番組ロケ拉致事件
ごむらば
第1話 どっきり本番
女性アイドルグループの中心的存在の仲山明日菜。
そんな彼女が動物の餌やり挑戦する。
その動物はペンギン。
可愛らしいウエットスーツに着替えた明日菜が、ペンギンたちの為に、小魚の入ったバケツを持って元気いっぱいコメント。
「これから、可愛いペンギンさんたちにエサをあげたいと思います!」
勢いよく扉を開けて入ったのは、隣のワニのスペース。
ワニのスペースはワニたちが逃げないように、オートロックになっているので一度扉が閉まると出られない。
ワニを見て呆気に取られた明日菜はドアを閉めてしまった。
おまけにこの扉は外側からも内側からも鍵がないと開かない構造になっていた。
間違えてワニのスペースへスタッフが誤って誘導。
たまたま、開錠されていたので明日菜はワニのスペースに入ることが出来たが出られなくなった。
扉の向こうで慌てた声のスタッフが聞こえる。
観覧の柵の向こうでは隣のペンギンスペースから、スタッフ、カメラマンが慌てて移動している。
ただならぬ様子でバタバタしているスタッフに混じって、女性マネージャーが、紙に文字を書いて明日菜に見せた。
『焦らないで!大きな声を出さないで!
必ず助けるから!!』
その文字を見て明日菜は涙を流しながら、静かに頷いた。
その間も大小6匹のワニたちは動いたり、水に浸かったり、寝そべったりしていた。
明日菜は恐怖に慄きながら、助けをジッと待つ。
女性マネージャーを見ると、何かをスタッフに指示しているが、モタモタしているスタッフを見兼ねて何処かへ走っていってしまった。
冬が近づき肌寒い日も多くなったこんな季節だが、明日菜のウエットスーツの中は嫌な汗が止まらなくなっていた。
死を覚悟した明日菜は色々と思い返し、後悔していた。
グループのメンバーにひどい事を言ったりしてきたから自分はこんな目にあっているだと。
そんな事を考えていると、涙がさらに溢れてきた。
どれくらい突っ立ているだろう。
そんなに時間は経っていないはずだが、極度の緊張から足が痺れて感覚がなくなってきた。
そんな時、観覧の柵の向こうにウエットスーツに着替えたマネージャーが現れた。
30歳そこそこのマネージャーのスタイルは、良さそうだと思っていたが、ピッチリとしたウエットスーツを着たことで、それがより強調されている。
そんな事より明日菜はマネージャーがウエットスーツに着替えて何をしようとしているのか、考えた時だった。
マネージャーがワニのプールに飛び込んだ。
“バッシャーン“大きな音と水飛沫を上げた。
当然その音にワニたちは反応、水に浸かっていたワニはゆっくりとマネージャーの方へと泳ぎ出した。
声を抑え、涙目になりながら必死でワニから遠ざかろうとするマネージャーだったが、1匹のワニはあっさりと追いつくとマネージャーの足を咬んで水の中へと引き摺り込む。
同時にプールの水が赤く染まった。
それを見た明日菜は座り込み、顔を押さえて声を殺して泣いた。
ワニはマネージャーを頭から胴体の半分までかぶりつき、陸へあがってきた。
それを見つけた他のワニたちも力なく放り出された彼女の足にかぶりつき、引き千切ると辺りを血の海に変えた。
明日菜はもう座り込んで泣くことしかできなかった。
そんな明日菜にゆっくりと7匹のワニたちが近づく。
しかし、明日菜には逃げる気力すら残ってない。
目の前まで、ワニたちが集まって来た。
明日菜は体を丸めて、グッと力を込めた。
「もうダメだ」小さく呟いた。
明日菜の俯き、隙間から差していた光がなくなると同時に水滴が落ちてくる。
“食べるなら早く食べて!私の大好きなマネージャーはもういない!“
明日菜の頭にワニの前脚が触れた。
水が顔を伝っていく。
“もう助からないなら、一思いにやって!“
体を固くしてそう思う明日菜。
だが、一向にワニが襲ってくる気配がない。
それどころか、微かではあるが「クスクス」と笑いを堪えるような声も聞こえて来た。
不思議に思った明日菜が、顔を上げると1匹のワニが覆い被さって来た。
ワニの凶悪な鋭い歯が目前にあり、明日菜は腰を抜かしながらも覆い被さったワニから逃れようと、体を反転させて扉へ向かって必死に這った。
突然、扉が開きカメラマンを筆頭にスタッフがなだれ込む。
「どっきり、大成功!!」
何が起こったのか分からず、茫然自失の明日菜。
ただ、明日菜の目から、安心からか止めどなく涙が流れた。
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