第5話 独り占め計画

当日、俺は上司から撮影の補助をするように命じられた。

午前中はリハーサルで午後3時にどっきりのターゲットの仲山明日菜がマネージャーと現地すると聞かされた。

マネージャーさんは午前中のリハーサルに参加し、そのあと慌てて明日菜を迎えに行くのだと聞かされて裏方さんは大変だなぁと思った。


午前中のリハーサルではメンバーはターゲットの明日菜を取り囲む形で決められた位置にワニとして配置される。

真っ赤なウエットスーツに着替えたメンバーたちが配置に着く。

ディレクターの説明を聞く。

ワニたちは明日菜を取り囲む形で悠然と歩く。

着ぐるみで動くのが辛ければ、その場に寝そべった状態でも良しとされた。

次に絵里菜が水際から、観覧の柵を乗り越えてプールに飛び込んだマネージャー目掛けて泳ぎ出す。

マネージャーが飛び込む位置はプールの中でも一番深く水深3メートルほどある。

プールはだんだんと深くなるように作られている。

マネージャーは逃げ惑いながら、絵里菜に咬まれた演技をしながら、一番深い所で待機している2人ダイバーからワニの着ぐるみを受け取ると手伝ってもらいながら着替え、着替えを終えると陸へ向かって泳ぎ出す。

なんでもマネージャーは元シンクロの選手で水中はお手の物らしい。

大変なのはむしろ、絵里菜の方かもしれない。

ワニの着ぐるみを着て泳ぎ、こちらもダイバーからニセマネージャーを受け取ると咬み千切る演技が要求される。


どっきりの内容はこれで粗方分かった。

俺の役目はワニの動きの不自然なメンバーを指導する事など。


どっきりの内容を聞きながら、俺は愛菜の位置を確認していた。

『 !!! 』

一番端の目立たない場所、かつ室内プールも近く拉致しやすい。

おまけにマネージャーが飛び込む位置が愛菜の位置から一番遠く離れた位置だった。

つまり、飛び込んだ瞬間に本物のワニと愛菜の入った着ぐるみのワニを入れ替える事が可能な条件が揃った。

これは神の思し召しか、一人そんな事を考えながら、【愛菜独り占め計画】が再燃した。


スタッフに声をかけられる。

「あのー」

俺は計画がバレたのかと異常にビックリしてしまった。

俺のビックリする様子を見て、スタッフは謝罪しこう言った。

「あなた、ファンじゃないですか?彼女たちの」

俺は物凄い勢いで頷いた。

「リハーサルが終わったので、良かったらサインと握手どうですか?どっきりの後だと彼女たち水に濡れてるので」

俺は「いいんですか?ファンなんです!!ヤッター!!」思わず声を上げた。

そして声を荒げたままスタッフと両手で握手した。


その後、1人ずつ握手の後、サインをもらった。

みんな可愛く、凄くいい笑顔、握手してサインをもらったメンバー次々に推しメンを乗り換えてしまいそうだった。

でも、やっぱり愛菜は可愛いかった。

俺の思いが何となく通じているような気がした。

最後に水に入っていた絵里菜、こちらはクールビューティー。

耳元で何か囁かれるだけで腰が砕けてしまいそうになるだろうと、勝手に妄想した。



昼からはいよいよワニの着ぐるみを着てリハーサル。

5匹のワニは動きとマネージャーの足を引き千切る役のワニは動きの確認を行った。

絵里菜は実際に尻尾に入れた右足で、ワニらしく泳げるかの確認を行った。


そして、明日菜が到着した連絡が入り、着ぐるみのワニたちにも緊張が走る。

その空気は俺にも伝わってきた。


そして俺は室内プールへ待避した。

しばらくしてスタッフと明日菜、それに上司が一緒にやって来た。

扉の前ではペンギンにあげる予定の餌の入ったバケツを持って元気いっぱいコメントする明日菜。

その後、上司がニヤけた顔で明日菜に餌やりの説明をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る