第2話 ドッキリ大成功


「それでは一つずつ検証していきましょう!」

「明日菜さん一番気になる事は何ですか?」

明日菜の憔悴しきった様子とは対照的で、ハイテンションの進行役の男性が声をかける。


まだ、状況を全部飲み込めていない明日菜だったが、ハッとすると、「マネージャー、マネージャーは大丈夫なんですか?」と震える声で言った。


「マネージャーさんですね」

進行役の男性は明日菜と対照的に落ち着いた感じで明日菜に問いかける。


そう、ワニのいるプールに飛び込み明日菜の救出を試み、ワニに体を喰い千切られたマネージャー。

ウエットスーツに包まれ、プール近くに落ちている足の確認に向かう。

進行役の男性が足を拾い上げて明日菜に渡す。


確かにマネージャーが着替えてきたウエットスーツだが、近くで見ると明らかな作り物の足首が付いているだけで、太もも部分には血糊の入っていたであろう破れたビニール袋があった。


涙を零しながらそれを確認した明日菜に進行役の男性が声をかける。

「始めワニと遭遇した時、明日菜さんワニの数を数えてましたよね」

そう聞かれた明日菜はコクリと頷き「6匹でした」と返す。


「それではワニは今、何匹ですか?」

進行役の男性に聞かれて明日菜は周りを見渡しながらワニを数え始めた、そして。

「え!7匹に増えてる!」

ビックリして進行役の男性の顔を見る。

そんな明日菜に1匹のワニがゆっくりと近づいてくる。


近づいてきた本物と見間違えるほどのワニの中からくぐもった声で「明日菜ゴメンね」という声と共にワニは短い後脚で立ち上がり、明日菜に抱き着いてきた。

明日菜は驚いて逃げ腰になっていたが、逃げきれずにワニを受けとめる形で倒れた。

ワニの口が大きく開き、その中にマネージャーの顔を見つけた明日菜は自分からワニに抱きついた。

そして、明日菜の目から涙が零れる。

「よかった!無事で!」


マネージャーがワニの着ぐるみの中で体を揺らせて、脱ごうとするのに気づいた明日菜がそれを手伝う。

マネージャーはワニの着ぐるみを脱ぐと明日菜と再び抱き合った。

仕掛人であるマネージャーの目からも涙が零れていた。


進行役の男性が明日菜に聞く。

「マネージャーさんが以前、スポーツ選手だったことはご存知ですか?」

明日菜は「はい」と言って続ける。

「確か、シンクロの選手だったと思います」


「正解です、だから水の中でワニの着ぐるみに着替える事ができたんです」

と進行役の男性は少しずつどっきりについて分かりやすくバラしていく。 

「では、明日菜さんのグループの中で水泳が得意な方は?」


明日菜は口に手を当て、右斜め上を見て考える。

「うん、確か、絵里菜が水泳得意だったと思います」

そう明日菜が答えると、プール近くにいたワニが立ち上がった。

そのワニには不自然な点があった、後脚の右側がダラリと垂れ下がっている。

そして、左後脚と尻尾で立ち上がり明日菜の方へと歩き始めた。


進行役の男性が説明を始める。

「マネージャーさんがプールに飛び込んだ際、襲ったワニは水泳の得意な絵里菜さんでした!」

「因みに絵里菜さんは泳ぎやすいように右足は尻尾に入れてました」


それを聞いた明日菜はワニの泳ぐ速さに驚いていたのだが、説明を聞いて納得した様子だった。

絵里菜の存在で、明日菜はある事に気づき、改めてワニの数を数え始めた。


それを見ていた進行役の男性が笑みを浮かべて話し始める。

「明日菜さん、何か気づきましたね」


進行役の男性と目が合った明日菜はコクリと頷いた。


明日菜の近くまで来た絵里菜が、ワニの着ぐるみを脱いで真っ赤なウエットスーツ姿で明日菜の横に並んだ。

「私たちは7人グループ、私に絵里菜、莉菜に和佳菜、茉莉菜に愛菜、そして美菜」

「ワニが5匹でここにいないメンバーが5人という事は誰でも分かりますよね」

明日菜にようやく笑顔が戻った。

他のワニたちもゾロゾロと集まり

「どっきり大成功!」と皆で叫んで、ロケは終了。

スタッフの先導で控え室へ移動を始めた。


ワニの着ぐるみに入っていた他のメンバーたちも自力で着ぐるみを脱ぐ者、スタッフに助けを求めて脱がせてもらう者、さまざまだ。

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