第2話
私の病気による孔は、関連性なく発生するわけだけど、一つだけ奇妙な共通点がある。
それは、体表には孔は発生しない、ということ。……ありていに言えば、見える部分には決して現れない、ということ。
この特性がまた厄介で、幼少期痛みに泣きじゃくる私を両親は怪訝そうな顔で眺めていたっけ。なにせ、外傷は何処にもなく、なのに訳もなく泣きじゃくっている。しかも結構な頻度で。初めの方は、学校を休みたくて仮病を使ってるとか、体性感覚が敏感で些細なことを大げさに言ってるとか、色々と言われたもんだけど。
小二で喉に孔が空いて、血を吐き散らかした時に、初めてそれがある種の病気なのだと認知された。ま、そこから今の診断が下るまで、三年くらいかかったけどね。
見た目だけ見れば、私は大変健康優良児だ。背が少しばかり小さいのは、体内で起きた孔がホルモンバランスを崩してるかもとか言われてるけど。
まあ、ぱっと見は私はどこにでもいる普通の女子高生だ。中身にどれだけ激痛があろうが、それは表には決して現れない。それは痛みが理解されない、ということでもあるけれど。
顔に孔が空いたりしなくてよかったね、折角の美人だし、というのは病院で同室の奴の言葉だ。あまりの無神経ぶりに、そいつの尻に足が出たのもやむなしだろう。
こんな病気を抱えているものだから、私の人生ははっきり言ってろくなものじゃなかった。
いや別に、難病を抱えている人が須らく不幸なわけではないだろうから、私がろくでもないという話だけなのかもしれない。
「具体的にさ、そうやって身体が痛いとどういう不具合があるの?」
うーん、なんだろ、短気になる。
「ほう」
なんていうか、思考の大半が痛みの処理に使われちゃうから、他に回せる部分がなくなってくるんだよね。だから段々と、コントロールが効かなくなることが多いかな。
「私にもよく手とか足とか出るしねえ」
それに関しては、あんたにも責任がある。あとはまあ、集中力が続かないとか?
「ああ、なるほど。常に痛けりゃ、集中もできないか」
そう、あといつも叫ばないように必死に我慢してるから、何もしなくてもとにかく疲れる。
「ふーん、大変だねえ」
他人事だなあ、言い方が。
「そりゃあ、他人事だし」
ま、そりゃそうか。ああ、あと、他人のことをどっかで妬んだり、嫉んだり、無性に嫌いになるときがある。
「っていうーと?」
私が痛みに必死に耐えてる時も、世の中の大半の人は、別になーんにもいたくなくて、平然と暮らしてるんでしょう? それが阿保らしくて、しかも、私が痛みにうめいて出来ないことがあったとき、困った奴だなあみたいな目で見るのも腹が立つ。
「はっはっは、嫌われそう」
まあ、実際嫌われてる。親にもね。中学んときさ、あまりにも私が家で癇癪起こすもんだから、母親がぶちぎれて『あんたは、世界で自分が一番不幸だとでも思ってんの?』なんて言ってきたんだよ。絶望したね、あれは。
「へー、まあ、でも実際、世界でトップクラスに不幸じゃない?」
それはそう、正直心の中で、『そうだが?』って想ってたくらいだもん。
「たーいへんだね」
想ってないだろ。
「思ってはいるよ、多分、君程真剣じゃあないけどさ」
あ、そ。あんたは想ったことないわけ?
「世界で自分が一番不幸だ、って?」
世界で一番じゃなくても、自分の苦しさが全然理解されてないって感じること。
「あっはっはっは、若いなあ」
同い年でしょうが。
「あっはっはっは――――、あるに決まってんじゃん」
でしょ。
「世界で一番不幸だねえ、私達」
まあ、思い上がりだけどねえ。
「そう感じてしまうくらいには辛いってことなんじゃない?」
そう周りが解釈してくれたら、いいけどねえ。
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