第14話 ブーム
「今日も平和じゃのぉ」
小高い丘の上、のんびりと体育座りをした爺は佇んでいた。
自分の話し方が定着しない爺。いい年したおっさん、爺とはどうあるべきか、普通に話してみたが、なんとなくしっくりこない。
自分の横にお座りし、すりすりと身体を寄せて来る生物の頭を撫で、そんなくだらない事を考える。
ジョブ発見から3か月、停滞していた人類は活発に動き出している。
爺たちが検証した職業システム。実際には、即世間に広まったわけではない。
動画を見ていた人物の一人が、某有名配信者へメッセージを送った事が切っ掛けだった。
その人物は半信半疑ながらも、事実確認を行った。
相手がデイツーであり、配信者自身もLVがそれなりにあった。攻撃の特性から命の危険が少ない事も実行理由の一つであろう。
「流石登録者数250万人超、影響力が違うのぉ」
そこからはあっと言う間である。
たとえLVが1になったとしても、その恩恵は計り知れない。
中でも特に沸き立ったのが自称魔法使いたちである。
スクロールを使用することで覚えていた魔法。牽制程度にしか使えなかった魔法。
だが職業を手にした時、その実態が違うものであると解った。基本属性、魔法を使うためのチュートリアルなのだと。
現在はその事実確認中である。
〇●〇●〇●〇●〇
今まで魔法が使えない男の冒険者が居た。
偶然か、それとも…。
男はとある配信を見ていた。
前日の冒険で、仲間の1人がケガをしたのだ。大事を取って全員休暇となった。大学生である男は、突然の休暇で暇を持て余していた。
「日曜の昼って特に見たい番組もないし、出掛ける気も起きないな」
ブツブツ独り言を呟き、動画サイトを巡回している。
そして奇妙な配信に辿り着く。
仮面をかぶった3人の人物。
女性が2人に男性が1人。2人は男をお爺ちゃんと呼ぶ。
「家族配信かな?」
何気なくチャンネル名を確認する、三姉妹チャンネルとなっていた。
「三姉妹って、2人とおっさんじゃん」
検証動画らしい、概要欄を確認した男は何を考えるでもなく、ぼうっと眺めていた。
「いやそんなモンスターいな…、居たわ」
おっさんが語る対象モンスターにアレを思い出す。
動画映えを考えた訳では無いが面白くなるかも、そんな考えで男はデイツーの名を入力した。
女の子2人が、ギャアギャア言いながらデイツーと戦闘を繰り返す姿は何とも言えない気持ちになる。
夕飯をどうするか、ただ眺めていた動画だったが、それなりに面白かった。気が付けば夕暮れ時である。
ダンジョン入り口へと帰還した3人。そろそろ配信も終わりであろう。
そこで状況は一変する。
「職業だって!?」
勢い良く立ち上がった男は叫ぶ。配信内で語られる職業を聞くと、居ても経っても居られなくなる。
魔法に憧れる男。
今のPTでは盾を持ったアタッカー。
「冒険、冒険…か」
おっさんの言葉に普段の自分達の行いを考える。
小遣い稼ぎで始めた冒険者、やっている事と言えば金稼ぎとLVを上げ、単調な作業の繰り返しであった。
「デイツー、デイツーか、なら」
男はそんな事を言いながら支度を開始していた。
「晩飯はコンビニのおにぎりでいっか」
身支度を済ませ、男は飛び出していく。
「俺は黒の魔術師になる!」
数時間後、時計の針が頂点を迎える深夜、男は念願の魔術師となっていた。
男は落ち込んでいた。
憧れの魔法使い、黒の魔術師の職業を手に入れるのだが魔法は使えなかった。
ステータスを確認したその男は落ち込む。
当時のLV1、それを上回るステータスであった。魔法使い寄りなのか、知能系のステータスが高い。
だが、魔法は表示されていなかった。
「こんなにがんばったのに…、魔法って、魔術師になれば自然と覚えるんじゃないのか、やっぱスクロール手に入れないとダメなのかな…」
ドロップ率が比較的悪い魔法スクロール。
男が所属するPTでは、女性陣2人と遠隔攻撃型の1人が使っていた。
たった1人、深夜まで戦い続けた男は、ステータス画面の前で泣きそうであった。
「…なんだこれ?」
ステータス画面の下、そこには目立たぬように矢印が表示されていた。指を動かせばスルスルと画面が流れていく。
『現在魔法は使えません』
「ステータスにまで…、俺って魔法使い向きじゃないのかな~」
表示を確認し、さらに落ち込みそうになる。
だが、そこに表示された文字を確認した男は即座に頭を切り替えた。
ステータス画面をスクロールさせた先、そこにはある表示が在ったのだ。
『基本属性の魔法スクロールをセットしてください』
表示された文字の下、セットすべき項目は4つ。そして思い浮かべたのがランク1で手に入る6つの魔法スクロール、火・水・土・風・光・闇の存在であった。
翌日、大学へ登校すると、男は魔法スクロールを手に入れるべく、仲間達に協力を求める。
男の言葉に困惑したのは仲間達であった。
アタッカーであり盾役であった人物が、突然黒の魔術師になったという。
仲間達に相談することなく職業を変更した男。PTとしてはアタッカーを失い、尚且つLV1のお荷物を手に入れた事になる。
絆の浅いPTであれば、即追放だったであろう。
「その話本当なのか?」
PTのリーダーである人物が、興味深そうに尋ねる。
「おう!まずこれを見てくれよ」
ステータスを表示させ、仲間達にみせる。
「ふむ、これが事実なら、我々にも丁度いいな」
「何が?」
