第4話 マナカトオル
アイドルグループ ENAMEL STYLE 7菜(エナメルスタイルなな)は名前に菜のつく女の子7人で構成され、センターに絶対的エース仲山明日菜を有する今、勢いのあるアイドルだ。
俺、真菜下 透もファンの一人だ。
俺の推しメンは伊都川 愛菜。
可愛さは他のメンバーに引けをとらないが、ダンスや歌唱力が飛び抜けている訳ではない。
バラエティ番組でしばしば超天然ぶりを発揮、時には番組の最中でも寝てしまうほどであった。
そんな愛菜が他のメンバーより飛び抜けているものがスタイルの良さ、そして巨乳。
俺はそんな愛菜を愛して止まなかった。
半年ほど前、上司からテレビ関係の対応を任された。
内容はワニの着ぐるみを作りたいのでワニの型を取らせて欲しいとの事。
定期検査の際、ワニを眠らせて行うので、同じ要領で眠らせて型を取ってもらえばいいかと考えていた。
当日、テレビ関係の造形を手がける方と名刺交換をした後、ワニのプールへ移動、そこで適当な大きさのワニを選定し眠らせて型を取り始めた。
型を取るのに約3時間ほどかかるという事で薬の量を調整してワニを眠らせた。
型が固まるまで、しばし時間があった為、造形の方といろいろお話しした。
うちのワニから取った型を元にワニの着ぐるみを作製し、どっきりの番組に使用するとの事。
正直、それほど興味はなかった。
造形の方がワニの着ぐるみに入って操演する人たちの事を口にするまでは。
俺はワニの着ぐるみに入る愛菜を想像して、興奮しながらその日の仕事を終えた。
家に帰ってからもその事が離れない。
その番組はチェックして録画しなければと浮き浮きしていた。
それからワニの着ぐるみのどっきりの事は頭の片隅に僅かに残っている程度になっていた、そんな時上司からワニのプールを綺麗に維持するように命じられた。
ワニの屋外プールは先日、塗装の塗り替えを終えたばかりで綺麗すぎるほどだったのに。
疑問に思っていると、俺の表情から何か察した上司が1ヶ月後どっきりの撮影にうちのワニのプールを使用する事を教えてくれた。
その途端、俺の表情は明るくなった。
愛菜を間近で見られる。
サインはもらえるか?
握手はしてもらえるか?
などさまざまな妄想が膨らんだ。
翌日、清掃の為、ワニたちを屋内プールへと誘導するが、1匹だけ眠り込んで動かないワニがいた。
こんな時は、ワニの大きな口が開かない道具を使い、口を開かなくしてから移動させる。
そのワニ作業をしている時、ワニと愛菜が重なった。
そして俺はある事が閃いた。
愛菜はよく眠る。
ワニの着ぐるみに入って気持ちよくなると眠ってしまうかもしれない。
それをメンバーもスタッフも、普段の愛菜を見ていると何も不思議に思わないだろう。
予め眠らせたワニと愛菜の入った着ぐるみのワニを入れ替える事ができるのではないか。
そんな犯罪紛いな事を想像した。
しかし、実際当日、メンバーがワニの着ぐるみを着たら、どれが愛菜か区別できない。
仮に愛菜のワニが分かっても拉致できるような場所でなければ、カメラに映り込んだりしたら実行不可能だ。
そして2つの条件をクリアしても、目覚めた愛菜に騒がれでもしたらそれで計画は終わってしまう。
会えるだけでも幸せと思うしかない。
そう自己完結させて【愛菜独り占め計画】は幕を下ろした。
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