ?現行バージョンだとギリギリ討伐できるかどうかって難易度じゃなかった?」


「そのように調整したはずです。勿論、事前に対策をしっかりと練っていれば勝てるような難易度にはしていましたが……」


「初見で、しかも明らかに適正レベルには届いてないっすからね……見てくださいよこのデータ、アイシスってプレイヤーなんてまだ23レベっす」


「ダンジョンデータ、映像で見返してみましょうか……」





「……待て、このNPCは何だ?」


「あ~、剣聖っすね。王都近郊に住んでる鬼強NPCっす。どうやら不死王が取り込んだ騎士が知り合いだったみたいで、『セレクター』がストーリークエストを生成してたはずっす」


「映像を見る限り、想定外の討伐の原因はこいつにあるようだが?」


「それはそうみたいっすけど、だからってこっちに文句を言われても困るっすよ。こっちだって当然彼の存在は認識してたっす。事前のシュミレートじゃ7割で負けてたんで、不死王には対剣聖用の行動パターンを学習させて、ステータスも一部強化したんすから」


「その後のシュミレートでの勝率は?」


「最終的な計算では99.98%を記録したっす」


「……0.02%を引いたと?」


「いや、その端数みたいな数字は不死王が対剣聖用行動を選択しなかった場合の計算っす。つまり、その行動対剣聖用の必殺コンボを使った場合の勝率は100%っす」


「今回は使ってるのよね?」


「そうっす。あ、ここっすよ。自分が生み出したアンデッドを対象とした大量追尾雷砲撃。これ、撃たれた時点で絶対耐えきれないよう威力調整したんすけどねぇ……」


「プレイヤーがアンデッドの数を減らしているぞ。これが事前の計算を狂わせた可能性は?」


「いや、これだけの数が残っていれば絶対死んでるはずっす」


「シュミレートに問題があったんじゃない?」


「ありえないっすよ、計算に使用した『コマンダー』の精度は完璧っす。これに問題があるとすれば、グラマギのバランス調整を一から組み直す必要があるっす」


「……とりあえず、この件は上に持ち帰るわ。その剣聖ってNPCは定期的に監視しておくように。何かあったらすぐに報告しなさい。ダンジョンクリアによる問題は?」


「剣聖からのダンジョンクリア報酬によって、攻略に参加したプレイヤーの所持金がとんでもないことになってるっす」


「他プレイヤーとの格差が問題か……主任、どうします?」


「……高性能の装備品や希少素材の供給量を減少させて、価格を許容インフレ率のギリギリまで上がるように調整しなさい。高額商品に限定すれば、市場の混乱も抑えられるはずよ」


「了解っす」


「クレーム対応はどうしましょうか」


「一旦は従来通り『ピッチャー』に任せておいて。そっちはケアはウチの管轄じゃないし、向こうから反応があれば、私が聞いてくるから」


「分かりました」


「想定外なことは起きましたけど、とりあえずそこまで問題にはならなそうっすかね?」


「ああ。だが油断はするなよ」


「分かってるっすよ。剣聖の動向には可能な限り目を光らせておくっす」




♢ ♢ ♢




「……主。報告が」


「何だい?」


「【不死ノ王イモータルキング】カノーファスが討伐されました。それも、こちらの住人の手によって」


「……へぇ?彼、向こうに強化されてたでしょ、誰が殺ったの?」


「ハイト・グラディウスという人間です。職業は唯一職である【剣聖】、数年前に同僚がカノーファスの手によって殺されていたらしく、その仇討ちに向かったのではないかと」


「唯一職かぁ、なるほどねぇ。【不死ノ王イモータルキング】に【剣聖】が相手では流石に分が悪い……相性差で強化を退けたのかな」


「我々では戦闘の様子を垣間見ることは出来ませんので何とも……」


「それもそうだね。この討伐によって、向こうはどう動くかな?」


「それは分かりかねますが、向こうにとっても想定外の出来事であることは間違いありません。何かしらの行動を起こす可能性は高いかと」


「……例えば、ハイト君の拘束、もしくは殺害、とか?」


「個人的な思考としましては、流石にいきなりそこまでの真似をしでかすとは思えません。ですが、可能性を否定することもできません」


「……ハイト君に【潜伏王】をつけておいて。向こうの想定を超えるような人間は多い方がいい」


「仰せのままに」






「ハイト君かぁ……君は一体、どちらに転ぶのかな?できるのであれば、何者にも縛られず、君の意思のままに動いてくれることを願うよ」






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