「俺達も最近行き詰まっていた、職業がどんな恩恵を齎してくれるのか、十分検討す素価値はある。幸いと言うべきか、お前はここまで魔法は取っていない。魔法を持っていなかった人物が、職業を得る事でどうなるのか、それならやる事は一つだろう」
リーダーの言葉に全員が首を傾げる。
「検証だよ」
「動画の準備はできてるか?」
「おっけー」
「まず、服部が風の魔法を使い、魔術師となった
現在彼らが手に入れた魔法は2つ、火と風である。
「楽しみね」
「だよね~、でも本当に黒の魔術師なんて在るの?表示のバグじゃないのかな」
2人いる女性陣、未だ職業を信用していない。
「それも含めての検証だ、始めてくれ」
「んじゃ、はじめるぞ。ウィンド」
呟きと共に右手に魔術光が巻き付くように発生、手のひらに風の刃が生まれると、刃を近くに居たモンスターへと投げつける。
見慣れた光景、魔法攻撃を受けたモンスターはよろめきながらも、未だ塵となっていない。
「ほいっと」
止めを刺すべく、別の人物が横から攻撃を仕掛ける。剣が深々と突き刺さるとモンスターは塵となった。
「これ相手が弱すぎないか?」
検証対象に不満をつげる。
彼らはランク1ダンジョンに居た。
スクロールを手に入れる目的と、ランク1モンスターに対し、活用できるかの検証であった。
「いいや、何が起こるかわからない。安全は第一だろう」
「おけ、じゃ次な」
標的を探しながら彰は答える。
「よし!いっちょ魔術師の力を見せてやりますか。ウインド【I】」
変化は段違いであった。
身体中から発生した緑色の魔力光が立ち昇る。
「え?」
「なにこれ!?」
モンスターの周囲に突然現れた魔力光、緑色の光が弾ける。
ズバババン!
三度の斬撃を受けたモンスターは、一瞬で塵となった。
「…すげー」
「何だこれは」
数秒の出来事であった、だがその衝撃は隠せない。
「おい彰!今のLVはいくつだ!?」
「LVは4だな…」
「革命的じゃないの!」
「すごいわ…」
「おいおい、なんだよこれ!どうなってんだ!」
「まてまてまてまて、一度に言われてもわからん、それに俺自身がいちばん良く解ってない!」
仲間に詰め寄られ、慌てる男。
「聞きたいことは山ほどあるが、彰、ウィンドの最後に何か付け加えたな、アレは何だ?」
「え?魔法呪文じゃないのか」
「いや、通常風の呪文はウィンドのみだ」
「って言われても、ステータスにはそう書いてあった」
「となると同じ呪文なのか、違う呪文なのか気になるな。それに魔力の収束位置も気になる。片腕だけ発光し手に集まった服部、身体全体から発光し、モンスターへと収束していく彰。これだけでもかなり違う」
「うん、そうだよね」
「違うというか、別物よ」
リーダーの言葉を聞いていた女性陣が答える。
「これは検証し甲斐がありそうだ」
ニヤリと不敵に笑うリーダー。
「あ、これって」
「不味いわね~」
「どうすんだよ、完全にスイッチはいっちまったぞ」
「それ俺の責任か?俺が悪いのか?」
仲間たちは知っている、彼がどんな性格なのか。そして恐れる。
「さあ始めようじゃないか!まずは全属性魔法を手に入れよう、なにせステータスには4つをセットしろと在ったんだ!全部セットしたらどうなる?興味が尽きないぞ!手に入れたら検証再開だ!な~に、あとたった4つだ、みんなで頑張ればすぐだよ!」
「2つドロップさせるのに、すでに1日掛かりなんですけど~」
「付き合うしかないのね」
とは女性陣の嘆き。
「いやいやいや!魔法より職業だろ!職業GETだろ!」
「そうだそうだ!俺も職業取りたい!」
男性陣が騒ぎ出す。それを聞いた女性陣もまた職業の有利性に思い当たる。実際目にして感じ取ったのだ、男共の言い分ももっともだと考える。そんな仲間たちの言葉にリーダーは。
「いや、職業は後回しだ」
「…理由を聞いても?」
そう彰が尋ねると、リーダーは。
「俺が検証したい!!!」
「「「「「………」」」」」
「職業を得る事で発生する、LVの開きが気になるし、まず全員職業を取るってことでいいかな?」
「「「「賛成」」」」
彰の言葉に他全員が賛同する。
「いーーーやーーーだーーーー!」
「そう言うなって、検証するにしても、全員新職業でやった方が効率よくないか?」
「いいや、違うね!それだと比較対象が居なくなってしまう。なにより安全マージンが無くなってしまう!未知の職業、LV1になる事でのデメリット、俺はみんなの安全を優先する!」
「あ~それも一理あるのかしら」
「う~ん確かにそうかもね、全員で一度にLV1とか、ちょっと怖いかな」
「なるほど、一応考えてはいたんだな」
やいのやいのの言い合う仲間達が出した結論は、このまま検証を続行する。であった。
「なあリーダー、検証してそれからどうするんだ?どこかに発表するのか?この情報は人類にとってかなり有益だぞ」
「ああ、わかっている。だが普通に公表しても時間が掛かってしまう。それに、あまり考えたくはないが、心無い奴らに独占されても困る」
「あぁ~お偉いさんとか、大企業とか、独占したい情報かもね」
「で考えたんだが、この情報をまとめたら妹に渡そうと考えている」
「ああ~いい考えだわ」
「良いかもしれんな」
リーダーは不適に語る。
「ああ、何せ200万越えの配信者だ。有効に活用させてもらうさ」
と。
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